ブラジルからやってきた正統派演歌歌手・黒木ナルト 厳しい環境の中でこそ輝く”太陽のスマイル”

2020.8.13

弾けるような眩しい笑顔の21歳、黒木ナルト。歌手になるため18歳でブラジルから来日するが、一度は夢破れ、帰国を考えたことも……。しかし周囲の人々の助けもあり、4月8日に『太陽のスマイル〜ナルトの燦々サンバ〜』でデビュー。歌手を目指し日本に来たきっかけや、ポジティブ・シンキングの秘密を伺った。

 

――デビュー曲『太陽のスマイル〜ナルトの燦々サンバ〜』は明るくて楽しい曲で、コロナ渦のモヤモヤしたムードを吹き飛ばしてくれそうです。

ありがとうございます。僕はブラジルから来たので、ブラジル風の「歌謡サンバ」でデビューさせていただきました。カップリング曲はズバリ『演歌の星』。日本に来て3年半経ちますが、当初は日本語が話せなくて周りの人に迷惑をかけたり、予定通りに物事が進まなかったりと辛いことがたくさんあって。それを作詞家の結木瞳先生にお伝えして、僕の思いを反映させた歌詞を書いていただきました。

 

――ブラジルでは3歳からカラオケ大会に出場して、トロフィーを180個もお持ちだとか。

初出場のステージはさすがに覚えていないですが(笑)、動画が残っています。おばあちゃんに教えてもらって、『いぬのおまわりさん』を日本語で歌いました。ブラジルは日系人がとても多くて、毎週のように日本の歌のカラオケ大会がどこかで開かれているので、僕はいつも祖父母の家で歌を練習して、大会に出場していました。おばあちゃんは、田端義夫さんの『かえり船』、おじいちゃんは並木路子さんの『リンゴの唄』や、藤山一郎さんの『長崎の鐘』など、ふたりとも歌が大好きですね。

――おじいさまは1955年に20歳で宮崎県からブラジルに移住、おばあさまも同じ宮崎県から、身ひとつでおじいさまの元へ嫁がれたんですよね。18歳で来日されたナルトさんの身体の中にも「冒険者の血」が流れていらっしゃるのかもしれません。何歳ぐらいから歌手になりたいと思っていましたか?

小さい頃から歌が大好きでしたが、歌手になりたいと心に決めたのは14歳のときです。初めて全国カラオケ大会で優勝して、お客さんが喜んでくれて、将来は歌を仕事にしたいと心から思いました。全国カラオケ大会で優勝すると、日系のイベントに頻繁に呼ばれるようになります。16歳でイベントに出演していたとき、日本人の方に「ナルトくん、日本で演歌歌手にならないか」と声をかけていただきました。そこで2年間お金を貯めて、18歳で日本に来ました。でも実は、その方は芸能関係者ではなかったんです。

 

――どういうことでしょうか!?

僕はチャンスだと思って来日したのですが、1カ月経っても歌手の仕事がないのでおかしいなと思っていたら、そもそもデビューの話はなく、どうもその方は僕にスナックで歌わせて、チップで稼ごうという魂胆だったようです。

 

――ひどい人ですね!

当時は日本語も喋れないし、気付いたら住んでいたアパートも追い出され、僕は荷物を抱えて途方にくれました。そのとき僕は、ブラジルから携帯を持って来てきてはいましたが、Wi-fiがないと繋がらない。それに両親に心配をかけたくなかったので、彼らには連絡しなかったんです。3日間公園に泊まって、昼間はコンビニなどで過ごしました。

 

――大変だ……。

でも、日本で過ごした1カ月の間に、とても親切なご家族と出会いました。その方の家に行ってカタコトの日本語で状況を説明して、お宅に住まわせてもらうことになりました。ブラジルの両親に連絡して、「どうしても歌手になりたいんだったら面倒をみてあげるけど、甘い世界じゃないよ」と言ってくれました。僕も「せっかく日本に来たんだから、やらせてください」と頼みました。その方に出会わなければ、僕はもう日本にいないかもしれないし、ひょっとして今もどこかの公園で寝ているかもしれない。その方は僕のヒーローですね。

――その後、テレビに出演してチャンスが訪れます。

日本語を一生懸命勉強して1年経ち、ある程度喋れるようになった頃から、老人ホームで歌ったり、カラオケ大会に出場するようになりました。そして、オーディションを受けて『THE★カラオケバトル』(テレビ東京系)に出演することができました。実はブラジルでは点数をつけるカラオケの機械を見たことがなくて、100点を取るのはやっぱり難しかったです。なかなかコツが掴めないので、だったら好きな歌で自分の気持ちを伝えたいと思って、大川栄策さんの『はぐれ舟』を歌ったら96点でした。そしてその1カ月後、レコード会社から声をかけていただきました。

 

――デビューが決まったとき、ご両親は?

久しぶりに電話をかけ、「デビューが決まりましたよ」とポルトガル語で報告しました。数秒間返事がなかったので、どうしたのかなと思ったら……泣いていたようです。お父さんが、「これがスタートラインだよ。本当の勝負はこれからだ」と。僕も涙をこらえて「はい、頑張ります!」と答えました。両親も祖父母もすごく喜んでくれました。これからブラジルの家族にも、僕を支えてくださる方々にも、もっともっと喜んでもらえるように頑張ります。

――困難を乗り越えて4月8日にデビューしましたが、翌日に緊急事態宣言が出てしまいました。

ラジオやテレビのお仕事を何本もいただいていたんですが、急にスケジュールが真っ白になって、やっぱりちょっとショックでした。でも、こういう時期だからこそ、ポジティブにならなくてはいけないと思って、「自分を磨く時間をいただいた」と前向きに考えることにしました。

 

――そのポジティブ・シンキングはどこから来ていますか?

この3年半の間に培われたと思います。前向きな気持ちにならないと自分自身がダメになってしまうかもしれなかったので、とにかく前を向こうと思いながら歩いてきました。ポジティブ・シンキングは、たくさんの辛い気持ちの中から生まれてきたのだと思います。

 

――強い精神力は、おじいさんとおばあさん譲りかもしれませんね。黒木さんはご自身のブログで、おじいさんのブラジル移住についての記事「タンポポの手紙」を書いています。

おじいちゃんの日記を元にした私家本『タンポポ』を元に、周りの方に日本語をチェックしてもらいながら記事を書いています。あの当時ブラジルに移住するのは大変な覚悟が必要でした。おじいちゃんとおばあちゃんはすごかったなと思います。

 

――今後の目標は?

やっぱりデビューして、「人生に1回しか挑戦できない新人賞を!」と言いたいところですが、コロナ渦の今、とにかくこの『太陽のスマイル〜ナルトの燦々サンバ〜』という明るい曲で、たくさんの人に元気と笑顔を届けられたらと思います。今、一番できていないのはみなさんに生歌をお届けすることなので、キャンペーンやイベントができるようになったら、ぜひお越しいただけたら本当に嬉しいです。僕の太陽のスマイルを、たっぷりと浴びに来てください!

作品情報

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黒木ナルト『太陽のスマイル~ナルトの燦々サンバ~』

太陽の国ブラジルから七つの海を越えやって来た、日系3世黒木ナルトのデビュー・シングル。サンバ歌謡の表題曲、本格演歌のカップリング曲『演歌の星』と一枚に二つの黒木ナルトの魅力を楽しめる作品。 2020年04月08日発売/TKCA-91261/1,227+税/カップリング:『演歌の星』

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