クミコのニューシングル、中島みゆき書下ろし 『十年』&ジブリ『ハウルの動く城』テーマ曲は、 どちらも「私の中の申し訳なかったシリーズです」
シャンソンを皮切りに、歌謡曲から世界の民謡まで、幅広いジャンルの歌を日本語で歌い続けてきたクミコが、8月25日、ニューシングル『十年/人生のメリーゴーランド』をリリースした。
中島みゆき書下ろしの『十年』と、ジブリ映画『ハウルの動く城』のテーマ曲に歌詞をつけた『人生のメリーゴーランド』は、どちらもアルバム収録曲として発表したオリジナル。
新録でシングル化した2作品への思いと、10年前の東日本大震災から、両親の介護、コロナ禍を経験して、今、思う“うたびと”としてのこだわりを聞いた。
2007年のアルバム『十年~70年代の歌たち~』の収録曲として発表した中島みゆきの書下ろしによる『十年』と、2006年のアルバム『わが麗しき恋物語』の収録曲として発表したジブリ映画『ハウルの動く城』のテーマ曲『人生のメリーゴーランド』。
まずは、この2曲を今回、両A面でシングル化した理由を尋ねると、「申し訳なかったシリーズですかね」と軽やかな笑い声を響かせつつ、まわりを包み込むような柔らかい笑顔で語ってくれた。
「『十年』は、中島みゆきさんが書き下ろしてくださったのに、シングルにしないままおいてしまっていたし、『人生のメリーゴーランド』はせっかく宮崎駿監督にお許しをいただいて詞をつけたのに、ボーナストラックのようにアルバムに収録してしまっていたので、どちらも申し訳ないなと(笑)。今までもったいない扱いをしてしまっていた2曲を新録でリリースしました」
『十年』は、10年間片思いし続ける女性の切ない恋心を綴ったラブソング。10年前といえば、クミコはコンサートで訪れていた石巻で東日本大震災を体験。
「音楽は、歌は、いったい何の役にたつのだろうか」。レコーディングには、そのとき感じ、今、再びコロナ禍で抱くこの問いに加え、震災からの「十年」への思いも乗せて臨んだという。
「この10年、いろいろな天変地異があって、コロナ禍にも見舞われ、個人的には両親の介護もあって、かつてない10年だったなという思いがあります。『十年』は、思い通りにならない人生の悲哀の歌ではあるけれど、明日がありそうな気がすると感じられる内容にもなっているので、今にマッチしているかなと思いましたし、聞いてくださる皆さまにかすかな希望を提示できればと思っています」
今回、リアレンジするにあたり、プロデューサーには日本在住のブラジル人Renato Iwaiを抜擢。
氏の「コロナ禍でも国境を越えて音楽でつながりたい」という願いからブラジルの一流ミュージシャンが集まり、レコーディングはリモートで行われたという。
「直接、会っていないから、本当に地球の裏側から参加してくれたのかなって疑っているんですけどね(笑)。でも、まさかこんなことができるなんて、すごい世の中になりましたよね。
私にとって、ブラジルの音楽は好きだけれど、縁がなくて遠い存在だったので、今回はとても勉強になりました。リズムのとり方がぜんぜん日本人と違うので、出だしもどこが頭かわからなくて、レコーディングではちょっと大騒ぎしちゃいましたけど(笑)、それはそれでスリリングで楽しかったです」
一方、『人生のメリーゴーランド』は、ジブリ映画『ハウルの動く城』の主題歌。宮崎駿監督がクミコの歌声のファンだったことから、映画のパンフレットにコメントを提供することになり、映画を鑑賞したところ、スクリーンに響く楽曲に大感動。自ら監督に日本語詞をつけて歌わせてほしいと依頼し、快諾のもと実現した一曲だ。
アルバム収録時は、アレンジはバンド的なカルテットだったが、今回は、『思い出のマーニー』や『メアリと魔女の花』などジブリ作品の楽曲を手がけ、映画『64-ロクヨン-前編』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』で日本アカデミー賞優秀音楽賞を2年連続受賞した村松崇継がリアレンジ。詩人で作詞家の覚和歌子の詞の世界観と、村松らしいシンフォニックなアレンジが一体となり、スケール感のある作品に仕上がっている。
「村松さんには、映画を観て私が感動した、どこの国かわからないけれど、ヨーロッパの匂いのするワルツを再現するようなアレンジにしてほしいとお願いしました。レコーディングでは難しい命題がいろいろあって、『村松、歌いにくいぞーーー!』って(笑)苦労したんですけど、でも苦労がないとつまらないし、苦労した分、愛着も湧いています」
『十年』の歌詞には「十年は長い月日か 十年は短い日々か」とある。10年前、石巻で東日本大震災に遭い、その後、両親の介護、コロナ禍と、さまざまな苦難を体験する中、今、クミコは“うたびと”として、何を思うのか。
「70の声を聞くと、それまでの自分を集大成して引退される方も多いし、いろいろなことでやめざるを得なくなってる方もたくさんおられるので、今、私はなかなかこの先の10年を考えにくい年齢になってきたと思うんです。でも、幸か不幸か、若い頃、暇だったせいか(笑)、まだやれることがありそうな気がして、気力もあったりします。
介護している両親は93歳ですし、この先の10年は今よりもっと(人生の)佳境を迎えると思いますが、その分、これからは人間としての主戦場になっていく感じがするので、ワクワクもしています。あがいて、悩んで、苦しんで、そんな中でも笑えるような自分であったら素敵だなと思うし、それくらい強くなれていたいし、ここからは歌い手としてより、人間としての勝負。
コロナ禍もあり、今は生きているだけで精一杯ですが、とにかく生きていることを精一杯やって、そこから生まれてきたものが、飾り気のない、そのときの歌だと思いますので、そんなふうに歌うことができたらしめたものだと思いますね」
さらに、「歌い手として、羽が生えたように軽くなる歌が歌えればいい」と目を輝かす。
「歳を重ねるにつれて、どんどん重い歌を選ばれる歌い手さんもいらっしゃいますが、私はどんどん軽くなっていきたいんです。例えば、私は菅原洋一さんの歌が好きなんですが、お年を召しても軽く歌われているのを聞いたり、歳を重ねて声のコントロールが難しくなる中で、うまい具合に立ち位置や方法を見つけながら歌われているのを聞いたりすると、いつも励まされるんです。
私も、いろいろな経験を重ねたからこそ、欲やこだわりやいろいろなものがそぎ落とされて、軽くなっていけたらいいなと思います。あとはまっとうなことを言わない、おちゃらけたおばあさんになりたいです(笑)。いつもふざけてるけれど、歌はちゃんとしていねって、そんなふうに言われるに人になれればなって思っています」
クミコ『十年/人生のメリーゴーランド』
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中島みゆき書き下ろし楽曲『十年』、映画『ハウルの動く城』テーマ曲に詞をのせた『人生のメリーゴーランド』、クミコが歌う大人のポップス2曲収録
1 十年 作詞・作曲/中島みゆき 編曲/Renato Iwai
2人生のメリーゴーランド 作詞/覚和歌子 作曲/久石譲 編曲/村松崇継
3十年(Instrumental)
4人生のメリーゴーランド(Instrumental)