大川栄策 独占インタビュー　「いつでも何か機会があればチャレンジするという気持ちを常に大事に」

2019.10.25

平成の最後となった４月に、通算102枚目となるシングル『未練なんだぜ』をリリースした大川栄策。別れた女を忘れられずに男泣きする“未練心”を、激しくも優しく、艶っぽく大川流に唄い上げた。『未練なんだぜ』を通し、歌手・大川栄策に宿る演歌に対する思いを聞いた。

「感動する心」、「歌に慣れないこと」――古賀政男先生の教えを胸に歌い続けます

――新曲『未練なんだぜ』では、”筑紫竜平”のペンネームで作曲も手がけた大川さんに、まずは曲作りの極意を尋ねた。

「やっぱり先に歌詞がないとリズムのノリとか決めるのはなかなか難しいですね。それに基本的に演歌は定型詩。その定型に当てはめられた短い言葉の一つひとつにいろんな要素が詰まっている。だからイメージもいろいろと湧いてくるんです。曲作りの時は、そこから広げていきますね」

――特に今回は心に秘めた男の思いがあふれ出るような、ロマンチックな曲となっている。

「男のウェットな心情を雨にたくした歌なんです。泣いているんだと。自分でもこらえきれない思いが高まっているんだと。そういう気持ちを表現できるように作ろうと思ったんですね。だから前半は静かにスローワルツでスタート。そこから男の気持ちを爆発的に表現していけたらなと考えました」

――大川さんの曲はカラオケでも難しいと言われている。そんな曲をうまく歌うためのポイントとは？

「基本的には自分の歌世界をどう表現するかということでしょうね。歌の見本としてプロの歌い手の歌があるわけですが、それはあくまでも見本なんです。それぞれ人によって感性が違うわけですから。『未練なんだぜ』もいかに自分の感性で歌っていただくかが大事じゃないかと思います。それから声の質というのがあるでしょう。自分の声にあったもの、例えば低音が美しく響く人なのか、ハイトーンが得意なのかとか、それをベースに歌い方を考えたら良いと思います」

 

――歌謡塾を主催している大川さんは、『自分にはどんな歌が似合うのか』と質問されることが多いという。

「まず、自分の声の特徴を見極めるのが大事。例えば僕は、演歌独特のこぶしを多用する歌い手なんですね。演歌と歌謡曲を比べると歌謡曲はこぶしを回さないでしょ。その分、みんなで一緒に口ずさめるような歌となる。でも、ある種の演歌はこぶしで、音の落差を使って表現するんです。そういったこぶしをどう使うかも、歌う時のポイントになります。ただ、こぶしだけは勉強したからといって急にはできないので、難しいですけどね。

前作の『男の火花』や『未練なんだぜ』は男唄ですが、僕は、実は女唄が得意なんですよ。リリースした102枚のシングルの中で８割は女唄なんです。それは僕がそういう声だからです。『さざんかの宿』も純然たる女唄ではないけれど、いわゆる相聞歌という形式の男と女の会話歌であり、大きく分ければ“艶唄”。艶のある愛憎劇を歌っています。私の声は、そういう歌に合うんです。柔らかく声を出す方がいい。芯がしっかりしている、スパスパと言い切るような声は愛憎劇には似合わないと思います。もちろん一般論ですが。とにかく、皆さんも自分の声に合うジャンルの曲を見つけて歌うのがよろしいのではないかと思います」

――高校卒業と同時に古賀政男氏に師事したという大川さんは、かつて古賀氏に言われた言葉を今も大切にしている。

「古賀先生がよくおっしゃってた言葉に『花を愛でる心をいつも養いなさい』というのがありました。大きくいえばモノに感動する心ですよ。どんな小さなことも、敏感に感じる心を養いなさいと。要は感性を磨けってことでしょうね。

それともう一つ、『歌になれちゃいけない』と。例えば『さざんかの宿』はもう何万回も歌ってます。でも歌に慣れたらやっつけ仕事になる。やっつけ仕事では人を感動させられませんよね。やはり描かれた人間のドラマを丁寧に歌い込むことで、その世界観が聴いてくださる人に伝わるんです。

ステージなどで歌う時は、会場やスタッフ、機材などによって同じ歌でも違うものになってしまうんですが、どんな状況の中でも密度の濃い歌を提供するのが僕の使命だと思ってます。そのためには自分にいろいろチャージしていかないと。年齢を経るとモノに感動する気持ちがとぼしくなってしまいがちですから。いつでも何か機会があればチャレンジするという気持ちを常に大事にして、これからも歌っていきたいと思っています」

出演情報

『歌謡曲の匠』

放送チャンネル：BS12（トゥエルビ）

放送日時：2019年11月19日（火）4：30～5：00

番組ホームページ：https://www.twellv.co.jp/program/music/kayou-takumi/