母の愛と父の背中――氷川きよしのルーツに迫る 「あと何回一緒に過ごせるのかな、守ってあげなきゃって」
2020年2月2日、デビュー満20歳を迎えた氷川きよし。2月4日、デビュー21年目の初の新曲としてリリースした『母』は、いつの時代も変わらない母への思いを歌い上げている。
「新生・氷川きよしとして、21年目をゼロから、また母のおなかから産声をあげた氷川きよしという気持ちで、真っ白な思いで歌っていきたいと思って、つくっていただきました。長く歌ってきたという自負からうぬぼれが出てくるかもしれない。そんな自分を戒める気持ちも持ちつつ、自分自身が母のような包容力で、すべての人たちに愛を持ちながら歌っていきたいと思っています」
『母』制作のきっかけは、3年くらい前、作詞家のなかにし礼と仕事をした際、氷川自身から、「『母』一文字をタイトルにした歌を作ってほしい」と依頼したことだった。なかにしが氷川の歌詞を手掛けるのは、2012年、日本有線大賞を受賞した『櫻』以来2作目となる。
「『櫻』に続き、また一文字です。自分自身の歌に、股旅シリーズとか、リズムシリーズとかつけているんですが、これは“氷川きよしのヒューマン一文字シリーズ”です(笑)。3年かけて、なかにし先生が自分の中の母のイメージをしっかり伝えられる物語をつくってくださいました。世界中どなたにもお母さんがいて、お母さんに対する思いは世界共通です。いろいろな角度から母を感じられる作品になっているので、それぞれのお母さんを思い浮かべながら聞いていただけたらと思います」
もちろん、根底には、氷川自身の母への愛、そして感謝の念がある。
「うちの母は一人で喫茶店でコーヒーを飲んでいて、隣のおば様たちが人の悪口を言って盛り上がっているのを聞いて、『私はあんなふうになりたくない』って言うような人なんです。そういう姿を見て、自分も母のようになりたいと思って育ってきたし、歌手になるために上京したときも、ひとりっ子で母とはべったりの関係でしたから、寂しい気持ちはあったと思うんですが、あなたの人生だからって尊重してくれて。母がどうやって自分を育ててくれたのか、どういう思いで自分を見守っていてくれたのか、今になってすごく気づくことが多くて。歌手になってからもずいぶん心配かけましたけど、辛い時期や道に迷った時、母はいつも、あなたはあなたでしかないんだからって、1回きりの人生なんだから自分が好きなように生きなさいって言ってくれて、母がいるから励まされて、がんばってこられた。21年目を迎えた今、迷わずに自分が正しいと思う道を進めているのは、母はもちろん、両親に尊重され、愛情たっぷり育てられたからだと感謝しているんです」
その気持ちを表すように、『母』のAタイプのカップリング『いつか会えますように』では愛をくれたもう一人の存在である父親を歌っている。
「歌詞は理由あって子供の頃に離れ離れになってしまった父親を思う内容なので、実際の我が家とは違うのですが、自分のようにそういう経験がない人も、また、お世話になった人や包容力に溢れた大切な人を思い浮かべながらも聞いていただけるバラードになっています。うちの父は、厳格で、小学生の時、家で家庭科で習ったオムレツを作っていたら、男が料理なんかするなってすっごい文句を言うような人で。当時は、なんでそんなルールを作るのか意味わかんない!って思いましたけど、でも、今、子供時代を思い出すと、寝ている自分に毛布をかけてくれたこととか、みかんを2つお土産に買ってきてくれたこととか、そういうちょっとしたことがうれしかったし、すごく愛情を注がれたよなって。家族のために頑張ってくれていた背中も見てきましたしね。若い頃は気づかなかったけど、一つ一つの愛情がほんとうにありがたかったと今になってすごく思うんです。2人ともいろいろなことを乗り越えて生きてきて、今、自分はそれをちゃんと受け止められているかな、返せているのかなって思ってしまうんですけどね。歳を重ねてすごく小さく見えますし、あと何回一緒に過ごせるのかな、守ってあげなきゃって思うと涙が出てきてしまうんですけど。でも、こうして21年目の新たなスタートに、自分の人生の原点にクローズアップした曲が出せるのはすごくうれしいです」
『母』にはもう2タイプ、曲調の違うカップリングが用意されている。Bタイプは『きよしの令和音頭』に続く“世界平和シリーズ”『東京ヨイトコ音頭』。なんとお囃子は、氷川自身が女性の声を出してひとり二役で歌っている。
「アレンジも自分で考えて、土臭さが出るような声で『よいしょ』とか『そ~れ』とかやっています。何でも自分でやっちゃうのが好きなんです。経費をかければいいってもんじゃないですからね(笑)。オリンピックイヤーに、オリジナルで、みんなで盛り上がれるような音頭をやりたいと思ってつくった曲で、男女問わず、みんなが幸せになり、少しずつ、一歩ずつ、お互いを理解し、個性の花を咲かせてほしい、人にとって大切なものを表現しています」
Cタイプは氷川の基本である演歌『おもいで酒場』。
「好きな男性に対するピュアな女心を描いた作品です。胸がキュッとなる女性の心を歌っています」
3タイプとも、ジャケット写真は、21周年をもう一度ゼロから歩み出す自身の「真っ白な気持ち」を描いた白一色。公開されているミュージックビデオも白一色で、生まれ変わった、新しいスタートを切る氷川きよしを表現している。2020年、新生・氷川きよしの活躍から目が離せない。
【氷川きよし独占インタビュー前編】:【祝・デビュー21年目】新生・氷川きよし独占インタビュー 「苦しめば苦しむほどいい歌が出てくると思う」
作品情報
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氷川きよし『母』
いつの時代も変わらない母への思いを表現した楽曲。作曲は2012年日本レコード大賞優秀作品賞受賞作品『櫻』の作詩をつとめた、なかにし礼氏。 2月4日発売/¥1,227+税/カップリング:【Aタイプ】『いつか会えますように』、【Bタイプ】『東京ヨイトコ音頭2020』【Cタイプ】『おもいで酒場』