石川さゆり 独占インタビュー「性根が定まっていれば、音楽はどんな風にも変化していっていいと思っています」

2020.4.14

デビュー48周年を迎えた3月25日、石川さゆりさんが126枚目(!)のシングル『しあわせに・なりたいね』をリリースした。以前、〈うたびと〉のインタビューで、曲作りのこだわりを「時代の中で皆さんが何を欲しているのか、自分が何を皆さんにお届けしたいかを感じながら作っている」と語っていた石川さん。今回は、「先が見えづらい世の中だからこそ、多くの人の心に寄り添う歌を」。そんな思いを込め、作詞も自らが手掛けたという。

今回の新型コロナウイルスの騒動が起きる前から、日本の社会全体がなんだか不安を抱えていて、みんな疲れているような気がしていました。そんな皆さんの思いを汲み取って、頑張れって励ますのではなく、耳にしたときに、『だよね』『わかる』って言えるような、ちょっと優しい気持ちになっていただけるような歌を作りたかったんです。フッと優しい息を吐くような歌を届けられたらいいって

カップリングは2月に発売したアルバム『粋~Iki~』に収録されている『さのさ』。『粋~Iki~』は、粋で鯔背でちょっとそそっかしい、そんな人間味あふれる日本人が、昔から大切に歌い継いできた小唄、端唄、俗曲などを集めたアルバム。『さのさ』は明治時代に花柳界で盛んに歌われるようになった江戸端唄だ。

最初に“あんな男のひとりやふたり 欲しくばあげましょう”って勝気に歌いながら、最後に、“でもさみしいのよ”って落とす。実に日本人らしい粋で可愛い女心を歌っています。今の時代の女性たちに、こういうカッコイイ日本の女の歌をさらりとカラオケで歌ってみてはいかが?ってお勧めしたくて、カップリングに選びました

三味線を伴奏に歌われてきた『さのさ』を、本作では、ピアノと三味線のセッションで収録。

昔と今とでは、生活のテンポも変わっていますし、今の音楽テイストをミックスしながら届けたいなと思いました。『粋~Iki~』のアルバム全般がそうなんですが、消えてしまうにはあまりにももったいない日本の粋な歌を、今の時代の皆さんに聴いていただきたい、日本のいい音楽を再発見していただきたいという思いで、さまざまにアレンジしています

『粋~Iki~』2020年2月19日発売(TECE-3579)

『粋~Iki~』の制作にあたっては、小唄の稽古や、精通者から話を聞くなど、準備に時間を注いだという石川さん。小唄、端唄、俗曲といった日本の歌の魅力をこう語る。

今のように緩やかな時代ではなく、激動の時も多かったと思うんですけど、歌が実に自由で、生き生きしているんです。笑い飛ばすっていう言葉がありますが、自分たちの暮らしの中で思ったこと、感じたことを歌にして、元気に歌い飛ばしている。それに『さのさ』もそうですが、作者不明の作品が多いんです。皆が歌いたいから歌ってきちゃったんですよね。そんなふうに庶民の暮らしの中から生まれてきたものだから、歌に本物の力があるんです

 

オリジナルだけでなく、「日本の歌を繋いでいきたい」というのも石川さんの“うたびと”としてのこだわりだが、小唄、端唄、俗曲にはこんな思い入れもある。

私がデビューした頃は、市丸さんはじめ、芸者さんから歌い手さんになられたステキな大先輩方がまだいらして、小唄や端唄、俗曲を歌っていらしたんです。私も何度かご一緒させていただく機会があったのですが、もともと芸者さんですから着物姿の身のこなしも歌い方もカッコよくて、子供ながらに大人ってこういう感じなんだって見惚れていました。そういう大先輩方が繋いできたかつての素敵な世界と、今の時代の両方の空気を吸うことのできた自分はすごく幸せなところを生きてきたなって実感しています。(デビュー以来)48年の年月ってそういう時間の流れなのかなっていう思いもあって、一度端唄を歌ってみたいと思い、それが『粋~Iki~』につながりました

『粋~Iki~』は、昭和最後の年にリリースした童謡を歌った『童~Warashi~』、平成最後の年にリリースした民謡を歌った『民~Tami~』に次ぐ、日本を綴る三部作の第三弾。「日本をとにかく皆さんに伝えたい」という思いで三部作を作り上げた今、次はどんな世界観の歌たちを私たちに届けてくれるのか。

日本を綴る三部作を完成させるまで、約30年。2007年に35周年記念企画アルバムとしてリリースした全10枚の『二十世紀の名曲たち』は完成までに10年かかりました。じっくりじっくりとその時感じたことをテーマに決めて作っていくのが性に合っているんですかね(笑)。今も、これから何を見つけてみようかなって思案中です。今回、『粋~Iki~』は、『さのさ』をジャズセッションにしたり、私が作詞作曲をさせていただいた『火事と喧嘩は江戸の華』でKREVAのラップとMIYAVIのギターとコラボしたり、他にもロックテイストにアレンジしたり、錚々たる音楽家の方々と、思いを重ね、力を合わせて作り上げたのですが、私は、自分の中に揺らがない性根を持っていれば、(自分のやる)音楽っていくらでも変化していいと思っているんです。さて、これから何を皆様にお届けすればいいのか――それを考え続けていくのが私のやるべきことだと思っています

作品情報

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石川さゆり『しあわせに・なりたいね』

先が見えずらい世の中だから、多くの人の心に寄り添う歌を。飾らない日常の中にある言葉を通して、心にすっと届く優しい歌。 2020年3月25日発売/¥1,227+税/TECA-20022/カップリング:『さのさ』

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