石川さゆり「音楽でみなさんの気持ちを元気にできるお手伝いができれば」

2019.10.4

『津軽海峡・冬景色』『能登半島』『天城越え』『風の盆恋歌』など、昭和・平成の音楽史上に残る数々の名曲を世に送り出し、紅白歌合戦には41回出場、演歌・歌謡界の第一線で活躍し続けている石川さゆりさん。令和最初のシングルとして9月11日にリリースした『河童』について、さらに、“うたびと”としてのこだわりや、歌への思いについて語っていただいた。

━━令和最初の、そして通算125枚目のシングルとなる『河童』は、作詞家・吉田旺と作曲家・杉本眞人の黄金タッグによる“大人のための極上演歌”。切れ味のいい、ロック調の曲に乗せて、漁師を引退したら一緒になろうと約束をした男性を失い、残された女性の心情を歌う。
『河童』を作り上げて、改めて、曲と詞の塩梅はとても大事だと感じました。ウエットな歌詞に哀しいメロディーを乗せるという作り方も素敵ですが、今回はもっと潔く、女の人の力強さや悲しさを出せればと考え、杉本さんに曲を書いていただきました。グンと押し出すような歌い出しの部分から、女の人の強さや深さ、そして曲と詞の塩梅の美しさを感じていただけると思います

━━歌作りにおいては、常に、「今、時代の中で皆さんが何を欲しているのか、自分が何を皆さんにお届けしたいかを感じながらたずさわっている」。それはデビューから4年、石川さゆりの名を日本全国に知らしめた『津軽海峡・冬景色』の作詞を手掛けた阿久悠氏から教えられたことでもあると言う。
阿久悠先生には、ニュースを見なさい、新聞を読みなさいと言われました。なぜなら、今、皆さんが何に乾いているのかを教えてもらえるからと。歌というのは、一番身近な文化ですから、作るにしても、歌うにしても、今の時代を感じていないといけないんですね

━━さらに“うたびと”として大切にしているのは、「人の心の痛みがわかり、優しさを持った人間であること」。
よく言うんですが、詞とメロディーというのは、人間の骨と肉で、そこに血を通わせるのが歌い手の役目です。どんな血を流し、血圧が上がるのか下がるのか。音のつややかさだけでいえば、ぜったい10代20代のほうが声はピーンと張っています。でも、歌い手に大切なのは、声と空気のブレンドの塩梅です。いい歳の重ね方をすることで、いろいろな感情を蓄え、いろいろなブレンドを生むことができる、そんな歌手であれたらと思っています

━━そんな石川さんが考える歌の力とは。
どんな細い路地だろうが、隙間だろうが、人が入れないところにも歌は流れていき、人の心に浸みていきます。大変な毎日を暮らしていても、歌は人の耳に届きます。歌というのは、どんな人の隣にも寄り添える。それが歌の力ではないでしょうか。それから、この歌が流行っていた頃、自分はお父さんと結婚したとか、歌と自分の人生を重ねてくださる方はたくさんいらっしゃいます。私たち作り手側の思いを越えて、私たちには計り知れないくらい、歌は聞いてくださる皆さんによって、大きく育てられていく。それも歌の力だと思います

━━1988年にリリースした『童~Warashi~』に続き、平成最後の年には「民謡」をモチーフとしたオリジナルアルバム『民~Tami~』をリリースするなど、日本の音楽を歌うことにも力を注ぐ。その根底には「日本の音楽、日本の言葉の美しさを伝えたい」という思いがある。
私は海外を旅行したとき、必ず、今、その国でヒットしている曲と、その国の民族音楽のCDを買ってくるんです。同じように、外国のお客様や日本の若者たちに、これが日本の歌です、日本の音楽ですと提供できるものをという思いで『童』『民』は作りました。来年は東京でオリンピックが開催され、さらに多くのお客様が訪日されると思いますので、それまでにもう一つ、日本の音楽にまつわる企画を実現するべく、今、計画中です。日本の歌はインテンポではなく、不思議なリズムがいっぱいあります。また、三味線の弦を押さえる位置を“勘所(かんどころ)”と言うなど、日本人の感性はとても素敵です。そんなふうに世界に誇れる日本の文化や日本人の変わらない心を歌い継ぐことも、47年近く歌わせていただいてきた私のお役目でもあるのかなと。そして、それを聞いた若い人たちが、日本の歌を繋いでくれればいいなと思っています

━━デビューから47年、これまでの業績が讃えられ、「令和」初となる2019年春の紫綬褒章を受章した。
私に関わってくれている人たちが皆、喜んでくれたことが何よりうれしかったですね。あと、自分がこれまでやってきたことが間違いじゃない、この方向に進んでいいんだという関所の判子をもらったような気持ちになりました。
令和の日本はどうなっていくのか。私は音楽で何ができるんだろうと言うことを常に考え、一曲でも皆さんの心に住みつける歌を作って、歌で明るく元気にできるお手伝いができればと思っています。たかが歌い手、されど歌です

作品情報

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石川さゆり「河童」

新しい時代 最初のシングル。石川さゆり×吉田 旺×杉本眞人の黄金タッグによる大人のための極上演歌。カップリング曲:「孤守酒(こもりざけ)」/TECA-13956/定価:¥1,204円(税別)

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