工藤夕貴が28年ぶりに新曲『父さん見てますか』を発表 「私にとってこの曲は縁歌です」

2023.12.26

10代でアイドル歌手・俳優として鮮烈なデビューを飾り、その後、長きにわたり国際派俳優として活躍している工藤夕貴が、28年ぶりとなる新曲『父さん見てますか』をリリースした。本作は、合田道人が詞を紡ぎ、五木ひろしが作曲を手がけた本格演歌で、カップリングの『あゝ上野駅』は父・井沢八郎のヒット曲だ。これまで演歌を歌うイメージのなかった彼女が、今作に挑むことになったきっかけや新曲の制作エピソード、そして亡き父への思いを語る。


自分と正直に向き合える今だから演歌にも挑戦できた

──アイドル歌手から俳優、そして今回演歌を歌うという新たな挑戦について、どのようにお考えですか?

トム・ハンクス主演の映画『フォレスト・ガンプ』に、“Life is like a box of chocolates. You never know what you’re going to get.”というセリフがあります。「人生はチョコレートボックスのようなもので、手に入れるまでは何が入っているかわからない」という意味で、本当にその通りだなと思うんです。今年4月にご縁があって日本歌手協会主催の歌謡祭で父が歌った名曲『あゝ上野駅』を歌わせていただく機会があり、それをきっかけに本格演歌の新曲『父さん見てますか』を合田道人さんと五木ひろしさんが作ってくださったのですが、私がステージで『あゝ上野駅』を歌うことになるなんて思いもしませんでしたし、本格演歌の新曲をリリースすることになるとも考えたことがありませんでした。でも、人生っていろんなサプライズがあるんですね。アイドル歌手、俳優と、いろいろな道を歩んできた今だからこそ、すてきなサプライズも受け入れられることができたのだと実感しています。

──来年は芸能生活40周年を迎えられます。『あゝ上野駅』が発売された1964年からはちょうど60年ですね。

今、ある意味いちばん素直な自分でいられているような気がするんです。アメリカで生活していたころから農業に携わるようになり、今は静岡県で自然と共生するようなライフスタイルを送っていて、ずっと身に着けていたつまらない鎧のようなものを取り去ることができた自覚があります。ようやく自分に正直に向きあえるようになったなという実感があり、そんな自分だからこそ演歌に挑戦するというチャンスにも飛び込めたのかなと思っています。

──日本歌手協会主催の歌謡祭で『あゝ上野駅』を歌うことになった際には、どのような準備をされましたか?

とても難しい歌なので事前に歌の先生のレッスンを受けたのですが、不思議なもので、歌い始めたらわりとすんなり歌えるようになったんです。体の中に染みついている父の歌声や父から受け継いだ遺伝子のせいなのか、まるで自分の歌だったかのようになじんでくるものを感じました。でも、それまではずっと『あゝ上野駅』は難しい歌だと思いこんでいましたし、あまりにも有名な曲だったので「私には無理!」と遠ざけていたんですよね。私が歌ったところで「お父さんの歌のほうがいい」と言われることもわかっていたので、批判的なリアクションがくることを恐れていたのかもしれません。でも、鎧を取り去った今の私は、抵抗感もなくすんなりと歌うことができました。

歌唱を聴いた五木ひろしさんからかけられた言葉

──その歌唱をきっかけに、あっという間に新曲リリースが決定したそうですね。

とんとん拍子に事が運びました。歌謡祭で私が歌った『あゝ上野駅』を聴いて、五木ひろしさんが「やっぱり娘さんであるあなたが歌い継いでいくべきだ」とおっしゃってくださって、そこから約4カ月後には新曲『父さん見てますか』のレコーディングをしていたんです。

──『父さん見てますか』は、歌謡祭の構成と司会を務められた合田道人さんが詞を書き、五木ひろしさんが曲を作るという豪華なタッグが実現しました。

合田さんが『あゝ上野駅』のアンサーソングのような詞を書いてくださって、その詞を見た瞬間に五木さんはどんな曲に仕上がるかが見えたそうです。出来上がった歌を聴いたときは、本格演歌で不安がよぎりましたが、五木さんは「無理やりこぶしを入れて演歌にすることはないよ」とおっしゃって、工藤夕貴が『父さん見てますか』を歌ったらこんな歌になるのではないかと思い描いて、私のキーに合わせてデモ音源を吹きこんでくださいました。でも、私には難しくて、五木さんのデモ音源のようには歌えなかったんです。私は長年俳優をやってきたからか、どうしても歌うときに演じてしまう自分がいたんですよね。そういう歌い方では歌詞がみなさんの心に届かないわけです。そこで五木さんの音源をベースに合田さんがさらにかみ砕いて、歌詞の言葉ひとつひとつが聴いてくださる方の心に響くように、気持ちを乗せて歌うにはどのような歌い方がいいのかと、徹底的に歌唱指導してくださいました。それを受けて、私も必死に合田さんのアドバイスを歌詞に書き込んでレコーディングに臨んだんです。

──レコーディングにあたってかなり準備をされたんですね。

試験前の受験生みたいな感覚でしたね(笑)。教えていただいたことをアンチョコのように紙に書いてレコーディングスタジオに持っていったのですが、しっかり歌えるだろうかと緊張感に押しつぶされそうになりました。アイドル時代に何曲もレコーディングをしてきましたが、こんなに練習したのも、緊張したのも初めてです。でも、私が一生懸命レッスンしていることを知った合田さんの奥様が、私のためにおにぎりを握って差し入れをしてくださったんです。その気持ちがとてもうれしくて。いろいろなご縁がめぐりめぐって『父さん見てますか』という曲に出逢えたこと、そして『あゝ上野駅』も歌えたことに感謝感謝のレコーディングとなりました。私にとって、この2曲は縁歌です。

父の声のトーンが私の喉に生きている

──お父様との思い出もよみがえったのではないでしょうか。

父と一緒に暮らしたのは12歳までです。思い出すことといえば「最近こんな外国の歌を覚えたんだよ」と話したり、お酒を飲みながらおちゃめな笑顔を見せたりする父の姿ですね。私は子どもだったということもあって、父と人生の在り方や生き方を語り合ったことはありませんでした。でも、父が私に伝えたかったことが合田さんを通じて『父さん見てますか』という歌になったと思うんです。父からのメッセージだと思って『父さん見てますか』を受けとめ、在りし日の父の姿を思い浮かべながら『あゝ上野駅』をレコーディングしました。出来上がった歌を聴いてみたら、父の声のトーンが私の喉に生きているなと、自分でも思ったんですよね。私もこの曲を歌う運命だったのだなと感じています。

──『父さん見てますか』のミュージックビデオは雄大な富士山が印象的です。

懇意にしている映画監督の中村佳代さんと世界的デザイナーのAkiko Elizabeth Maieさんにお力添えをいただき、今の私を映すミュージックビデオにしようと意気投合しました。背景には、いつも私を見守ってくださっている富士山に登場していただき、Akiko Elizabeth Maieさんにはハイファッションのドレスを作っていただいて、大満足の作品に仕上がったと自負しています。MV撮影当日は天気予報で雨が降るはずだったのですが、お願いしたらしっかり富士山が出てきてくださったんです! 日本一の富士山の雄姿を楽しむだけでもご覧いただく価値があると思います。日本には古くから山に神が宿るという考え方がありますが、富士山はまさに神様のような山。圧倒的な力を持っていると思うんです。富士山が見えない生活なんて私には考えられません!

人生はチョコレートボックスのようなもの

──そんな富士山のふもとで、芸能活動の傍ら、農業に勤しんでいらっしゃると伺いました。

若いころは食事の内容なんて考えたことがなかったんです。お腹がいっぱいになればいいと漠然と思っていて、アメリカに住んでいたころは下手するとポテトチップスとコーラでお腹を満たしていたんですよね。ところが、そんな生活を続けていたら体調を崩してしまったんです。そして、時を同じくして乳がんと共生しているカナダ人女性と出会いました。彼女はとても明るくて前向きな女性で、病と闘うという姿勢ではなく、共に生きるという選択をしていて、「体は自分が食べたもので構成されているんだよ」と教えてくださったんです。そこで命について見つめ直して、食材にも気をつけるようになりました。それ以降、安心安全な食べ物をいただきたいと考えるようになって、まだオーガニックな食材が今ほど簡単に手に入れられる時代でもなかったので、「だったら自分で作っちゃおう!」と思って農業を始めたんです。命や自然について考えるきっかけも、人とのご縁からいただいたんですよね。しみじみとご縁のありがたみを感じています。

──ハリウッドにも挑戦して、帰国されてからは農業に挑戦して、今度は演歌と、そのチャレンジ精神はどこから湧き上がってくるのでしょうか?

せっかく生きているわけですし、楽しいことは一生懸命やりたいんですよね。だから、チャンスがめぐってきたなら、全力で楽しみたいと考えています。もちろん、人生は楽しいことばかりではありません。葉っぱに表と裏があるように、どんなことも表裏一体です。でも、自分で選択したことは楽しんでいきたいなと思っています。そんな考えに至ったタイミングで、亡き父を思う歌と、父が愛した歌を歌うことになり、来年芸能生活40周年を迎えます。改めて、「人生はチョコレートボックスのようだな」と実感するばかりです。みなさんの前でもっと歌っていきたいですし、機会があればみなさんにもカラオケで歌っていただきたいですね。

工藤夕貴『父さん見てますか』ミュージックビデオ

工藤夕貴『父さん見てますか』

工藤夕貴『父さん見てますか』YOUKICD-009

2023年11月8日(水)発売

品番:YOUKICD-009
定価:¥1,364 + 税

【収録曲】

1. 父さん見てますか (作詩:合田道人 作曲:五木ひろし 編曲:佐藤和豊)
2. あゝ上野駅 (作詩:関口義明 作曲:荒井英一 編曲:鳴海周平)
3. 父さん見てますか (オリジナル・カラオケ )
4. あゝ上野駅 (オリジナル・カラオケ)

配信リンク:
https://urtlavybe.lnk.to/YoukiKudoh

工藤夕貴 プロフィール

1971年東京都生まれ。84年のカルトムービー『逆噴射家族』/同作挿入曲『野生時代』にて女優・アイドル歌手としてデビュー。以降もハミングバード、ビクターより複数のシングル盤・アルバムをリリース。89年には、世界中のシネフィルから絶大な支持を得る映画監督・ジム・ジャームッシュ『ミステリー・トレイン』への出演が決定。以降も『ピクチャーブライド』、主演作『ヒマラヤ杉に降る雪』など海外作品へ多数出演し国際派女優としての礎を築く。2005年の帰国後は富士山の麓で無施肥農業を開始。その独自のライフスタイルにも注目が集まった。近作に映画『青の帰り道』、ドラマ『下町ロケット』(TBS)、主演作『山女日記3』(NHK BSP)、ドラマ『ケーキの切れない非行少年たち』(NHK BS1)などに出演。また、2015年にはウルトラ・ヴァイヴより「野生時代 ハミング・バード・イヤーズ・コンプリートシングルス」が、本年8月にはビクターよりマスターピース・コレクション~フィメール・シティポップ名作選としてアルバム「SURPRISE」が、それぞれ再発されるなど、近年、女優のみならず、シンガーとしての側面に再び注目が集まっている。

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