伍代夏子が芸能活動40周年記念シングル『人生にありがとう』を発売 「逆境に奮い立つタイプ、主人からもしょっちゅう『男らしいねえ』と言われています」
伍代夏子が芸能活動40周年記念シングル『人生にありがとう』を発売する。90年に『忍ぶ雨』の大ヒットで演歌のトップスターの仲間入りを果たした伍代だが、デビューは82年、20歳のとき。「演歌を歌いたい」という強い願いは叶わず、歌謡ポップス歌手としてのスタートだった。ブレイクをつかんだ後も病魔に襲われるなど、決して順風満帆なだけではなかった40年。「明日という一番近い未来」への希望を胸に歩み続けてきた彼女が、今届けたい思いを歌うその姿は強く優しく、そして艶やかだ。インタビューでは新曲への思い入れや、デビューから現在までの足跡、そして私生活の近況についても語った。
──どこかノスタルジックな風景も浮かんでくる新曲『人生にありがとう』。“人生”という重みのあるテーマながら、しみじみと優しい歌声が印象的です。
私もこのタイミングで歌うなら仰々しい歌ではなく、聞いてくださるみなさんと優しい気持ちを共有できるものにしたいと考えていたので、歌をいただいたときはスーッと素直に身体に入ってきました。また、ここまで歩んで来たことに『ありがとう』という心境になっていることにも改めて気づかせていただいて、作詞の荒木とよひさ先生には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。だけど何より驚いたのは、歌い出しの歌詞。まさに私が子どもの頃に見ていた風景が歌詞に描かれていたんです。
──夕焼け空を見つめながら、遠い未来を夢見る少女が歌詞に登場しますね。
私もよく家の階段を登って、小窓から空を見ていました。荒木先生にはそんな話をしたことはなかったのですが、『俺にはわかるのよ!』とおっしゃって(笑)。偶然かもしれないですが、今この歌に出会ったことに運命のようなものを感じますね。
──伍代さんの少女時代の夢は?
もちろん演歌歌手です。3、4歳の頃に演歌にガーンと衝撃を受けて、それからは部屋に貼っていたポスターも、透明の下敷きに入れていた切り抜きも、八代亜紀さん、藤圭子さん、美空ひばりさん、都はるみさんと女性演歌歌手ばかり。コロコロと回るこぶしも、きれいな衣装も、色っぽい佇まいも、すべてに心惹かれて。『私も大人になったら、絶対に演歌歌手になるんだ!』と心に決めていました。
──20歳のとき、歌謡ポップス路線でデビューしたときはどんなお気持ちでしたか?
レコード会社としてはまだ若いし都会っ子だし、なんとなく演歌の雰囲気がないという判断だったようですが、やっぱり悔しかったですね。でも実際にレコードを吹き込んで痛感しました。私の歌は人の心を打つことはできないって。小さい頃から聴いてきた演歌歌手は歌がうまいだけじゃない、“何か”があります。だけど当時の私は歌もうまくなければ、“何か”もなかった。その“何か”が何なのかもわからない──。演歌って、なんて大きい世界だろうと打ちのめされました。
──その“何か”を掴めたと実感したのは?
それは今でも、自分ではわからないんです。ただ、たとえばお身内の方の遺影を携えてコンサートに来てくださるお客さまや、『あなたの歌で挫折から立ち直った』というお手紙をいただくなど、聴いてくださる方々から少しずつ教わっているような気がします。
──この40年で歌手をやめようと思ったことはなかったですか?
それはないですね。売れない頃は夢がありますから、『まだまだ行ける!』と前に進むことしか考えていなかったですし、いざ憧れの先輩のみなさんと並んで歌えるようになっても、その方々も同じように経験を重ねていきますから、私との差は縮まらないんです。先日も八代亜紀さんと共演させていただきましたが、その輝きは、私が歌手を夢見ていた頃の演歌歌手の方々と変わらなくて。いつまでも追いかけられる存在がいることが、本当にありがたいです。
──伍代さんを追いかけて来る後輩も増えたのではないでしょうか?
それはもう励みになりますよ。私は先輩に恵まれて、先輩から可愛がっていただいてきましたが、自分から人に懐くのが下手で。こればかりは性分というか、子どもの頃から媚を売るのが苦手でした。『それで世渡りできないなら仕方ない』みたいに強がってきたものだから、損したこともあったかもしれません。だから、今は逆に懐いて来る後輩が可愛くて仕方ないんですよね。
──後輩への思いは、愛する演歌を「次世代に継承していく」という意味もあるのでしょうか?
わざわざ継承しなくても、この先、演歌がなくなることは絶対にないと私は思っているんです。たとえ時代の流れで一見廃れたように見えても、必ずムクムクと復興する。演歌って、それだけの力を持った音楽ですから。ただ、歌手の人生にはいろいろな岐路があって、歌一筋に生きていくことに迷うときも必ずあります。迷っている後輩とは『じゃあ一緒に飲もうか』って話を聞いて。『コンサートで着てみたい着物があったら、私の衣装でよかったらいつでも協力するよ』という話もしますね。
──昨年は「けいれん性発声障害」との診断を公表されています。歌手活動は再開されましたが、ご病状はいかがですか?
5~6曲連続して歌えるようになりました。もう大丈夫です! この病気は一生付き合っていくものらしいので、逃げるのをやめました。私って逆境に奮い立つタイプみたいで、演歌仲間に“(霊が)見える人”がいるんですが、私の後ろに鎧兜の武将が立っているんですって(笑)。それを聞いて自分でも妙に納得しましたね。主人からもしょっちゅう『男らしいねえ』と言われていますから(笑)。
──また昨年は初の写真展も開催されました。『人生にありがとう』のブックレットにもご自身で撮影された写真が使われていますが、カメラはいつから?
子どもの頃から好きでした。仕事をするようになってからは、コンサートで行った地方のきれいな景色を親にも見せたくて、簡単なカメラをいつも持ち歩いていました。一眼レフにしたのは3~4年ほど前からですね。最初は花を撮ることが多かったんですが、やがて昆虫の接写にハマって。レンズを向けているとアリと目が合う瞬間があるんです(笑)。
──伍代さんがアリとアイコンタクトを!?
はい(笑)。最近は野鳥の撮影にハマっていて、今でも忘れられないのが北海道・羅臼のオオワシ。マイナス17度の極寒で、手がかじかむどころかシャッターが下りなくなるので、カメラ用のヒーターを用意して臨みました。氷を砕いて進む船のへさきに寝そべりながら、粘って、粘って。朝日とともに紫色の空にオオワシが現れたときは、もう言葉にならなかったですね。
──ところで、美の秘訣は卓球だそうですね。
美と言いますか(笑)、40歳以上の女性演歌歌手限定で『美魔女卓球部』なる団体を結成しました。名前は私が付けたんです。みんな最初は謙遜しちゃって、『美魔女なんて』と言っていましたが、『みんなキレイなんだから、受け入れなさい』と押し通しました(笑)。みんなでオリジナルのラケットを作ったりして、楽しんでいます。
──まさに人生を謳歌されているところですね。では最後に『人生にありがとう』を聴く方、そしてカラオケで歌いたいという方にメッセージをいただけますか。
作曲の羽場仁志先生からは、演歌の歌唱方法をあまり意識せずに、リズムに乗って歌うようアドバイスをいただきました。一つひとつの言葉をそっと置いていく感じですね。そうすると響きも優しくなる歌です。芸能活動40周年記念のこの曲で私も還暦を迎えましたが、ここは区切りというよりも一つの通過点。みなさんとこの歌で『明日はもっといい未来になる』という希望を共有できたらうれしいです。
伍代夏子 『人生にありがとう』
2022年7月20日発売
品番:MHCL-2964
価格:¥1,300(税込)
【収録曲】
1. 人生にありがとう
2. 長崎ランデヴー
3. 瀬田の夕暮れ
4. 人生にありがとう(カラオケ・バージョン)
5. 長崎ランデヴー(カラオケ・バージョン)
6. 瀬田の夕暮れ(カラオケ・バージョン)