岩波理恵、8枚目の新曲は愛の終わりを切々と歌ったミディアムバラード 「自分の声の特徴を活かしたバラードで“岩波ブランド”を確立したい」

2022.7.6

元キャビンアテンダント(CA)という異色のキャリアで知られる岩波理恵が、7月6日にメジャーデビュー後8枚目となるシングル『愛が眠るまで』をリリース。カップリングにはテレサ・テンの名曲『ジェルソミーナの歩いた道』をカバーした。切ない男女の愛を哀愁帯びたソフトボイスで歌い、ファンを魅了してきた岩波理恵に、新曲にかける意気込みから、CAを辞めた仰天エピソード、今後の意外な目標まで、明るく、そして真剣に語ってもらった。


――新曲『愛が眠るまで』を初めて聞いたときの印象は?

これまで新曲を制作する際は何曲か候補作品を聴いて決めていたのですが、今回は一目ぼれ!向井先生がピアノで弾いてくださった瞬間に、「ああ、この曲歌ってみたいです!」って言っていました。切なさや儚さが表現できる曲がいいなと思っていましたので、迷いなくこの曲に決めました。

――これまでリリースした7枚のシングル曲のうち6曲がバラード。バラード曲にこだわりを持っているのですか?

幼い頃から中島みゆきさんの曲の世界観だったり、テレサ・テンさんの儚げな歌い方だったりが大好きでした。カラオケで歌うと家族がすごく合っているよって褒めてくれたことをずっと覚えていて、大人になってからも私の声質には明るい曲よりもバラードが似合うと思ってきました。思い込みの部分もあるかもしれませんが、バラードはより自分の個性を発揮できると思うので、大好きです。もちろんもっと張って歌える曲を歌いたいと思う時もあるのですが、洋服にも似合う似合わないがあるように、歌にも向き不向きがあると思いますので、得意な場所で勝負するには、やはりバラードかなと。『愛が眠るまで』は自分の持ち味を発揮して、岩波理恵といえばこれという“ブランド”を確立する曲にしたい。それがここからスタートする、そんな楽曲に巡り合えたと思っています。

――これまでの曲は“去っていく男性を、未練を残しながらも見送る女性”というストーリーが多いと思います。今回も不倫をしていた男性のことを思って身を引く女性が描かれていますが、令和の現在を生きる女性として、昭和の香りが色濃い曲の世界観をどう捉えていますか?

勝手な想像かもしれませんが、昭和の時代と違って、この曲の主人公は100%あなたのために身を引きますというのではなくて、別れるのは仕方ない、でも私の恋愛は私が終結させます、自分で処理しますと心のどこかで思っている強さを持った女性。愛が眠るまでというのは、つまり恋愛が自己完結するまでは、まだあなたはここにいるということなのだと思います。強がりと未練が交錯する心の揺ぎが描かれている作品だと捉えています。

――歌唱中はどんなことを考えて歌っていますか?

私は割と曲の主人公はどんな人か想像するタイプです。歌う時にはその主人公に寄り添いながら歌えるといいなと思うので、自分なりに物語を組み立てて、頭の中に映像を浮かべて歌っています。今回は渡辺なつみ先生がレコーディングに立ち会ってくださったのですが、スタジオでいきなり先生から「あなた、この曲を歌う時に何色が思い浮かぶ?」と質問され慌てたのですが「深いブルー、海のずっと深いところのブルーです」と、とっさに答えました。そしたら「じゃあ、その色のスポットライトを浴びているつもりで歌ってみたら」と言ってくださって。何か色を決めると(歌が)まとまるというアドバイスだったのですが、なるほどイメージをかためるのにはいい方法だと思いました。初めてのやり方ですごく刺激的でした。

――『愛が眠るまで』はどこを大事に歌っていますか?カラオケなどでこの曲を楽しむうえでのポイントはありますか?

メロディラインを壊さないことを大切に、毎回、緊張感をもって歌っています。Aメロは語りなので、歌い込みたくなるところをちょっと我慢して目の前にいる相手に話しかけるように、その分サビでは主人公が感じている葛藤をぶつけていくように歌えばドラマが伝わりやすいのではないかと思っています。向井(浩二)先生もだいたいは私の思いを汲んでくださったのですが、一カ所だけ、「誰といても独人でも 人は~」の部分で、ついつい歌い込んでしまった私に、「ここはまだ迷いがあるところだから、そんなに一生懸命やらなくても揺らいでいる感じの方がいい」とアドバイスしてくださいました。今回の曲はキャンペーンで歌った時に女性のファンの方からの反応がすごくよかったのですが、皆さん、何かしらこういう男性との別れの場面は経験があると思うんですね。そういう恋を思い出しながら、それこそ自分なりの色のピンスポを浴びて、どっぷり浸って歌っていただいた方が、この歌は楽しめると思います。

――カップリングとして選んだのはテレサ・テンの『ジェルソミーナの歩いた道』。1985年に行われたNHKホールでのテレサ最後の公演の中で、ウエディングドレスに身を包んで熱唱した伝説の名曲ですが、選んだ理由は?

実はこの曲のことはそれまで知りませんでした。事務所の社長に教えてもらってNHKホールでの映像を見たのですが、もう衝撃でした。ウエディングドレス姿もですが、聞こえるか聞こえないかくらいの何とも言えない微妙な歌い方も、本当に素晴らしくて、すっかりその魅力にはまってしまいました。ジェルソミーナは、イタリア映画『道』の主人公の名前だと思うのですが、この曲はその映画のエッセンスをギュッと凝縮させたような作品で、もし私が、テレサ・テンさんが歌うのを目の前で聴いていたら、感動的な映画を見た後のように、しばらく立ち上がれなかったと思います。それくらい素敵な曲に、今回僭越ながら挑戦させていただきました。もうこんなにハードル上げてしまってどうするんだという感じですけれど(笑)。

――伝説の歌姫、テレサ・テンの歌をカバーするまでになった岩波さんですが、ご自身はこの10年でどう変化したと思いますか?

同じ事務所に所属している物まね芸人さんを見ていると、ネタにするのは当然、売れた曲、売れたタレントさん。で、売れた曲や人ってやっぱり物まねの対象になるくらいインパクトがあって個性的なんです。それに対してこれまでの私の歌は普通でつまらなかった。いろいろな方に聞くと私の歌で特徴的なのはビブラートだと言われ、そこを強化するためにリズムとアクセントの取り方からやり直しました。これまでの歌い方は、いわゆる4ビートで淡々と歌っていて、これでは切なさや儚さなどの微妙な感情を表現できない。それで16ビートで歌えるように訓練しました。その結果、『愛が眠るまで』のレコーディングの時、渡辺先生から「16ビートで歌っているからこの曲がこんなに切なく聞こえるのよ」って言っていただいて、報われた気持ちになりました。今、デビューした頃の歌を聴くと、そういうことも分からず、ただ何となく歌っていただけだとことがよく分かります。

――岩波さんと言えば、元大手航空会社のCAというキャリアをお持ちですね。なぜそのキャリアを捨ててまでこの道を選んだのですか?

学生の頃は歌手になりたくてデモ・テープをレコード会社に送ったりしていたのですが、結局なれなくて、一度は組織に入って社会勉強をしようと就職することにしました。でも、どうせならお客さんの前で歌えるところがいいと思って、なぜか、よし飛行機だと思い、あわててCAの試験を受けたんです。そしたら何かの間違いに違いないと思うのですが、合格してしまいまして(笑)。で、訓練を受けて国内線に乗っていたのですが、ちょっと慣れてきた頃に、飛行機も安定しているし、お客さんも飽きてきた頃だろうから今だと思い、先輩に「すいません、いつ頃歌えますかね」って聞いたら、「あなた、何言ってるの?私たちは保安員でもあるんですよ。だいたい社会人としての常識が…」って、すごく怒られまして(爆笑)、そこで初めて飛行機では歌えないんだって気づいたんです(大爆笑)。CAでもいろいろ経験させていただきましたが、もう23くらいでしたから、歌手を目指すなら早い方がいいと思い、辞めました。後ではとバスにするべきだったねって、皆に言われましたよ。えっ?ネタ?いやいや嘘のようなホントの話です(笑)。

――その後、持ち前のバイタリティーを発揮して芸能への道を突き進み、見事に事務所のオーディションに合格。そこで『走れ!歌謡曲』(文化放送)のパーソナリティーの座を射止めたんですよね。

CAを辞めてからどうすれば歌手になれるかいろいろ調べていたのですが、何せ素人で伝手もなかったので、とにかくタレントを募集している事務所を探して受けてみたら採用されました。何か全部とりあえず受けているみたいですけど(笑)。そこでラジオ番組のオーディションがあるからと紹介されたのが『走れ!歌謡曲』でした。最初はそんなに歴史のある番組だとは知らなくて、ただタイトルに歌謡曲と付いているし、歌手の道へ繋がればと思っただけで(笑)。でも、結局そこでパーソナリティーのユニットとしてCDを出すことができて、歌手になるきっかっけをつかめました。杉本眞人先生との出会いもその時ですし、『走れ!歌謡曲』がなければ今の私はなかったでしょうね。

――“歌謡曲”をキーワードとして夢への階段を上ってきた岩波さんですが、歌手としての基礎を作ってきたのはどんな音楽ですか?

一番好きだったのは80年代のアイドル歌謡ですね。主に好きなのは松田聖子さん、中森明菜さん以降のアイドルですが、もっと小さい頃はピンク・レディーさんの曲を、振りを真似しながら歌っていたみたいです。一番の憧れは、松田聖子さん。ああいうふうになりたいとずっと思っていました。聖子さんで一番好きな曲ですか!? うーーーーーん、アルバムの中の曲なのですが『時間旅行』ですね。空港が舞台で、以前付き合っていた人を偶然見かけて、その彼の隣に新しい人がいる、今の彼女なんですね。あの時別れていなければ、同じ翼で旅していたかもしれないという切ない歌、これもやっぱりバラードですね。

――ライブの機会が減ったコロナ禍には、LIVE配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」で音楽番組を配信し、“シンガーソングライバー”の異名もお持ちですね。

番組のコンセプトは“見えるラジオ”です。スマホ1台あれば全国の皆さんに番組を見ていただけますし、Pocochaを通して私の歌を知って、実際にCDを手にしてくださった方も大勢います。もちろんリアルにコメントもいただけて、ファンの方とコミュニケーションもとれる。Pocochaのお陰で、このコロナ禍にファンクラブの会員が増えたんですよ。その代わりパーソナリティー、ディレクターから音響、もちろん歌唱まで全部やらなくてはならない一人ラジオ局状態ですから、かなりハード。でも私には合っているかなと思っています。これも7年間、『走れ!歌謡曲』をやってラジオで育てていただいたからこそです。これからも、他の活動が忙しくて手が回らなくなるまで続けるつもりです。

――ライブ配信をして、改めて感じた昭和歌謡の魅力はありますか。

歌謡曲ってやっぱり親しみやすさが魅力だと思うんです。メロディーも口ずさみやすい曲が多いですし。それに昭和の時代は家族みんなで一緒にテレビを見ていたから、子供から大人まで同じ曲を歌えたじゃないですか。それこそ聖子さんでも(山口)百恵さんでも。だから配信で昭和歌謡を歌うと、広い世代ですごく盛り上がるんです。特に40代以上のリスナーさんは、曲を聴いて“あの頃”や“あの人”を思い出して「感動しました」って言っていただける。みんなで歌える、聴けるというのが、昭和歌謡がまた人気になってきた理由なのではないでしょうか。

――メジャーデビューの夢を果たして10年の節目を迎えました。これからチャレンジしてみたいことはありますか?

えーと、コントです!そう、あのコント。志村けんさんの『バカ殿様』に出るのが夢の一つだったものですから。とにかくお笑いが好きなので、バラエティー番組にはぜひ出てみたいですね。それには歌を頑張って、皆さんに名前を憶えていただいて、岩波理恵って面白そうだから番組に出してみようと起用してくださったら、そこでメチャメチャ爪痕を残そうと思っています(笑)。昭和のスターの方々って、何でもできましたよね。歌だけじゃなくてテレビでそれこそコントやったり、舞台でも面白いことをやったり、マルチにお客様を楽しませることができた。私はそれこそがエンターテイナーだと思っていて、なのでこれから目指すのはコント、白塗りコントです(爆笑)。

――最後に、今後の歌手としての目標を教えてください。

はい、これはズバリ、紅白出場です。これを言うと皆さん、そうは言っても(難しい)……っておっしゃる。でも私はあえて口に出すようにしています。やっぱり歌手としての頂点である紅白に出てこそ、世間の皆さんも田舎の両親もよくやったと認めてくれると思うので、歌手としてもっと高いところを目指すぞという意味で、これからはどんどん口に出していきます――(改めて)目標は『NHK紅白歌合戦』出場です!!


今年の年末は紅白の舞台で、『愛が眠るまで』の熱唱と、歌と歌の合間に芸人に混ざって応援コントをしている岩波理恵が見られるかもしれない――大いに期待したい!

岩波理恵『愛が眠るまで』

2022年07月06日発売

品番:TKCA-91432
価格:¥1350(税抜¥1227)

【収録曲】

1. 愛が眠るまで
2. ジェルソミーナの歩いた道
3. 愛が眠るまで (オリジナルカラオケ)
4. ジェルソミーナの歩いた道 (オリジナルカラオケ)

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