演歌・歌謡曲系シンガーソングライター 大沢桃子の新曲は、本邦初の「防災伝承歌」
“女性演歌☆シンガーソングライター”というユニークな活動で話題の大沢桃子が、21枚目のシングル『命の道/愛の魔法』(両A面)をリリース。
岩手県大船渡市出身の大沢が、新曲(『命の道』)に選んだテーマは“てんでんこ”。「東日本大震災から10年たった今だからこそ、もう一度この言葉を思い出して、皆さんに防災意識を高めてもらえたら」と話す「防災伝承歌」とは――。
大沢桃子は、演歌歌手のほかに、仲村つばき名義でソングライターとしても活動するハイブリッドシンガー。
今回のシングルも、2曲とも仲村つばきの作詞作曲だ。自ら「防災伝承歌」と名付けた新曲『命の道』は、どんな思いを込めて作ったのだろうか。
「東日本大震災から今年で10年目を迎えますが、だからといって、過去を振り返って哀しみを癒す曲にしようとか、復興ソングを作ろうとかということは考えませんでした。逆に10年たった今だからこそ、ここから未来に向けて希望を発信できる曲をと考えた時、『てんでんこ』という言葉が浮かんだんです」
『てんでんこ』(津波てんでんことも)とは、東北の三陸地方に伝わる言葉で、“津波が来たら、家族に構わず、各自てんでんばらばらに高台に逃げろ”“自分の身は自分で守れ”という意味で、10年前、東日本大震災が起きた際にはマスコミでも盛んに紹介されていた言葉だ。
「私の故郷・岩手では昔から命を守る教えのひとつです。東日本大震災の時にはいろいろなところで紹介されましたが、10年たって少し忘れられているような気がします。今やいつ大地震や大雨などの災害が起こっても不思議じゃない、そんな地球環境の中にあって、もう一度“てんでんこ”という言葉を皆さんに伝えて、防災意識を高めてほしい。その気持ちを歌に込めました。今年中につながる全長550Kmの復興道路(及び復興支援道路)と、てんでんこに命をつないでいったら助かる命がどんどん増えるんじゃないかという気持ちからタイトルは『命の道』としました」
意義深くはあるが、一般的な演歌や歌謡曲で防災をテーマにした歌は珍しい。おそらく本邦初と言ってもいいと思うが、ファンに受け入れられるのか、不安はなかったのだろうか。
「こんなことを言うと叱られるかもしれませんが、『この曲で勝負です。頑張ります!』というより、後世に残る歌を作りたかったんです。カラオケなどを通じて、人から人へ歌い継がれていってくれるような。もちろん、防災は防災として、楽曲自体、カラオケファンを裏切らない歌い心地の良さは意識して作りましたので、十分、楽しんでいただける曲になっていると思います。ちょっと大きすぎる夢かもしれませんが、この“てんでんこ”という言葉を世界中に広げたいという野望もあります。命を守る言葉ですから、小さいお子さんからおじいちゃん、おばあちゃんまで皆さんに歌ってほしい。学校で合唱曲として歌ってもらうのもいいですね」
両A面のもう一曲『愛の魔法』は、アップテンポでノリのいいリズム歌謡。こちらは“青春”がキーワードだ。
「以前、よく五月みどりさんとお仕事をご一緒させていただいていた時、五月さんが色紙に筆で『生涯青春』って書かれているのを見て、素敵な言葉だなって思っていたんです。人生を考えた時、いつまでも青春というのは私もその通りだと思って、こういう歌詞にしました。アップテンポの曲は歌詞が流れていきがちですけれど、詞の内容に共感してほしいと思いましたし、日ごろから演歌、歌謡曲のファン層を広げられるような曲の作りにしたいとも考えて、リズム歌謡にしました。歌詞にある『もう若くないけど枯れたりしない』という部分は、例えばですが、同級生なんかを見ていると、子育てが本当に大変そうで。『ああ、もう!』って叫びたいような時でも、でもいつまでもトキメク気持ちは持ち続けたいよねって言ってあげたい、そういう想いを込めています」
先日、訃報が報じられた“エレキの神様”寺内タケシに弟子入りして、師匠の音楽作りを隣で見ているうちに独学で曲作り(作詞、作曲とも)を覚えたという大沢。自らの曲を作ることのみならず、今、その創作活動が大きな力を与えてくれているという。
「シンガーソングライターとして『あなたに贈る手紙~Letter Song』という活動もしています。ファンの方などからご依頼をいただいて、その方の希望に沿った歌を作らせていただくというものです。例えば、ある方は銀婚式に奥様に贈る歌をというご依頼だったのですが、後に奥様が大変喜んでくださったと聞いてとても嬉しかったです。私自身、コロナ禍で活動ができなくてこの先どうしようと、呆然としてしまったことがありました。でもそんな中でこのレターソング作りを通して、いろいろな方の人生に触れながら曲を作って、その曲で人を喜ばす事ができて、音楽に携わっていてほんとうに良かったと思えましたし、逆にこちらが力をもらえました」
コロナ禍の影響で自粛生活が続き、このまま歌手活動を続けられるのかとさえ思ったという大沢だが、そこは根っからの明るさとチャレンジ精神の持ち主。さまざまな“初めて”に挑戦したという。
「実は、最初の緊急事態宣言の頃に、一からステージ衣装を作ったんです。洋裁なんてやったこともなかったのに、挑戦してしまいました(笑)。実際のドレスを一着ほどいて、そこから型取りをして作っていったのですが、3か月くらいでできるかなと思って始めたら、ぜんぜん間に合わなくて。イベントで着るはずだったのに、結局、昨年の10月に開催した浅草公会堂でのコンサートにやっと間に合わせました。お客さんに『どうですか?』って聞いたら皆さん拍手で返してくださって、『大丈夫そうだな』って安心しました(笑)。
他にはせっかく時間があるからということで、ダンスにも挑戦しました。『愛の魔法』を歌う際に、“ももちゃんず”という女の子4人組をバックにして、踊っています! ディレクターさんからも、どうせやるなら、中途半端にしないで振り切ったほうがいいとアドバイスされて、氷川きよしさんじゃないですけど、“限界突破”しようと思って。人生初のミニスカートでやってますので、よろしくお願いします(笑)」
アイデアマンで、クリエイティブなことが大好き――話の端々からそんなキャラクターが垣間見える大沢。コロナ時間の中で、ソングライター・仲村つばきは、どんな活動をしてきたのだろう。
「昨年は1年間で100曲分の歌詞を書くなんて宣言して頑張ってました。実際は100曲に到達しませんでしたけれど(笑)。でも作詞家・作曲家協会主催のコンテストにも応募しましたし、わりとたくさんの曲を書いたと思います。詞は、何が正解かなんて答えはありませんし、自分の中からわきあがってくる感情やさまざまな方の人生に触れて感じたこととかを反映させています。難しいですけど、言葉を選んだりするのは楽しいですね。
最近は、毎朝思いついた言葉を筆で書いてブログにあげることを日課にしています。それを始めたら作詞とはまた違って、今日は何を書こうか、ネタにつまることが多くて言葉を探すのに苦労しています。でも、ファンの方から『仕事で落ち込んでいた気持ちが、今日の桃ちゃんの言葉で救われました。ありがとう!』なんてコメントをいただくと、何気なく書いた言葉でありがとうって言われちゃって、なんか言葉ってすごいなって思います。どこかで誰かが見ていてくれて、私の知らないうちにありがとうっていう気持ちになってくれたり、逆にそれを見た私が励まされたり。“田舎の八段”ではありますが、書道が大好きで、毎朝書いているうちにいろんな書体にチャレンジしたいと思うようになりました。『愛の魔法』のジャケットのタイトル文字は、アラジン風にしたくて書いてみましたが、いかがでしょう」
さまざまなことに挑戦している大沢だが、これから先の目標にもクリエーター気質がのぞく。
「誰かから必要とされる人になりたいです。そのためには王道の演歌もこれまでどおり歌っていきたいですし、勉強していい曲も作らくてはいけないと思います。私自身の思いの詰まった曲を他のアーティストの方が歌ったらどう表現してくださるのかも聴いてみたいです。それには、もっと勉強して音楽の幅を広げて、作家として人に曲を提供できるようにならなくてはいけない。それも大きな目標です」
最後に、今、ファンに伝えたいことを聞くと、
「私はこんなマイペースな人間ですけど、やっぱり歌を通して皆さんの笑顔が見たいんです。私の曲を必要としてくださる方と一緒に、これからも音楽の道を歩んでいきたいと思っています。愛してください!」
アーティストとして、クリエーターとして、演歌・歌謡曲のファン層を広げようと日夜、アイデアをめぐらす大沢。アフター・コロナの歌謡界にどんな旋風を巻き起こしてくれるか楽しみだ。
大沢桃子『命の道/愛の魔法』
2021年07月21日発売
TKCA-91356 1,350円(税抜1,227円)
1. 命の道
2.愛の魔法
3.命の道 (オリジナル・カラオケ)
4.愛の魔法 (オリジナル・カラオケ)