町あかり 歌って感じた戦前・戦後の流行歌 「“アート”というより、なくてはならない“ご飯”」
70〜80年代歌謡曲のエッセンスを取り入れた、一度聴いたら忘れられないユニークな楽曲と個性的なパフォーマンスで、多くのファンを持つシンガーソングライターの町あかり。平成生まれにも関わらず昭和歌謡を愛する彼女が、70〜80年代歌謡曲の次に注目したのは、昭和の初期や戦後すぐの流行歌!当時の楽曲を独自のアレンジも加えたカバーアルバム『それゆけ!電撃流行歌』を 10月21日(水)にリリースする彼女に令和からグンと遡った時代の楽曲が持つ魅力、今回のアルバムを経て感じたこと、コロナ渦の今に聴いてほしい理由などを聞いた。
――まず初めに、シンガーソングライターである町さんがカバーアルバムをリリースされたことに驚きました。しかも昭和初期や戦後すぐの流行歌!このアルバムができた経緯を聞かせてください。
去年の秋、知り合いのギタリストの方が経営する、横浜のお店のミニライブに出演することになりました。せっかくだから横浜にちなんだ曲を歌おうと曲を探していたら、『港が見える丘』や、『上海帰りのリル』にたどり着きました。それまでは、この年代の歌を知らなかったのですが、めちゃくちゃいい曲でびっくりしました。特に『上海帰りのリル』はストーリー性があってドラマチックで、「いい曲知っちゃった♪」と得した気分でした。
それから年末に、毎年参加しているクラブイベントで、今年は違うことをしようと思って、『青い山脈』『丘を越えて』『憧れのハワイ航路』などのカバーを思いつきました。『丘を越えて』『青い山脈』は知っていましたが、歌えるほどじっくり聴きこんだことはありませんでした。メロディーも歌詞もよくて、衝撃的でしたね。イベント主催者も「こんなに昔の曲をカバーしている人はいないよね」と面白がってくださって。ライブ音源を聴き返してみたら自分でも面白い(笑)。その音源をいろいろな方に送ったら、日本コロムビアのディレクターまで伝わって、今年の初め頃に「カバーアルバムを作りませんか」と声をかけていただきました。
――今、NHK連続テレビ小説「エール」で、昭和の歌が注目されていますよね。いいタイミングだと思います。選曲の基準は?
時期は特に意識したわけじゃなくて、たまたまです(笑)。あまり戦争をイメージさせない歌をたくさん集めていただいて、どこか平和を感じられるような選曲にしました。
――当時の曲を歌ってみていかがでしたか?
まず、J-POPや、70〜80年代の歌謡曲と違う曲の構成が新鮮でした。曲自体は短くて、1番、2番、3番、4番と続くのも新しく感じて。歌詞に関しても、靴磨きの少年を歌った『東京シューシャインボーイ』みたいに時代を感じるテーマの曲もあれば、『丘を越えて』のように、どの時代に聴いても元気が出る曲もある。『青い山脈』では、戦争を感じる「焼けあとの」という歌詞も出てきますが、曲自体は古めかしくなくて、新曲のように聴けて共感できます。私は70〜80年代の歌謡曲が大好きでずっと聴いてきましたが、それ以前の曲は知らないことばかり。まだまだ調べ甲斐があるというか、たくさん研究しなくちゃいけないと思っています。
――いつもは自分で作詞作曲をしているので、自分が歌いやすい曲を作るけれど、今回はそうではなかったので苦心したと伺いました。
めちゃくちゃ時間をかけて歌を猛練習しました。自分で作るときは自分で歌って気持ちがいいように作るので、迷わずに歌えます。今回は自分の曲ではないし、アレンジも原曲と変えて作っていただいたので、どんな風に歌ったら曲にフィットするのか、ディレクターと相談しながら、いろいろな歌い方を試してレコーディングしました。
――一番好きな曲は?
『とんがり帽子』が好きですね。
――昭和21年のラジオドラマ「鐘の鳴る丘」の主題歌ですね。もしかしたら町さんのために作られた曲じゃないかと思うほど、ぴったりです。
いやいや(笑)。『とんがり帽子』とか『東京シューシャインボーイ』は、正直あまり悩まないで、私の中にもともとある要素を活かして歌いました。
――『白い花の咲く頃』や『胸の振子』など、ロマンチックで上品な楽曲を歌う町さんにうっとりしました。
嬉しいです!この2曲は難しくて、本当に苦労しました。いつもより抑えて歌ったり、ウィスパーボイスで歌ったりして。「私、こんな風に歌えるんだ!」と、新しい自分を発見しましたね。
――普段は元気な調子で歌われることが多いので、抑えた歌声にグッときました。
特に『丘を越えて』は難しかったけれど、ものすごく真面目に歌いました。ピコピコとゲーム音楽みたいな面白いアレンジをバックに、ただただ無心に清らかな心で歌いました(笑)。
――ミスマッチの妙がよかったです。
『青い山脈』もそうです。とにかくまっすぐに歌おうと思って。自分の歌では、強弱をつけたり、主人公を演じたりしながら感情を込めて歌うので、まっすぐに歌ったことはほとんどないんです。名曲を素直に歌った今回のアルバム、自分でもすごく気に入っています。
――ご自分で作る楽曲も、このアルバム以降は変わるかもしれませんね。
はい。今回のアルバムを作って、歌に対する“心がけ”のようなものを意識するようになりました。このアルバムを経たことで、自分の中から自然と出てくる、新しい何かがあると思います。歌いやすさを第一に考えずに曲を作ることにも、挑戦していきたいと思います。
――ズバリ、戦前や戦後すぐの歌謡曲の魅力とは?
70〜80年代の歌謡曲より、栄養分が豊かな感じがします(笑)。もちろん歌は娯楽ではありますが、生活に彩りを与える“アート”というより、なくてはならない“ご飯”みたいな感じ。例えば、『アイレ可愛や』は戦時中の曲で、笠置シズ子さんが慰問で歌ったと聞いています。生死に関わる状況の中で、兵隊さんたちがこの曲を聴いて感動していたわけで、当時の人々にとって、音楽は娯楽というより、やっぱり“ご飯”じゃなかったのかなとしみじみ思います。
――最後に『うたびと』読者にメッセージをお願いします
古い曲と思わずに、固定概念にとらわれず、新しい曲として聴いてほしいです。私自身もそんな気持ちで聴いて、歌いました。時代を感じる歌詞も出てくるけれど、今、新型コロナウイルスの影響で生活が変わったことで、辛い気持ちを抱えている人に寄り添うような効果もあると思いました。コロナ渦では誰しも悩んだりしているので、激動の時代に愛された歌が、むしろ今、フィットするのかもしれません。そういう意味では、昔の流行歌を歌ってはいますが、すごく2020年っぽいと思います。ぜひ聴いてください!
町あかり『それゆけ!電撃流行歌』
CD&配信リリース:2020年10月21日
COCP-41255 ¥2,500(税込)
1. 青い山脈
2. 丘を越えて
3. 憧れのハワイ航路
4. 風は海から
5. 青空~アラビアの唄
6. 東京チカチカ
7. 上海帰りのリル
8. サーカスの唄
9. 花言葉の唄(duet with 山田参助)
10. とんがり帽子
11. 東京シューシャインボーイ
12. アイレ可愛や
13. 白い花の咲く頃
14. 胸の振子
15. 港が見える丘
町あかり『別冊!電撃流行歌』
配信限定リリース:2020年10月28日
COKM-42967
1. 上海帰りのリル(別冊 ver.)
2. 憧れのハワイ航路(別冊 ver.)
3. サーカスの唄(別冊 ver.)
4. 港が見える丘(別冊 ver.)
7インチアナログ盤
2020年10月21日
「A1. 港の見える丘/B1. 上海帰りのリル(別冊ver.)」
WRG702/¥1,980(税込)
仕様:国内プレス、4Pジャケ付、45回転、ドーナツ盤、生産数限定盤