市川由紀乃が鉄壁の布陣による新曲『ちりぬるを』をリリース  「歌うたびに身体に電流が走っています」

2026.5.26

昨年、10カ月に及ぶ闘病を経て、シングル『』で復帰を果たした市川由紀乃。5月13日にリリースされた新曲『ちりぬるを』は、作詞 松井五郎、作曲 幸耕平、編曲 佐藤和豊という『』と同じ制作チームによる、遊郭を舞台に身分違いの恋を描いたドラマティックな楽曲。本作にかける思い、闘病中に一度は諦めかけたという表舞台への復帰を果たした原動力や意識の変化などを聞いた。


運命を感じた新曲『ちりぬるを』との出会い

――新曲『ちりぬるを』は、明治時代の遊郭を舞台に、身分違いの恋に苦しむ女性の心情を描いた楽曲ですが、初めて聴かれたときの印象は。

まず壮大でドラマティックな和の世界、そして叶わぬ恋と知りながらすべてを捧げる真っ直ぐな女心を感じて、「とにかく好き!」って思いました。今も毎回歌うたび、聴くたびに、身体に電流が走っています(笑)。

――遊郭が舞台の作品といえば、今年2月に大阪・新歌舞伎座で開催された「三山ひろし特別公演」の『紺屋と高尾』で、市川さんは初の花魁役を演じられましたね。

『ちりぬるを』の主人公は、劇場で演じた花魁よりクラスが下で、ハッピーエンドではないのですが、世界観はリンクするところが多かったので、お芝居で演じた経験が歌に活かせていると思います。

松井先生は『ちりぬるを』の詩を書かれたとき、私が舞台で花魁を演じることはご存じなかったんです。しかもこの歌で身につけているお着物には、「ちりぬるを」の文字が描かれているのですが、あつらえたわけではなく、偶然見つけたもの。この歌とのめぐり合わせに運命的なものを感じています。

――『ちりぬるを』というタイトルは、いろは歌の冒頭「色は匂へど 散りぬるを」に由来しているそうですが、その一節が描かれた着物に偶然出会うとは、すごいご縁ですね。

1月に名古屋の御園座で藤あや子さんとの特別公演に出演させていただいたときのことでした。毎回、新曲を出す際には作品のイメージを大事にしてお着物を選んでいるので、新曲が『ちりぬるを』に決まり、公演が終わった後に名古屋からいつもお世話になっている京都の呉服屋さんまで探しに行ったんです。お店の推しなどいろいろ見させていただいているときに、ヘアメイクさんが脇に積み重ねられていた着物の中からふと気になる柄を見つけてたまたま引き出してみたら、「“ちりぬるを”って描いてある!」って! ここでもまた身体に電流が走りました(笑)。

女性の強さが前に出た楽曲

――レコーディングはいかがでしたか。

レコーディングまで幸先生のもとでレッスンを重ねていましたので、気持ちよく歌えて、あっという間に時間が過ぎました。ただ、「最後にもう1回歌わせてください」ってお願いしたら、幸先生が「だったら1人カラオケボックスみたいな感じで行ってこい」と言ってくださって(笑)。最後にもう1度気持ちよく歌わせてもらって、楽しく終えられたレコーディングでした。

――カラオケで上手く歌えたらかっこいいと言ってもらえそうな曲です。皆さんが歌うときのアドバイスをお願いします!

まず歌いだしは、語るような、ささやくような感じから入って、少しずつ感情を高めていって〈一度きりの 恋だもの〉につなげていただき、最後の〈あなたの夢に 血を流す〉で気持ちよく着地していただけたらと思います。松井先生の歌詞って本当に文学的で、品の良さを感じつつも、ちょっと刺激的な部分もあったりして、その唯一無二の世界観に浸って歌っていただければ、きっと上手に歌えるはずです。

――前作の『朧』の制作にあたり、松井先生から「どんな歌を歌いたいか」と聞かれて「強い女心が好き」と答えられたと聞きました。本作も松井先生が「縋(すが)らず 強請(ねだ)らず 媚(こ)びず どう生きるかの 一線を知っている 女の姿を 描きたかった」と語られているとおり、芯の強い女性が描かれていますね。

〈忘れてください〉という歌詞があるのですが、本当は忘れないでと思っているのに、そう言ってしまう……裏腹な感情が歌詞の中にたくさん込められていて、芯の部分に揺るがない強さを持った女性だと思いますね。

昔の日本では、男性の2~3歩後からついていくような女性が奥ゆかしくて美しいと言われていたかもしれませんが、実際には強さを持った女性たちがさまざまな面で男性をサポートしていたと思うんです。

これまで私は「あなたなしでは」というような、支えてあげたくなるような女性像をたくさん歌ってきましたが、これからは女性の強さが前に出ている楽曲も歌いたいと思っています。

復帰してから歌声が優しくなった!?

――一昨年に卵巣がんと診断されて、開腹手術を受けられ、その後、約5カ月間にわたり6回の抗がん剤治療を経て、昨年復帰されました。病と向き合いながら前向きに活動する市川さんの姿は力強く、多くの方々に勇気を与えています。

活動を休止していた期間は、どれだけたくさんの方々に支えていただいているのだろうという感謝の思いと、1日を穏やかに過ごせることがどれだけ幸せなことかを実感できた1年でした。

闘病中はどこか復帰を諦めていた時期もあったんです。でも、由紀さおりさんをはじめとする諸先輩方や歌手仲間たち、そしてスタッフ、家族、ファンの皆さんが私を引っ張ってくださいました。

さらに復帰してからは、お客様が温かく迎えてくださって、「あぁ、戻ってこられてよかった」という喜びはもちろん、歌えることが当たり前ではないことにも気づかせてもらえました。

――復帰を諦めかけたこともあったとは。戻ってこられるまでの道のりは厳しいものだったのですね。

開腹手術をしましたし、抗がん剤治療も辛かったですからね。治療が終わってから幸先生のレッスンに通い始めて、まず自分のオリジナル曲がちゃんと歌えるかというのがスタートラインでした。高音はお腹に力が入れられなくてフラッとしてしまうし、ロングトーンも最初は息が続きませんでした。もうダメなのかなって思うことが何度もあって。

そんな状態でも、常に私の周りにいてくださる方々が「大丈夫」と声をかけてくださり、その励ましに救われて、ひたすら練習しかないと思って続けてこられました。そのうち徐々に出なかった音が出るようになり、伸ばせなかった音が伸ばせるようになると、もう本当に嬉しくて。声を出すことが楽しくて、「やっぱり自分は歌が好きなんだ」と再確認しました。

――その辛かった時間が表現者として新たな糧になっていると感じられることはありますか。

闘病後、幸先生が「由紀乃の声が優しくなった」とおっしゃったんです。私は元からそんなにキツくないぞと思いながらも(笑)、やっぱり病によりいろいろな経験をして、どこか気持ちのうえでも変化した部分があるのかもしれません。

というのも、最初にご指導いただいた恩師の市川昭介先生から「性格が歌に出る」と教えられていたんです。キツイ性格だとキツさが出て、一方的に「私の歌を聴いて」という歌い方になり、お客様と自分の歌が喧嘩してしまうと。だからいろいろな歌を表現するためには、歌い手は常に穏やかで優しい気持ちでいないといけないと教えていただきました。

その教えを常に意識していたつもりですが、「ただ歌えること」が幸せであることを痛感している今、改めて振り返ってみると、これまではプレッシャーや心の葛藤など負の感情が知らない間に歌に出たことがあったかもしれないと思ったんです。今は辛い思いをした分だけ、内面が豊かになったのかもしれないと自分でも感じています。

――新たな市川さんは、カップリング曲『こんな夜にはワルツでも』からも感じられます。

『ちりぬるを』と同じ先生方の楽曲ですが、私の過去の作品の中にはなかった、とても幸せなラブラブな2人が描かれたワルツです。愛する人と自然に手を取り合って踊ってみたくなるような曲に仕上がりましたので、穏やかな気持ちになっていただけると思います。

矢沢永吉さんを絶賛推し活中

――ところで、病気療養期間にハマったマイブームがあるとうかがったのですが。

矢沢永吉さんです! 永ちゃん大好き! 一昨年の自宅療養期間中にいろいろな音楽を聴き、映像を見る中で、矢沢さんが過去に出演されていたトーク番組やYouTubeにあがっている語録に胸をズキュンと射貫かれて、生きる力をいただきました。

私は好きになるとその人のことをもっともっと知りたくなるんです。CDを買いまくり、著作『成りあがり』も取り寄せて、どんどん深追いして、昨年はライブに行ってタオルを振ってきましたし、先日は期間限定の原宿のポップアップストアに行ってグッズも買ってきました。目下、絶賛推し活中です(笑)。

広島から夢を追いかけて上京して、76歳の今も歌い続けて夢を与えてくださる。本当にスーパースターだなと思いますし、50歳になって矢沢さんの音楽の素晴らしさを感じることができて、私自身幸せな人生だとすら思います。

――同じ歌手として、矢沢さんから学びになっていることはありますか。

矢沢さんと同じところに入れてもらうには、私はもっと頑張らなければいけない身ですが、本当に大きな学びがあります。矢沢さんはコンサートでも、1枚のアルバムを聴いても、その世界に惹き込まれ、別世界へと連れていってくださる。気が付くとあっという間に時間が経ってしまっているんです。

私自身、自分がコンサートをやらせていただく中で、お客様にそのような時間を提供できているかというと、まだまだだなと思います。1曲1曲に対する集中力や表現力、幅広い音楽から生み出される世界観と、とにかく何もかもがカッコイイと思います!

――3月から全国7カ所で開催している「新章」コンサートでは、矢沢さんの『止まらないHa~Ha』を披露されて、会場と一体となって熱唱されました。

矢沢さんの作品の中でも、力をいただける大好きな1曲ということで披露させていただきました。会場のお客様にタオルを投げた瞬間に幸せを感じました(笑)。

――その「新章」コンサートでは、歌と演技を融合させた歌芝居も披露されています。

過去には先輩方のカバー曲でお芝居をやらせていただいたことがあったのですが、今回は自分のオリジナル曲を歌芝居にしています。自分とは違う女性の生き方をお芝居で演じられるのはやはり楽しいです。今回はちょっと弱いタイプの女性で最後は情念の歌で終わる構成なのですが、いつかは泣きはらして顔がぐちゃぐちゃになって、それでももがきながら歌って生きていくというような女性を表現してみたいです。

――故郷の埼玉を皮切りに、福岡、宮崎、千葉と回られて、残るは6月の京都と和歌山、東京ですね。

お客様が本当に温かく迎えてくださって、緞帳が上がって1曲目を歌い始めたときに、皆様からの「おかえりなさい」というお気持ちを肌で感じて、いっぱいの幸せをいただいています。

コンサートの終了後のお見送り会で、「私も由紀乃ちゃんと同じ病気です」「今、抗がん剤治療中で今日はウィッグなんです」「うちの女房が同じ病気の闘病中で」というお声をたくさんいただいて。皆様が私にその辛い思いを伝えてくださることを重く受け止めています。

病気の方に「頑張って」と言ってはいけないとされていますけど、私の場合、自分が病気になったからこそ、今頑張っている方々に「一緒に頑張りましょうね!」って言うことができる。復帰後は、これまで以上にお客様と心を通じ合わせた会話ができることがコンサートの喜びのひとつに加わりました。

――今後はどのような目標を抱いていますか。

娘さんが私と同じ年齢で同じ病だというお母様から、「由紀乃さんのことを話したら、娘も社会復帰に向けて頑張り始めた」というお手紙をいただいたことがあります。私自身がそのお手紙に励まされて、今はとにかく1日でも長く元気に歌い続けることが大きな目標となっています。そして、自分と同じ病で闘っていらっしゃる方やそのご家族の方のお役に立てる活動もしていきたいです。

そして、これは以前から抱いていた目標ですが、日本の演歌・歌謡曲を、そして素晴らしい和の文化を世界に広めていきたいです。

――『ちりぬるを』の歌の世界観はもちろん、お着物も海外の方々の目に魅力的に映りそうです。

今はお着物もコーディネイトを含めていろいろな着方が提案できると思いますので、今後は楽曲に合わせて、革のベルトを帯締めに使うとか、ブーツを合わせるとか、海外の方が見ても楽しく着られる着方や崩し方も取り入れていけたらと思っています。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

演歌歌謡曲界の諸先輩方とご一緒させていただくたびに、その歌声からいろいろなことを乗り越えられてきた皆さんの人生を感じ、私ももっともっと頑張らなくてはと思うんです。

そしていつか自分も先輩方のような歌の力をファンの皆様に与えられる存在になりたいと思っています。これからも皆様のお心に届く歌が歌えますようもっともっと精進してまいりますので、応援をどうぞよろしくお願いいたします。

市川由紀乃『ちりぬるを』ミュージックビデオ

市川由紀乃『ちりぬるを』

市川由紀乃「ちりぬるを」TypeA KIZM843-4

発売中

TYPE-A(CD+DVD)

品番:KIZM-843〜4
価格:¥2,500(税込)

【収録曲】

1.ちりぬるを(作詩:松井五郎/作曲:幸耕平/編曲:佐藤和豊)
2.こんな夜にはワルツでも(作詩:松井五郎/作曲:幸耕平/編曲:佐藤和豊)
3.ちりぬるを(オリジナル・カラオケ)
4.ちりぬるを(一般用・半音下げカラオケ)
5.こんな夜にはワルツでも(オリジナル・カラオケ)
6.こんな夜にはワルツでも(一般用・半音下げカラオケ)

【DVD収録内容】

『ちりぬるを』ミュージックビデオ
『ちりぬるを』ミュージックビデオ メイキング映像

【仕様】

フォトカード全3種のうち1枚ランダムで封入(初回製造分のみ)

市川由紀乃「ちりぬるを」TypeB KICM31195

TYPE-B

品番:KICM-31195
価格:¥1,700(税込)

【収録曲】

1.ちりぬるを(作詩:松井五郎/作曲:幸耕平/編曲:佐藤和豊)
2.こんな夜にはワルツでも(作詩:松井五郎/作曲:幸耕平/編曲:佐藤和豊)
3.ちりぬるを(オリジナル・カラオケ)
4.ちりぬるを(一般用・半音下げカラオケ)
5.こんな夜にはワルツでも(オリジナル・カラオケ)
6.こんな夜にはワルツでも(一般用・半音下げカラオケ)

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