演歌、河内音頭、歌謡浪曲―多彩な表現で魅了する中村美律子の35周年記念曲は、コロナ禍の日本を優しく励ます応援歌

2021.8.25

今年、歌手生活35周年を迎える中村美律子が、2月に発売した『あんずの夕陽に染まる街~ニューバージョン』に続き、8月25日に35周年記念曲第2弾『命の花道』をリリースする。「エンヤコラ ドッコイショ」――威勢のいい中村の久々の王道演歌だ。
演歌、河内音頭、浪曲歌謡の歌い手という多彩な顔を持つ中村美律子に、コロナ禍で発表した新曲への思い、浪曲や河内音頭など、日本の伝統芸能への思いを語ってもらった。

30歳を超えてからの歌手デビューと演歌歌手としては遅咲きだった中村美律子。以来、紅白歌合戦に15回出場するなど、一線で活躍を続け、今年デビュー35周年を迎えた。
「35年間、好きな歌を歌い続けてこれたことは、ありがたいことだと思っています。今年は記念の年ということで、2月に『あんずの夕陽に染まる街』を出しました。そして8月には新曲『命の花道』を出させていただきます。この曲は、コロナで辛い思いをしている方々に少しでも元気になってもらいたい、そういうことも意識した歌詞だと思いますし、私自身も皆さんに励ましのメッセージを届けられたらと思いながら歌っています」

前作の『あんずの夕陽に染まる街』から一転、今作『命の花道』は、中村らしく威勢のいい男歌。コロナ禍で沈む日本中を励ます“応援歌”でもある。
「作詞家のたきのえいじ先生から最初に歌詞を渡されたとき、一番に目に入ったのは“叶わぬ夢”という言葉。叶わない夢って何だろうと、いろいろ考えましたが、その後に『必ず叶えてみせる』と続いていますし、歌っていくうちにそれは結局、“生き抜く”ということではないかと思うようになりました。生き抜くって、例えば今ならコロナに負けないということでもありますよね。
 これまで私が歌ってきた男歌は、だいたい“自分の夢に対して何が何でもやり抜いてみせる”のような内容が多かったのですが、今回はちょっと違って、優しさや愛情、思いやりを感じさせる曲になっています。たきの先生は、大きな意味での“感謝の気持ち”がテーマだとおっしゃっていました。『みっちゃんの歌を聴くと元気になる』っておっしゃってくださるファンの皆さんに感謝、歌うことで私も元気になりますから、私の歌を聴きにきてくだるすべての方々に感謝。そういうことかなと思って、感謝の気持ちを胸の中に置いて歌っています。
それからもうひとつ、この曲を歌ってみて思うのは、“この歌は男歌とか女歌とか関係ないなということ”と、“あきらめたらあかん”ということ。歌詞の中の『エンヤコラ ドッコイショ』じゃないですけれど、男も女もあきらめないで一歩一歩、歩いて行こうという思いを持って聴いていただければ」

 

レコーディングでは、中村からこんな提案もしている。
「最初に打ち合わせをしたときよりキーを半音上げて歌わせていただいてます。この曲はマイナー調ですから、キーが半音下がるだけで、重たい、暗い、辛いニュアンスが出てしまうんです。それだとこの曲の持っている、前向きなメッセージが弱くなってしまう。それが嫌でレコーディングでは半音上げて歌うことを提案させていただいたのですが、たきの先生も曲を作っていただいた岡千秋先生も(半音)上げてよかったとおっしゃってくださいました。
ただ、この曲は出だしから高音部が続いて、歌うのにしんどい曲なんです。低いところは『エンヤコラ~』のところくらい。レコーディングでも3回歌うくらいが限度で、それ以上はへばってしまって。そういう意味では半音上げたのはどうだったんだろうとも思いましたが、ここは頑張らなくちゃと思って歌いました。だから皆さんもカラオケに行かれたら、最初の声出し用に歌うといいですよ。発声代わりに(笑)」

一方、カップリングの『母ちゃんの挽歌』は、しっとりとした抒情的な一曲。歌手・中村美律子の持つ多彩な魅力の一面を見せてくれるが、レコーディングでは苦戦したよう。
「私にとっては、カップリングの『母ちゃんの挽歌』の方が、実は歌うのに難しかったんです。こういうタイプの曲はこれまでなかったというのもあって、なかなか上手にニュアンスをつかめなかった。この曲は母親との思い出を語っている内容ですし、アレンジにはハーモニカが入ったりして、郷愁を誘うような曲なので、どうしてもグッと気持ちを込めてしまうんです。でも、あまり重たくならないように、昔のフォークソングくらいの雰囲気でサラっと歌ってほしいという指示がありまして、それが私には難しかったです」

 

中村美律子は、演歌歌手のほかに河内音頭、浪曲歌謡の歌い手という顔も持つ。歌い手としてのキャリアのスタートは河内音頭からだった。
「河内音頭は、プロの歌手としてデビューするずっと前、学生の頃から歌っていました。アルバイトで、盆踊り会場の櫓の上で歌うんですが、夏場は毎週末にどこかで盆踊りはやっていましたから、掛け持ちであっちこっち行って歌うんです。河内音頭は、元々は大阪・河内地方の民謡です。基本的な決まりごとはありますが、今は即興でやりますから譜面はありません。友人の河内家菊水丸さんが「新聞詠み(しんもんよみ)」といって、今でいうニュースに節をつけて河内音頭にしていますが、あれは、頭が良くないと(笑)。最近はコンサートなどで歌うにしても音響や予算の問題もあって櫓を組むのが大変で、なかなか歌う機会がありませんでしたが、今度のコンサートでは久々に歌う予定です。河内音頭というのは踊ってもらうのが醍醐味、音頭取り(歌い手)より踊ることが中心ですから、やっぱり櫓が必要なんです。今回のコンサートでは舞台に櫓を立てますよ」

「舞台に立つことが何より好き」だと話す中村の、演者としてのもうひとつの魅力は歌謡浪曲。21分の大作(CD)として話題になった、デビュー30周年記念特別企画作品『無法松の恋~松五郎と吉岡夫人』など多くの作品を持ち、その表現力には定評がある。
「なかなかメジャーデビューの機会がつかめなくて、少し焦りも感じていた頃、浪曲師の(二代目)春野百合子に弟子入りして浪曲を勉強することにしたんです。浪曲師はひとりで何役もこなして、節もつけて、まるでひとりミュージカルを上演しているようなもの。それも楽器は三味線一丁で。春野百合子師匠なんかはひとりで30~40分のネタをやって、それでお客様を泣かせますからね。こんな芸能は他ではちょっとないのではないか、浪曲を勉強すればすごい芸が身に付くんじゃないかと思って弟子入りしました。私のオリジナル曲に『壺坂情話』という歌謡浪曲があるんですが、それは浪曲の演目『壺坂霊験記』が下敷きになっています。『お夏清十郎』もそうですし、私自身、歌謡浪曲にしたいネタをいろいろ持っていて、それを元にアレンジしていただいています」

そういう中村の取り組みは、2020年文化庁長官表彰受賞という形で結実する。
受賞理由は『長年にわたり、歌手として活躍するとともに音楽文化の普及に努め、我が国の芸術文化の振興に多大な貢献をしている』こと。日本の伝統文化の継承への貢献が認められた。
「ありがたいことです。でも、浪曲にしても、やる人がどんどん減っているじゃないですか。今は浪曲をかける場所も少なくなってきていますし。特に浪曲師の方が困っているのは“相三味(あいじゃみ)”が少なくなってきたこと。浪曲師はまだ若い人が入ってきたりしていますが、三味線ができる人がいないんです。浪曲の場合の三味線は、ただ弾けばいいというわけではなくて、浪曲を知らなくてはできません。まして浪曲師は一人ひとり節回しも違いますから、それを合わせようとしたら、浪曲師と長年連れ添った夫婦みたいな関係になれなくてはできないんです。そういう三味線を“相三味”というんですが、皆さんご高齢になってきて、大変だろうと思います。そういう中で長いこと歌謡浪曲を歌ってきたことへのご褒美で表彰していただいたことは、ありがたいことでした」

 

コロナ禍でファンとの触れ合いが極端に減った中、11月30日に中野サンプラザで久々のコンサートを開催する。8月に予定されていたコンサートの延期公演となる。
「コンサートは昨年12月の新歌舞伎座以来です。その時はあまりステージに人を上げてはいけないということで、ギター2本だけ入れて、『島田のブンブン』をレゲエ風にしてやったり、『酒場ひとり』のようなギターでなくてはできない曲をやったりしましたが、今回はさらにいろいろな趣向を考えています。先ほど話しましたが、ステージに櫓を立てて生の太鼓や三味線、ギターも入れて久々に河内音頭を歌いますし、コロナで時間ができた間に気合を入れて稽古した三味線の弾き語りで端唄も歌います。やっぱり生の舞台は生きているからいいですね。
いつも来てくださるお客さんでも、普段あんまり話さない方なのに、私が舞台に上がると声かけてくだる方がいるんです。『みっちゃ~~ん!!』言うて。あの声はどこから出たんやろうて思うくらい変わるんです。やっぱりステージは生きているんですよ」

最後に、コロナ禍でも元気一杯、前向きな中村にファンへのメッセージをいただいた。
「今回のコロナでお客様の前で歌えることが当たり前ではないんだということに改めて気づきました。コロナが収束したら、早く皆さんの前で歌いたい。私の歌を皆さんに聴いていただいて元気になっていただけたらと思っています。今年、デビュー35周年ですが、ここまでやってきてもう私には悔いはありません。これからは声が出る限り歌い続けていたいと思っています。『命の花道』は、中村美律子らしい迫力のある曲に、優しいさや思いやりの心をメッセージとして盛り込んでいます。35年目は久々の“ド演歌”で行きますので、よろしくお願いいたします」


<新譜情報>
『命の花道』C/W「 母ちゃんの挽歌 」
2021年 8 月 25 日 (水) 発売
作詩:たきのえいじ/作曲: 岡千秋/編曲: 南郷達也

<コンサート情報>
『35周年記念 中村美律子コンサート~人が好き 歌が好き この道をゆく~』
2021年 11月 30 日 (火)開催/中野サンプラザホール
[時間]15:00開場/16:00開演
[チケット料金]全席指定7,000円(税込)
[チケット販売]https://bellworldmusic.com/event/performance/20210825nakamura-nakano
主催:文化放送/企画制作:ゴールデンミュージックプロモーション/後援:キングレコード/協力:錦糸町商店街振興組合

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