石垣島出身のシンガー・ソングライター、成底ゆう子がミニアルバム『島心~しまぐくる~』をリリース 「『生きている歓び』を歌うと、ちむどんどんしてきます!」

2024.9.12

BIGIN夏川りみら、そうそうたるミュージシャンを生んできた沖縄県・石垣島。シンガー・ソングライターの成底(なりそこ)ゆう子もまた、八重山民謡が聴こえてくる、この美しい歌の島に育まれたひとりだ。2010年のメジャーデビューから14年、9月18日に4年半ぶりの新作となるミニアルバム『島心~しまぐくる~』をリリースする。幼少期からピアノと合唱を学び、音大では声楽科を専攻し、オペラ歌手を目指していたというポップミュージックでは異色の経歴の持ち主だが、その温かく透き通るような歌声は、晩年の名優・森繁久彌がほれ込み、“次世代へ託したい奇跡の歌声”と高く評価したほど。そして全6曲からなる本作で彼女が歌うのは、ふるさと、そして家族への強い想い。リード曲でもある、生きていることへの歓びを圧倒的なヴォーカルで表現する生命賛歌『生きている歓び』(作詞:鮎川めぐみ、作曲:成底ゆう子、編曲:山本健太)をはじめ、収録各曲に込めた思いを聞いた。


心の中から湧き上がるような力強さをもった作品が完成

――4年半ぶりの新作となりますが、アルバムを通した全体のテーマはありますか?

アルバム3曲目の『音(おん)がえし』(作詞・曲:成底ゆう子、編曲:山本健太)という作品のタイトルが表しているのですが、音楽での「恩返し」がこのアルバム全体のテーマにもなっています。島に生まれたからこそ歌える「ふるさとへの想い」や離れて暮らしているからわかる「家族への愛情」などを歌にしました。また、今回、4年半ぶりにアルバムを制作するということで、二つの挑戦をしたんです。まず一つ目が、作詞家の先生と一緒に作品作りをすること。リード曲『生きている歓び』の詞を鮎川めぐみさんに、『光と風の島』の詞を保岡直樹さんに提供いただきました(作曲:成底ゆう子、編曲:山本健太)。もう一つのチャレンジがファーストアルバム以来、ずっと歌わせていただいている『ダイナミック琉球』(作詞:平田大一、作曲:井熊朗)の表現をどこまで深められるかということです。そこで今回は「Acoustic version」として、ピアノ弾き語りに挑みました。

――アルバムが完成して現在の率直な気持ちを聞かせてください。

4年半前にリリースした『ダイナリズム〜琉球の風〜』は、デビュー10周年記念のベストアルバムで、私としてはいったん節目という感じだったんです。そこから新たな始まりとして今回収録している曲をはじめ、さまざまな曲を作ってきましたので、このような形でリリースすることができて、頑張ってきてよかったなという気持ちがあります。私は“ケルティック島人(シマンチュ)”を新たな成底ゆう子のテーマにしていきたいと考えています。ふるさとへの想いや家族との絆を歌うことはもともと自分のベースとしてきましたが、そこから一歩踏み出した新しい世界観を作りたかったんです。自分の曲ですけど、このアルバムを聴いていると、心の中が湧き上がるような力強さを感じられ、本当にいい作品ができたなと感じています。

作詞家との創作で刺激を受け、自作の詞も変わった

――今回、ご自身の詞だけではなく、作詞家の方と一緒に新曲を創作しようと思ったのはなぜでしょう?

やっぱり新しい成底ゆう子を引き出していただけると思ったからです。思いがある分、自分の言葉で書くと素直に歌えるのですが、自分のメロディーに提供いただいた歌詞をつけて歌ったら、どのような成底ゆう子が出てくるかは本当に未知の世界でした。自分とは異なる目線から作っていただいた歌詞でどれくらいの表現ができるかにチャレンジしました。プロの作詞家の方とご一緒したことは、これまでの成底ゆう子の表現や言葉を壊すのではなく、揉んでみることで、新しいものが生みだされていくような感覚でした。島の空気感を感じさせる先生方の歌詞に刺激を受けて、実は自作の歌詞も変わったんです。『赤瓦の家』(作詞・曲:成底ゆう子)は、当初の歌詞が完成版では180度といえるくらい変わりました。島の優しい風がふわーっと自分のなかにあふれでてきて、今まで書いていた歌詞とは、まったく違う言葉が出てくるようになりました。

――作詞家の先生方の歌詞で、特に印象的なフレーズはありましたか。

まず『生きている歓び』というタイトルにはびっくりしました。「『生きている歓び』っていう言葉は、どうやって出てきたんですか?」と鮎川さんにお聞きしたんです。そうしたら、「違うよ。成底さんが言ったんだよ!」っておっしゃって。自分では忘れていましたが、制作初期の打ち合わせで曲のイメージをお伝えする際に私が出したワードを、鮎川さんが「これ、タイトルにいいかもね」と採用してくださったんです。

――その打ち合わせの様子がYouTubeチャンネル「ゆうちゃんぷる。」にアップされていますね。

自分の中でこの歌詞を求めていたのかなとも感じます。この曲を歌っていると、「生きているってすごくない?」という、突き上げるような歓びが湧いてきます。生きているということは、いろいろな人とのご縁やつながりがあって、いろいろな人に愛されて……今ここに自分が立てているのは本当にすごいことだと、命の素晴らしさを感じるんです。生きる力を与えてくれる曲だと思います。ワクワクドキドキを沖縄の言葉で「ちむどんどん」っていうんですけど、この歌詞をメロディーに当てはめて歌ったとき、ちむどんどんしてきて。奇跡の曲ができたと思っています。

換気扇をつけたらメロディーが聴こえてきた

――その打ち合わせで曲のイメージを「風が吹いている」ともおっしゃっていました。『生きている歓び』は、曲先行だそうですが、曲作りのポイントになったことはありますか?

子どもの頃からメロディーを作るのは得意なんです。でも、今回は歌詞をお願いすることを前提として作曲するという点が難しかったですね。「“ケルティック島人”の扉を開ける!」と高らかに言ってみたものの、それはどのようなメロディーなのだろうとすごく苦戦しまして。そんなあるとき、シャワーを浴びていたら、たまたま換気扇をつけるのを忘れていて、あわててつけたんです。換気扇の音が聴こえてきたときに、突如最初のメロディーが聴こえてきたんです。

――同じ風でも換気扇の音がきっかけに!?

風を感じたんですね。それまでは土がついたサトウキビのような、どこかリアルな土臭さが残るような感じのメロディーだったんですけど、そうではないと。掴めるようで掴めない島の風だとフワッと出てきました。

――成底さんのおばあ様は、石垣島の女性神職ツカサ(司)だそうですが、成底さんに音楽が聴こえてきたのは、まるで歌の精霊が降りてきたようですね。

八重山にはツカサがいて、お正月やお彼岸、お祭りなどで神様からの言葉を表現します。私もその血を引いていますから、子どもの頃はお化けをよく見ていましたが、歌の道に行くということで祓ってもらってからは見えなくなってしまいました。ツカサを継ぐことはなくなりましたけど、うちのおばあと母方の伯父が、「メッセージを伝えることでは、歌も変わらない仕事だよ」と言ってくれて、「私にしか出てこない音楽が絶対ある」と思っています。『生きている歓び』が生まれたのも神様がくれた贈り物のような気がします。人は一人では生まれないし、長く生きていると、やっぱり人って愛されるために、愛するために生まれているのだと心から感じます。最後には自分の大切な人しか残らない。幸せになるために命があるのだということを歌で届けたいと思うんです。

――『生きている歓び』は、世の中の傷ついた人たちに力を与える曲となりそうです。

自ら死を選んでしまう方がいますよね。特に若い世代で悩みを抱えている方たちは、まだ狭い世界しか見えないので辛いと思うんです。私自身もいじめを体験しているので、逃げ場のない、その辛い気持ちがわかります。それでも生きていく。生きていると、必ずいいご縁と出会い、自分を救ってくれる人がいる……自分もそんな体験をしていますので、命があることこそ価値なんだということを、この曲で伝えられたらうれしいですし、若者たちに届いてほしいです。

島唄と声楽の歌唱法を融合

――もともとケルトミュージックはお好きなのですか?

大好きですね。ケルティック・ウーマンやヘイリーはよく聴きます。でも、同じことをやっていてもしょうがないですし、やっぱり私は島で生まれた島人。三線(さんしん)を弾いて、民謡もずっと歌ってきました。一方でそれとは真逆の声楽をやってきた自分もいます。じゃあ自分に何ができるかといったら、島人みたいな節回しもできるし、途中に声楽のような歌い方も入れられる。これは私にしかできない武器として突き詰めていこうと思っています。

――民謡と声楽では、歌唱法はかなり異なると思われますが。

根本的に歌い方が違い、逆なんですよね。島唄は喉を閉めて歌うのに対し、声楽は喉を開いてファルセットと地声を混ぜながら歌います。でも、自分の歌う島唄には声楽の歌唱法が入っていて、そんなふうに歌えるのは私しかできないだろうなとは感じています。大学時代に声を転がすように歌うクラシックのコロラトゥーラの技法を練習していたとき、先生から島っぽさがあるので取りなさいとご指導いただいたのですが、その後、イタリアへ研修に行った際、現地の先生からは「あなたにしかできないものだからそれを活かした方がよい」とおっしゃっていただきました。オペラを歌っても、DNAのように島の風が出てしまうのだろうと感じています。

――『生きている歓び』を歌うのは難しそうですが、歌い方のポイントはありますか?

低いところから高いところまで音域のレンジの幅が広いので、頑張りすぎると喉を傷めてしまうので、自分が感じるままに、気持ちよく優雅に、そして語るように歌っていただくといいと思います。例えば、石川さゆりさんをイメージするなど、歌い方次第では演歌のようにもできるんですよ。

島のリズムは8分の6拍子!?

――壮大な『生きている歓び』に対し、『光と風の島』は、温かな歌ですね。サウンドにスチールギターなどが入り、同じ島でもハワイの風のような雰囲気もあります。

8分の6拍子の曲が大好きなんです。石垣島の優しい風や温もりを表現したいと思って作った曲です。私の父親が運転する軽トラって、歩くほうが速いんじゃないかというくらい遅いんです。そんな島の風景をイメージしたら、ズンタッタというこのリズムしかないと、素直に曲が生まれてきました。島の人たちは4分の4拍子じゃないんです。みんなフリーな時間で生きていますし、ハンモックに揺られているような感じです。保岡さんの歌詞も素晴らしく、CDジャケットに写っている風景がそのまま詰まったような歌詞です。私がいちばん好きなフレーズは「見えないけど きこえるよ やさしい風が」というところですね。

――『音がえし』は、9月23日に行われるご自身初の沖縄本島でのライブ(那覇文化芸術劇場なはーと 小劇場)、また9月21日の東京でのライブ(南青山マンダラ)のツアータイトルにもなっていますね。

沖縄本島での初のワンマンライブということで、ツアータイトルに『音がえし』とつけたのですが、じゃあ曲も作ろうということになってできた曲です。家族も含め、お世話になった方々が沖縄本島でのワンマンライブをずっと待っていてくださったんです。イベントなどを除き、ワンマンライブで、生歌で自分の歌の世界を地元にお届けしたことがなかったので、今回それがやっと実現できます。私にできる恩返しは、音返しの歌。歌を続けることで、皆さんに恩返ししたいという思いを込めています。

――成底さんは難しい言葉を詞に使いませんね。『音がえし』は、「ありがとう」と2回繰り返すところも印象的です。

「ありがとう」を2回繰り返すのは、ちょっとしたチャレンジでした。ふつうは他の言葉で埋めようとしちゃうんですが、今回は1回の「ありがとう」では足りないと感じたんですよね。

長年歌ってきた『ダイナミック琉球』と改めて向き合った

――今や高校野球の応援歌としても定着した『ダイナミック琉球』ですが、今回の「Acoustic version」へのチャレンジについてもお聞かせください。

2010年に初めてカバーしてから、すでに十数年が経ち、いろいろなところでずっと歌わせていただいてきた曲です。エイサーなどの勇壮なイメージがありますが、私自身、長年歌ってきているのに、この曲をどこまで本当に理解して、どこまで表現できるのだろうかと考えたときに、1回裸にしてみようと思ったんです。ライブで太鼓など他の音と混ざることなく、ピアノ一本、ハンドマイクで歌うことにチャレンジしてみたのですが、本番ではすごく集中できて、自分の中でやっと『ダイナミック琉球』が成底ゆう子を認めてくれたという感覚がありました。この「Acoustic version」で、成底ゆう子が『ダイナミック琉球』とどれだけ溶け合っているかを聴いていただきたいです。

――『赤瓦の家』はふるさとへの郷愁と一抹の寂しさも感じさせる曲ですね。

幼稚園に上がる前まで暮らしていた住まいが赤瓦でした。その頃の記憶がすごく残っていて、おじい、おばあ、父ちゃん、母ちゃん、そして兄と川の字になって寝ていました。それが普遍的な幸せだったのかなって。常に家族がそこに居て、手に取れるところに家族の愛がある。島を離れて暮らすようになってそれが余計にわかって、あの頃が本当の幸せを感じられていたんじゃないかなとずっと思っていました。その幸福感をなんとか歌で表現できればと思いましたし、私が住んでいた赤瓦の家もすでにないので、歌の中に残しておきたいなという気持ちもありました。

むき出しの言葉で紡いだ父へのラブレター

――『父』(作詞・曲:成底ゆう子)は、このアルバムの中では異色の作品ですね。東京で暮らす娘が、上京してきたお父さんに対して抱える複雑な感情を歌われています。歌詞の言葉が他の収録曲と比べるとむき出しで、「池袋駅」といった具体的な地名が出てくるのもリアルです。

私は父から溺愛されて育ったのですが、思春期の頃、口うるさい父親が嫌いでした。東京の大学に入学したのも、都会への憧れとともに、父がすぐに出てこられないだろうと思ったから。でも父は常に私のことを気遣い、東京に会いにきてくれたことがあったんです。素直になれない私は、強い訛りで喋る父が恥ずかしく、カフェで周りの目が気になり、「なんでうちの父ちゃんはこんな父ちゃんなんだろう」と思って。父は少しでも娘と近づこうと頑張ってくれているといつも感じてはいたのですが、これまできちんと「ありがとう」と言えたことはありませんでした。

――お父さんが小銭を集めて買ってくれた腕時計を、そのまま捨てたという歌詞が衝撃でした。

実体験をそのまま歌にしました。昔よくあった家電量販店の店頭で吊るし売りされているような時計で、若い女の子が身につけるようなデザインのものではなかったんですよね。そのときは「娘のこと何一つ分かってないじゃん!」って。自分から見ても、これは本当にひどいということも包み隠さず書きました。最初はオブラートに包んだような歌詞だったのですが、「これじゃ伝わらない。父ちゃんに悪い」と思って、書き直しました。

――曲の最後で歌われる「ありがとう」という言葉で、すべてが回収され、とても温かな気持ちになりました。この曲が刺さる女性も多いのではと感じました。

自分で振り返っても、ひどい娘だったのですが、この曲は父に対する思いをむき出しに書くことで、「お父ちゃんごめんなさい」「こんな娘だけど、育ててくれてありがとう」という父にあてたラブレターです。ライブでも「いちばんよかった」とおっしゃる方が多い曲なんですよ。

――最後に改めて『島心~しまぐくる~』が完成して、「うたびと」読者へのメッセージを。

このアルバムでは、新しい成底ゆう子を引き出すチャレンジをしました。たくさんの感謝の気持ち、そして親への愛情、成底ゆう子が今までやってきたことをすべてギュッと凝縮した一枚になっています。ぜひ聴いていただき、生きていること、命のあることの大切さを感じていただきたいと思います。

成底ゆう子『生きている歓び』ミュージックビデオ

成底ゆう子『島心~しまぐくる~』

2024年9月18日(水)発売

品番:KICX-1185
価格:¥2,200(税抜価格 ¥2,000)

【収録曲】

1.生きている歓び (作詩:鮎川めぐみ/作曲:成底ゆう子/編曲:山本健太)
2.光と風の島 (作詩:保岡直樹/作曲:成底ゆう子/編曲:山本健太)
3.音(おん)がえし (作詩・作曲:成底ゆう子/編曲:山本健太)
4.ダイナミック琉球(Acoustic version) (作詩:平田大一/作曲:生熊朗)
5.赤瓦の家 (作詩・作曲:成底ゆう子)
6.父 (作詩・作曲:成底ゆう子)
7.生きている歓び Instrumental
8.光と風の島 Instrumental
9.音(おん)がえし Instrumental

成底ゆう子 LIVE 2024 「おんがえし」 supported by 琉球海運

【東京公演】
2024年9月21日(土)
東京・南青山マンダラ
https://mandala.gr.jp/aoyama/

時間:開場17:30 開演18:00
料金:5,000円(整理番号順入場・全席自由・別途ドリンク代有り)

イープラス専用ページ: https://eplus.jp/sf/detail/4111690001-P00300011

【沖縄公演】
2024年9月23日(月・祝)
那覇文化芸術劇場なはーと 小劇場
https://www.nahart.jp

料金:全席指定 5,000円(税込)
※未就学児入場不可
※お一人様4枚まで

【ローソンチケット】
■Lコード:84518
■専用URL:https://l-tike.com/narisokoyuko

【イープラス】
■専用URL:https://eplus.jp/narisokoyuko/

【チケットぴあ】
■Pコード:266-697
■専用URL:https://w.pia.jp/t/narisokoyuko-kyu/

お問い合わせ:
ピーエムエージェンシー
TEL.098-898-1331(平日11:00〜15:00)
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