蒼彦太のデビュー10周年記念曲『男ひとすじ』は、寅さんの境地で歌うのが極意!?

2021.3.24

3月2日にデビュー10周年を迎え、同24日には、記念シングル『男ひとすじ』(c/w『この世はどっこい』)をリリースする蒼彦太。
このタイトルとジャケットの凛々しい着物姿を見れば、男の生き様を真正面から歌い上げる硬派な演歌を思い浮かべるが、本人曰く、ちょっとニュアンスが違うという。
『うたびと』初登場――『男ひとすじ』の聴きどころからデビュー以降10年間の振り返りまで、持ち前の明るい性格でポジティブに語ってくれた蒼。「いろいろあるけど、何とかなるさ」――蒼の前向きな言葉には、コロナで疲れた心をフッと軽くしてくれるような不思議な力が宿っている。(笑)連発の楽しいトークをお届け!

 

『うたびと』へは今回が初登場の蒼彦太。まずはなぜ歌手を目指したか、幼いころの話から伺った。

「両親が演歌好きだったので、ぼくも聴くとはなしに聴いていたんだと思うんですが、それよりもJ-POPが好きで、特にSPEED(スピード)を聴いていました。小学校3年の時に初めて親にねだって買ってもらったCDが『White Love』でした。SPEEDは全曲歌えましたし、あまりに好きすぎて何とかメンバーに入れないかなんて勘違いしてた程です(笑)。まだ変声期前で高い声が出たこともSPEEDの曲を好きだった要因かもしれません。その後中学生になって、声変わりもして興味の幅も広がってきたころ、テレビのワイドショーで氷川(きよし)さんの『大井追っかけ音次郎』の紹介をしているのを見て、わーっ、かっこいいって思ったんです」

J-POPを聴いていた中学生が、あの曲のどんなところに面白味を感じたのだろう。

「そのワイドショーでは“今、小学生の間でも話題の曲です”みたいな紹介のし方で、“やっぱりね そうだろね”って歌うあの部分が子供心に斬新で、演歌って面白い!って思った。それが演歌の道に入る入口でした」

 

歌好きで歌手への夢は3歳のころから持っていたというが、住んでいたのは香川県。どうすればチャンスをつかめるのか皆目わからなかったという。

「漠然と高校を卒業したら東京に出ていこうとは思っていました。ただ、伝手もないし、どうしようかと考えていた時に、一時期レッスンを受けていた地元の歌謡教室の先生が、今のぼくの師匠である伊戸のりお先生と親交があるということで、紹介していただきました。高3の9月くらいだったでしょうか、伊戸先生と食事をする機会があって、その時に“カバン持ちから始めるか”といってくださって。
“大変だぞ”、“はい、何でもやります”って二つ返事で答えて翌年の3月に上京しました」

 

二つ返事で上京を決めた蒼。田舎の高校生がいきなり一人で大人の世界へ飛び込むことに、怖さを感じても当然だと思うが、ここで超オプティミスト・蒼彦太が真骨頂を発揮する。

「今思えばあの頃は若かったので何の根拠もなく、何でもできるし、何とかなるし、歌手になれるっていう変な自信だけがあったのだと思います。例えば部活のスポーツや芸術の分野なんかでいい成績を収めて自分に自信を持っていたなんてこともなかったし、そういう意味ではその何も知らない頃は”歌”に自信があったんでしょうね。とはいえ、後に上京してその根拠なき自信は大きく砕かれることになるんですけどね(笑)。18歳で世間知らずでしたから、怒られることもいっぱいありましたし」

弟子入りからデビューまでは約4年弱かかっている。先の見えない生活に不安になることもあったのでは、と聞くと、

「先生は忙しいのもあって、こちらからお願いしないとレッスンを受けられなかったですし、アルバイトと先生の身の回りのことで一日はすぐ過ぎていくし、正直、この生活がいつまで続くんだろうというのはありました。ただ、この性格ですから“何とかなるさ””必ず希望の光は見えてくる“とも思っていました。とにかく一日一日を頑張って生きることが当時の目標でした」

 

そんな毎日を送る蒼青年に、思わぬところからチャンスが訪れる。

「『演歌がええじゃん』というテレビ番組が放送500回を記念して開催した新人歌手オーディションに出場して、氷川さんの『玄海舟歌』を歌って優勝したんです。それをきっかけに自分の知らない所で(デビューの話が)動いている感覚はあったのですが、でもオーディション優勝=必ずデビューというわけでもなかったので、実は最後まで疑っていました(笑)。デビューの話が具体的になった後も、これ何かのドッキリなんじゃないかと思ったくらいです」

デビュー時のアーティスト写真

デビュー曲は1983年に三ツ橋けんじが歌った『カラオケ流し』のリバイバル。CDショップに自分のCDが並んでいるのを見て初めて「あっ、本当にデビューできた」と思ったという。

「この曲は約40年前の曲なんですが、実は作曲は伊戸先生のお父様で、作詞が伊戸先生のお師匠さんなんです。当時のディレクターさんが、知る人ぞ知るこの名曲をもう一度世の中の人に知ってもらいたいと考えて、それなら伊戸先生の弟子の蒼彦太に歌わせるのが適任ではという話になったようです。もちろん先生がアレンジもガラッと変えてくださいました。すごく厚みのあるオケで、いろいろ考えてくださったんだと先生の愛を感じて、感激しました。渋谷のTSUTAYAでCDを見つけた時、こんな都会のど真ん中に自分のCDが並んでることにメチャクチャ感動したのを覚えています。一番前に面出ししておきました(笑)」

それから早、10年。3月24日にはデビュー10周年を記念した10枚目のシングル『男ひとすじ』が発売になる。『樹』、『泥』、『梲』(うだつ)と一文字シリーズで男の王道演歌を歌ってきた、その延長線上の曲かと思いきや、今回は何やらニュアンスが違うらしい。

「僕も、タイトルが『男ひとすじ』ですし、男の人生を硬派に歌い上げた曲をイメージしてレコーディングに向かったんです。そうしたら、一度歌った後、作詩の久仁京介先生が“ちょっと寅さんをイメージして歌ってみて”とおっしゃるんです。“蒼彦太は32年生きてきて、歌も歌ってきていると思うけど、正直、詞の世界観なんて分かるようで分からないだろ? だから寅さんみたいに、生き方に芯は通っていながら、『俺もよく分かんないけど、世の中なんてきっとこんなものなんじゃないか』って言っちゃうみたいな気持ちで歌ってみてよ”って。これまでぼくが歌ってきた、“人生とはこういうものだ!”っていう硬いイメージじゃなくて、“人生っていったって所詮、こんなものなんじゃないですかね。まあ一緒に頑張っていきましょうや”みたいな、もう少し気楽な感じでということのようでした。こんな解釈もあるんだって、新鮮でしたね」

 

寅さんのようにいろいろな人生経験を積んで、ある意味で達観した大人の演歌。今回の新曲は、蒼彦太の新たな一面を見せてくれそうだ。ファンにはどんなふうに聴いてほしいか聞くと、

「これまでは歌い方にしても曲の世界観にしても、張っていた部分が多かったのですが、今回は、フワッとした感じを出そうと優しめに歌っています。特に冒頭の“いいことばかり~”の部分は頑張らないで優しく歌い出して、そこから徐々に盛り上げていく。そんなところを感じ取っていただけたらと思います。コロナ禍の中で、毎日頑張ろうだけじゃ疲れてしまいますよね。この曲を聴いて少し肩の力を抜いていただけたらうれしいです」

そんな10周年を飾る新曲のコンセプトは、11年目からの蒼自身の目標ともリンクしている。

「次の10年に向けてぼくの目標は、“温かい歌を歌える歌手になること”です。先ほども言いましたが、ぼくの歌は張り上げるような曲が多いんですが、そんな中にも温かさを感じさせる、人間味のある歌が歌いたいと思っています。歌って、歌う人の人となりが出てしまうものだって、最近すごく思うんです。なので、温かい歌を歌うためには、僕自身、プライベートな時間もキチンとしていなきゃいけないと思っています。最近は部屋の整理整頓やキッチン周りの掃除なんかにも気を付けています。すべてはつながっていますから」

 

芸能界の大先輩たちは、遊ぶことも芸の肥やしと言っているけれど、いい歌のために遊んでいるかと、少々いじわるな質問をしてみたら意外な答えが返ってきた。

「その話、よく聞きます。ですので、ぼくも遊びたいです。遊びたいんですが、これまで遊んだことがないので、どうやって遊んでいいか分からないんです。修行時代はアルバイトして師匠のところに行って、帰れば夜。4年弱、ほぼ休みもなかったし、僕はお酒も飲まないし、何して遊べばいいんでしょう(笑)

例えお酒が飲めなくても、そういう場にいるだけでも、夜の街で働く人の話を聞くだけでも勉強になるのではと話を向けてみると、「なるほど、すべてはつながっているんですね」と目を丸くする蒼に、コロナもなかなか終息しない今、毎日どんなことをして過ごしているかを尋ねると、

「今はファンの皆さんとも会えませんし、やっぱりネットしかないですよね。ネットライブやYouTubeの生配信をお届けしています。本当は歌以外のこともやりたいんですが、企画を思いつかなくて。機械好きなので、はっきり言って、技術はあるんです。カメラもある、PCもある。後はネタだけ。どなたかいい企画はないでしょうか(笑)」

 

最後にファンに向けてメッセージをいただいた。

「一日でも早く、皆さんにお会いできる日を心待ちにしています。コロナが落ち着いてお会いできるようになったら、ご自身の身の安全を確認しながらですが、ライブにお越しください。歌でもトークでも、ライブはお客様と生のコミュニケーションのとれる場です。ぜひ、お会いできる場を作りたいと思っています」

蒼彦太『男ひとすじ』

2021年3月24日発売
TKCA-91334
¥1,227(税抜)

【収録曲】

1. 男ひとすじ(作詞:久仁京介/作曲:弦 哲也/編曲:南郷達也)
2. この世はどっこい(作詞:久仁京介/作曲:中島 薫/編曲:石倉重信)
3. 男ひとすじ(オリジナルカラオケ)
4. この世はどっこい(オリジナルカラオケ)
5. 男ひとすじ(2コーラスカラオケ)
6. この世はどっこい(2コーラスカラオケ)

関連キーワード