扇ひろ子 デビュー55周年記念ソングをリリース 「もう一度、私の歌を聴かないと死ねない」と言ってくださるファンのために

2021.5.17

今年、デビュー55周年を迎えた扇ひろ子。4月には記念曲として『My Valentine~2月24日に生まれて~』をリリースした。演歌のイメージが強い扇には珍しいシャンソンテイストの一曲だ。デビュー以来、半世紀以上を歌の世界に生きてきた彼女が、自分の人生に思いを致しながら、同時代を生きてきた人たちに向けて語りかけるように歌う。そんな扇ひろ子に新曲への思い、そして55年間の歌手生活を語ってもらった。

 

――55周年、おめでとうございます。今回の記念曲は、これまでと違って、シャンソン風です。55周年記念ということで特別に意識されて作られたのですか。

「もともと私自身が、ジャズやシャンソンが好きだったんです。でもデビュー曲が遠藤実先生の『赤い椿の三度笠』で、その後も任侠物とか演歌が多くて、シャンソンはステージ以外では歌ってきませんでした。今回、美樹克彦さんが曲を書いてくださることになって、それならできれば演歌や歌謡曲ではなくて、シャンソンにしたいって希望を出したんです」

 

――クレジットを見ると曲は美樹さんじゃありませんね。KOSEIさんという方です。

「美樹さんご自身もシャンソン風の曲は歌っていらっしゃるので、ご自分の曲も含めて、何曲か聴かせていただいたんです。みんないい曲だったんですが、私には合わないかもと思って、“ちょっと感じが違う”って話したら美樹さんが、“わかった。じゃあ僕が詞を書く”とおっしゃって『My Valentine』の歌詞が出来てきたんです。ちなみに2月14日は私の誕生日なんです。曲は思いきって若い人にやってもらおうということになってKOSEIさんを美樹さんが連れてきてくださいました。音大を出てしっかり音楽の勉強をなさっている方です。でも、美樹さんは作曲家でもありますから、“ここのメロディーが違うな”なんて言って、コロコロ変わるものだから、レコーディングの直前までメロディーがどうなるか分からないんですよ(笑)。「あなたも~、あなたも~」のところだけ決まっていて、後は全く分からない。でも、自分の年齢を考えると、青筋立てて力んで歌うような曲じゃなくて、聴いていただく皆さんも力が抜けて、なんとなく聴き流せるような曲が希望でしたから、いい曲をいただいたと思っています」

――今、コロナ禍で辛い思いを抱えていらっしゃる方も多いと思いますが、55年間歌われてきて、改めて歌の力についてどんな思いをお持ちですか。

「皆さん、歌にはそれぞれ思い出を持っていらっしゃると思います。私の曲なら『新宿ブルース』のときはあれをやっていたとか、『哀愁海峡』のときはこんな生活だったとか。以前、ファンの方からお手紙をいただいたことがあるんです。その方はボートレーサーを目指していたんですが、試験に落ちて、帰りの船のなかで『哀愁海峡』が流れていて泣けて仕方なかったって。ファンの方々には歌の一つひとつにそういう思い出がある。歌はその人の人生と一緒に歩んでいるし、私たちは歌でそういう思いをお届けしているんだと思っています。でも、以前、作曲家の先生から言われたことですが、だからこそ歌は崩して歌ってはいけないんです。ファンの皆さんは、レコードやCDで聴いたあの歌で思い出が蘇るのだから、それを歌いやすいからといって(歌い方を)替えてしまっては、聴く側は感動できない。上手く歌おうとしなくていいから、譜面に忠実に歌うことに価値がある。だから今回の『My Valentine』のカップリングとして入れた『新宿ブルース』はギター1本の弾き語りで、譜面通りにキチンと歌いたいというのが私の希望でした。レコーディングは斉藤功さんのギターと同時録音でやりました。同録は久しぶりでしたけれど、心が通じ合うというか、素敵な時間でした。斉藤さんとの阿吽の呼吸で通じ合って、だから2、3回のテイクでOKになりました」

――その『新宿ブルース』ですが、レコードの発売は1967年です。当時、日本はどんな時代でしたか。

「もう、高度成長期で、街がどんどん変わっていった時代でしたね。私、デビューはその3年前の1964年で、前の東京オリンピックの年なんですが、高速道路はどんどんできるし、霞が関ビルを始め、高層ビルも次々に建っていきました。『新宿ブルース』のときは、おミズ(水原弘)の『君こそわが命』や伊東ゆかりさんの『小指の思い出』、美樹さんの『花は遅かった』、それから『ブルーシャトー』(ブルーコメッツ)なんかが流行った年でしたね。その年はレコード大賞や紅白の舞台にも立たせていただきました。
『新宿ブルース』は、ご当地ソングのはしりとも言われているんです。それまで、“東京”のような大きな場所がタイトルに付けられることはあっても、“新宿”という限定された地名を曲のタイトルにすることはなかったんです。だからレコード会社の会議でももめたらしいです。北海道や九州の人が新宿の地名がついた曲は買わないって。でも実際は北海道から火が付いたんですから、面白いものですね。沖縄では『沖縄ブルース』というタイトルに変えて出しました。沖縄はまだ本土に復帰していなくて、日本に対する感情も微妙なときでしたから。曲は同じで、タイトルと歌詞の新宿のところだけを沖縄に変えたんです。
キャンペーンで新宿の歌舞伎町を流しに扮して歩いたことも懐かしい思い出です。その頃の新宿は大人の街で、縄のれんがたくさんあって、飛び込みで入って一曲聴いていただいて。新曲のキャンペーンというのも、このときが初めてだったそうです」

――扇さんは被爆者でもいらしゃって、『原爆の子の像』という歌も歌われました。

「デビューしたのが1964年の8月5日、翌日の8月6日は広島の原爆記念日で、平和記念公園で歌いました。ただ、この曲は私が被爆者ということで広島に寄贈したものですので、一般向けには歌っていません。後遺症に苦しんでいる方が大勢いらっしゃって、軽々しく歌える歌ではありませんでしたから。私自身も昔は被爆者であることを公言していませんでした。被爆者を売り物にするようで嫌だったんです。デビュー30周年記念のヤクルトホールでのコンサートのときに司会の玉置宏さんが、もうそろそろお客様に話してもいいんじゃないかって言ってくださって、そのときに母や遠藤先生の前で、平和公園で歌って以来、初めて『原爆の子の像』を歌ったんですが、やはり原爆記念日にあの平和記念公園で歌うことができたのは良かったと思っています。世界に向けてあの歌が発信されたのですから」

 

――最後に、55周年の記念曲、『My Valentine~2月14日に生まれて~』にかける意気込みを改めて聞かせてください。

「私は今年76歳になります。76で新曲出すのはどうなのかとも考えましたが、これから少しずつ声も衰えてくるわけですし、やるなら今しかないと思って、思いきって歌うことにしました。今月、コロナで延期になっていた55周年記念のコンサート(4月26日「扇ひろ子 歌手生活55周年記念ディナーショー」@池袋ホテルメトロポリタン 3階「富士」)をやらせていただくんですが、あるファンの方がこれを見なきゃ死ねないとおっしゃってくださったんです。私のコンサートに来て下さるのは、60~80代くらいの方が多くて、中にはがんで治療を続けている方もいらっしゃいます。そういう方々の後押しがあってこの曲を歌うことができるのだと思っています。幸せ者です、私は。これからも聴いてくださる皆さんのために精一杯、歌っていきたいと思います」

扇ひろ子『My Valentine 〜2月14日に生まれて〜』

2021年4月21日発売
COCA-17868/¥1,350 (税抜価格 ¥1,227)

収録曲

1. My Valentine 〜2月14日に生まれて〜(作詩:美樹克彦/作曲:KOSEI/編曲:小倉良)
2.新宿ブルース(ギター弾き語りバージョン)(作詩:滝口暉子/作曲:和田香苗/編曲:斉藤功)
3.My Valentine 〜2月14日に生まれて〜(オリジナル・カラオケ)
4.新宿ブルース(ギター弾き語りバージョン)(オリジナル・カラオケ)
5.My Valentine 〜2月14日に生まれて〜(半音下げカラオケ)
6.My Valentine 〜2月14日に生まれて〜(2コーラスカラオケ)

出演情報

『新・歌謡曲の匠』

放送チャンネル:BS12(トゥエルビ)、KBS京都、J:COM関西、チバテレビ

扇ひろ子出演回

BS12(トゥエルビ)

5月18日、25日(火)朝4:30-5:00
※再放送:6月15日、22日 (火)朝4:30-5:00

KBS京都

5月18日、25日(火)朝9:00-9:30
※再放送:6月15日、22日 (火)朝9:00-9:30

J:COM関西

5月20日、27日(木)朝10:00-10:30
※再放送:6月17日、24日(木)朝10:00-10:30

チバテレビ

5月21日、28日(金)朝4:30-5:00

番組ホームページ:https://www.twellv.co.jp/program/music/kayou-takumi/

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