デビュー60周年の新川二朗、傘寿を迎えて歌う『天・地・人』は 歌手人生を詰め込んだ感無量の一曲

2021.7.7

1962年にデビューし、芸歴60周年を迎える新川二朗
エピソードがそのまま日本の芸能史と重なる彼に、さまざまな想いを込めた新曲について、そして今もなお変わらない歌への情熱を語ってもらった。

1964年の大ヒット曲『東京の灯よいつまでも』などで知られ、デビュー60周年を迎えた大ベテラン歌手・新川二朗のニューシングルが堂々完成した。
表題曲『天・地・人』は、男の生き様を猛々しく描いたスケール感たっぷりの王道演歌だ。

「この曲に出会ったのは、実は30数年前のこと。だけど今回、改めて譜面を見た瞬間に『この歌を絶対に歌いたい。俺にピッタリの歌だ』と確信しましたね」

過去には田端義夫などにも歌われてきたこの名曲は、『雨酒場』(香西かおり)や『はぐれコキリコ』(成世昌平)などのヒット曲で知られる作曲家・聖川湧によるもの。新川と聖川はデビュー前から苦楽を共にしてきた盟友でもある。

「今回こうやってシングルにできたのは、私のおふくろの信念です。30年ほど前に故郷で開いた私のショーにおふくろが来てくれてね、ゲストの聖川がこの曲を歌うのを聴いて『いい歌だ。お前、聖川さんにお願いしてもらいなよ』と言ったんです。だけど、当時の私はピンとこなかった。それからずいぶん長いこと“人の歌”だという認識でいたのですが、去年の10月、長島温泉のショーのために選曲を考えていたら、おふくろが夢枕に立ったんですよ。『お前、まだあの歌を歌ってないのかい』と」

 

ダイナミックなイントロはショーの開幕にふさわしい。しかし“人の歌”ゆえ、ショーの一部は『東京の灯よいつまでも』、二部の幕を『天・地・人』で開けることにした。

「10日間のショーが終わって帰宅したところ、事務所に何通も手紙が届いていてね。『あの歌は何という歌ですか? ぜひまた聴きたい』と。だけど、30年前だったらこんなに反響はなかったと思います。80歳を過ぎてようやくこの味を出せるようになったから、おふくろも改めて背中を押してくれたんでしょうね。だから今回この歌を出すのは、ただ事じゃないと思っています」

新川は石川県出身。高校卒業後に当地の一大レジャー施設・金沢ヘルスセンターの専属歌手となる。

「聖川湧と出会ったのもここのステージでした。まだ15歳の“クリクリ坊主”でね。お金がないっていうから『じゃあうちに来なよ』と。6畳一間だったけれど、2人で下宿をしていました」

やがて新川は「北陸の三波春夫」の呼び名で人気を博すようになり、偶然居合わせた村田英雄に「君はもっと大きなステージで歌うべき器だ」とスカウトされる。
そのまま故郷の期待を一身に背負って上京。ところが住み込みの弟子となった新栄プロダクションでは、一番の新米として、掃除、洗濯、食事の支度などを1人で担わされるなど、2年半にわたって筆舌に尽くしがたい修業の日々を送ることになる。

 

「それからしばらくして大野穣という青年が入ってきてね。歌も上手いし、声もいいなと思っていたら、すぐにデビューが決まりました。私が社長の肩を揉んでいたときに『おい、大野の故郷はどこだ?』と聞かれたんです。それで『たしか北海道の函館のほうですよ』と答えたら、『北の島か。じゃあ北島……二郎と三郎、どっちのほうがゴロがいい?』と聞かれ、『三郎のほうが良さそうですね』と答えたのを覚えています。そんなわけで”二郎”のほうが浮いちゃったんですよ(笑)」

 

1962年に『君を慕いて』でデビュー。芸名には新栄プロの”新”と西川幸男社長(当時)の”川”が与えられたというから、事務所の期待も大きかったはずだ。
それに応えて、東京オリンピックが開催された1964年には『東京の灯よいつまでも』が空前の大ヒットを記録。同年に『NHK紅白歌合戦』への出場を果たす。

「私は”新川二郎”でデビューしたわけですが、1979年の元旦に、ファンから手紙が届いたんです。自分は姓名判断をする者だが、余命いくばくもない。新川さんの名前はとてもいいが、”郎”の字を”朗”に変えるともっといいと。それで私も『青春譜』という歌を出すにあたって、心機一転、改名しました。六本木交差点でキャンペーンをしていたら、向こうから『新川さーん』と呼ぶ人がいて、誰かと思ったら小林幸子でね。『おお、サッちゃんもキャンペーンかい?』『そうよ、頑張りましょうね』と別れたけれど、そのとき彼女がかけていたタスキには『おもいで酒』と書いてありました」

日本の芸能史を彩るエピソードは尽きない。2019年にはデビュー60周年と傘寿を祝う記念ショーを開催。実に500人を超える歌手仲間や音楽仲間が集うなど、その人望の厚さが伺えた。ステージでは朗々とした歌声を全13曲響かせた。

「この年まで病気らしい病気も一切したことがないし、1回も仕事を休んだことがない。健康の秘訣は好きな歌を歌って、好きなものを食べて飲んで。何より健康な体に生んでくれた親に感謝ですよ」

『天・地・人』もまた、精気みなぎる豊かな声量が年齢を感じさせない一方で、説得力に満ちた歌唱は芸道60年という歩みの賜物だ。

「最近の歌謡曲は簡単な歌が多いけど、カラオケファンのみなさんもレベルが高いですしね、そろそろこういう歌にも挑戦しませんか? という思いも込めています」

 

カップリングにはセカンドシングル『裏町すずめ』の新録、そして不朽の名曲『東京の灯よいつまでも』のオリジナル音源が収録されている。

「『東京の灯よいつまでも』は、昔買ったレコードが擦り切れちゃった、シングルで欲しいという人もたくさんいるから、いい機会だということで入れたんです。『裏町すずめ』のほうは、当時はデビュー曲を推していたこともあって影に隠れていた曲だけど、なんとも言えない哀愁が好きだというファンはけっこう多いんですよ。西川社長も『この歌が売れなかったのはうちの事務所の七不思議だよ』なんて死ぬまで言っていた。ただ、当時は声も若かったから、今の年齢で味を出して歌いたいと思って、キーを下げました。そうしたら渋くなっちゃってね。『なんだい、新川さん。村田英雄に似てきたじゃないか』なんて言う人もいて(笑)。そういう意味でも私の歌手人生を詰め込んだ、感無量の1枚ですね」

新川二朗『天・地・人』

2021年7月7日発売
KICM-31025 定価:¥1,500 (税抜価格 ¥1,364)
1.天・地・人 作詞:飯田 新吾 作曲:聖川 湧 編曲:南郷 達也
2.裏町すずめ 作詞:秋田 泰治 作曲:佐伯 としを 編曲:山田 年秋
3.東京の灯よいつまでも 作詞:藤間 哲郎 作曲:佐伯 としを 編曲:佐伯 としを
4.天・地・人(オリジナルカラオケ)
5.裏町すずめ(オリジナルカラオケ)
6.東京の灯よいつまでも(オリジナルカラオケ)

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