タブレット純 新曲『百日紅』でムード歌謡の源流の歌唱法に挑戦!デビュー20周年を迎えて「今後は、自分で作詞作曲した歌も歌っていきたい」

2022.7.8

ムード歌謡界の第一人者として活躍した作曲家・中川博之の未発表曲に、高畠じゅん子が作詞した作品『百日紅』を、デビュー20周年記念曲として発売したタブレット純。今では、歌手、お笑い芸人、歌謡研究家と多方面で活躍するタブレット純に、自身の20年を振り返って思うこと、今後の目標を聞いた。


——5月11日発売の新曲『百日紅』は、前回の『東京パラダイス』と同じく故・中川博之先生作曲、高畠じゅん子先生作詞ですが、曲調は打って変わってしっとりと聞かせる楽曲ですね。

最初は、カップリング曲の『七色のブルース』がメイン曲でしたが、歌ってみると『百日紅』のほうが僕になじむように感じました。じゅん子先生も「あなたにはこちらが合う」とおっしゃって、『百日紅』がメインになりました。演歌テイストで、自分の歌としてはこれまであまりない作風の曲なのですが、何より、歌詞の世界観が好きです。好きな人を待つ女性を描く歌詞なのですが、切なさの中に奥ゆかしさが感じられて。ムード歌謡に登場する女性って、大きく分けて2通りあると思います。自分の感情をガンガンぶつける女性か、別れたあともずっと恨み言を言っているような情念の女性か(笑)。その点、『百日紅』に登場する“相手を気遣いながら待つ女性”って、実はなかなかないです。「私の夢をおしつけちゃだめよ」という歌詞なんて、とても上品ですよね。僕自身、仕事の上では結構図々しいところもありますが、プライベートでは相手の顔色をうかがいながら会話するタイプ。この曲の女性に共感しながら歌うことができました。

——待つ女性の歌でありながら、「ときめき」という言葉も出てきて、恋愛の楽しい面も描かれていますよね。

そうですよね。僕も、ただつらいだけの歌ではないというのがいいなと思いました。どことなく「禁断の恋を描いているのかな」と思わせつつも、それが赤裸々に描かれていないからこそ、「ときめき」や「憧れ」といった恋愛の楽しい面を感じさせてくれる。そういう部分も好きです。

——歌い手として、意識されたのはどんなところでしょうか?

前曲の『東京パラダイス』はリズムが軽快だったので、自分なりに力を込めて歌ったんです。でも、もともと僕は脱力系の人間なので(笑)。お笑いのネタを披露するときは、あえて歌い方をデフォルメしていますが、力を抜いた歌い方が基本。そもそも僕が歌手になるきっかけとなった“和田弘とマヒナスターズ”の曲も、力んで歌うようなものではありませんでした。どこか鬱屈な空気感を感じさせるというか……。『百日紅』は、そんな雰囲気をイメージしながら歌いました。
初期のマヒナのボーカルを務めた三島敏夫さんという方が、絶妙な歌い方をされるんです。ものすごく力が抜けていて、すごく色っぽくて。石原裕次郎さんに歌を教えたのも三島さんだそうですが、裕次郎さんの、全然力んでいないのに最後まで聴かせてしまう歌い方も本当に素敵ですよね。僕は、あれこそムード歌謡の源流だと思っています。僕自身もマヒナ時代、リーダーの和田さんにずっとあの歌い方を求められていましたが、「お前は色気がない」と叱られてばかりで。僕にとってはいまだに難しいですが、今後もずっと目指していきたい歌い方です。でも、色気がない理由も分かっています。マヒナのメインボーカルを長く務めていらした松平直樹さんも色気のある歌を歌われる方でしたが、実は女性が大好きな方でして、隙を見ては女性をくどいていたとか。和田さんには「それぐらいしないと色気はでない」とよく言われました。遊びは芸のこやしといいますが、まんざらうそではないのでしょうね。色気は、それこそ、女性関係で危ない思いもしながらようやく身につくものなのだと思います。そう考えると、僕には一生無理かもと思ったりします(笑)。

——ジャケット写真もMVも、赤紫カラーでとても鮮やかですね。

百日紅の色である赤紫を背景色に使いつつ、衣装も、曲をイメージしたものを準備しました。例えばジャケット写真に写っている衣装は、歌詞に描かれているピュアな女性の雰囲気で白いスーツを選びつつ、赤紫のフリルのついたシャツを着ています。宣伝写真の黒いミリタリー風のスーツは、グループサウンズが好きで髪型をマッシュルームカットにしたので、それに合わせてみました。撮影は、美輪明宏さんの専属カメラマンである御堂義乗さんにお願いしました。ありがたいことにご縁をいただいて、前々曲の『夜のペルシャ猫』から御堂さんに撮影をお願いしています。僕、美輪さんのことが大好きなので、ありがたいのはもちろんなのですが、御堂さんご本人もとにかく人柄が良い方。僕のライブや昭和歌謡の講座にまで足を運んでくださいます。撮影のときは「こんなポーズをしてみよう」「ワイングラスを持ってみよう」と、みんなでいろいろアイデアを出しあいながら進めるというノリで、とても和やかな雰囲気でした。

ミリタリー風スーツのタブレット純

赤紫のフリルシャツを着た白スーツのタブレット純

——長かった髪を切ってマッシュルームカットにされたのも、この曲に合わせてですか?

いえ、実は…10年くらいずっと長髪だったせいか、髪が傷んできちゃいまして……(笑)。曲のイメージというより、それをどうにかしたかったという方が強いかも。それに、金髪で長髪だと拒否反応を示されることも多くて、デビュー20周年を迎えるにあたってイメージチェンジを図ろうとも思いました。ただ、切ったら切ったで「前のほうがよかった。なんで切っちゃったの?」とおっしゃる方が意外と多かったので、結局、また伸ばしています(笑)。

——デビュー20周年を迎えられたというお話が出ましたが、この20年はどんな日々でしたか?

僕の芸能人生は、“マヒナスターズ”に欠員が出て、素人みたいな僕が代わりに入ってしまったところから始まりました。その後、歌う機会がなくなって、歌手をやめたのと同然のような時期が何度も訪れましたが、その度にご縁に恵まれて新たな道が拓ける……その繰り返しだったので、良い意味でも悪い意味でも「お前はこの道を行け」と言われているように感じるんです。ここにこうしていることが、自分の役割なのかなと。ただ僕は、歌手というより、「歌が大好きな、ただの歌ファン」です。ムード歌謡もグループサウンズも好きな作品がありすぎて、オマージュしたい曲がたくさんあるので、自分の歌がいつまでたってもパロディーのように思えてしまって。「歌手になりたい」「有名になりたい」という思いでやり続けてきた人ならば、自ずと「個性」が構築されていくものだと思うのですが、どうも僕は、一向に本物になっていかないなと感じてしまいます。デビュ―20年を迎えられるのは、ひとえにご縁に恵まれたからでしかありませんが、僕自身、「芸の道を極めるにはまだまだだな」という思いが強いです。

——今後の目標は?

歌に関して言えば、自分で作詞作曲した曲を歌えば、「個性」のようなものが確立されていくのかもしれないと思い始めています。お笑いをやっているので、シリアスな場面ではどうしても茶化したくなってしまうのですが、歌に特化したステージもやりたいなって。先日、加藤登紀子さんのステージを拝見しました。加藤さんといえばシャンソンですが、「これこそ人生を表現した歌。歌手として、最終的にはこうならないといけないのではないか」と感じました。もちろんお笑いも僕にとっては大切ですが、同時に、自分の人生を歌うような土壌も築いていきたい。歌だけを聞いていただくステージを、月に1〜2回やるのが目下の目標です。

——それはぜひお聞きしたいです。では、最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。

新曲『百日紅』では、僕が青森の“イタコ”のようになって(笑)、高畠じゅん子先生の世界観を表現しました。そういう意味では、この曲もまた“僕”です。表現者としてはまだまだ発展途上かもしれませんが、ぜひたくさんの方に聞いていただいて、なおかつこの曲を自分の歌に昇華して、たくさん歌っていただきたいと思っています。

タブレット純『百日紅(さるすべり)』ミュージックビデオ

タブレット純 『百日紅(さるすべり)』

発売中

品番:COCA-17995
価格:¥1,400

【収録曲】

1.百日紅(作詞:髙畠じゅん子/作曲:中川博之/編曲:松井タツオ)
2.七色のブルース(作詞:髙畠じゅん子/作曲:中川博之/編曲:松井タツオ)
3.百日紅(オリジナル・カラオケ)
4.七色のブルース(オリジナル・カラオケ)

タブレット純 プロフィール

本名:橋本康之
生年月日:昭和49年8月31日
血液型:A型
星座:乙女座

幼少時よりAMラジオを通じて古い歌謡曲に目覚め、思春期は中古レコードを蒐集しながら愛聴、研究に没頭する日々を送る。高校卒業後は古本屋、介護職などを経て27才の時、ある日突然ムード歌謡の伝説的グループ、『和田弘とマヒナスターズ』に芸名「田渕純」としてボーカルで加入。以後2年間、和田弘逝去まで同グループにて活動した。グループ解散後都内のライブハウスにてネオ昭和歌謡、サブカル系のイベント出演の他、2011年1月、寄席・お笑いライブにも進出。ムード歌謡漫談という新ジャンルを確立し、異端な存在となっている。

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