八代亜紀が往年の大ヒット曲を新録した デビュー50周年記念ベスト盤をリリース 「今の声でもう一度聴いてほしい」
『なみだ恋』『舟唄』、そして『雨の慕情』……数々のヒット曲を歌い続けてきた八代亜紀が、2020年に芸能生活50周年を迎えた。
同年の年末には日本作詞家協会とのコラボ企画から生まれた『居酒屋「昭和」』をリリースし話題となったが、レコードデビュー50周年となる2021年は、これまでの歌手活動を凝縮したベスト盤3企画(『八代亜紀ベストヒット』『八代亜紀ベストヒット50』『八代亜紀ベストヒット8』)を発表。「これが最後」という新録音のヒット曲の数々は聴きごたえ十分だ。
半世紀を経てなお第一線で活躍を続ける八代に、歌手人生を振り返りながら歌への思いを語ってもらった。
八代亜紀がグループサウンズのボーカルやクラブ歌手の活動を経て、レコードデビューを果たしたのは1971年。八代亜紀の名前を世に知らしめたのは、そこから2年後、4枚目のシングル『なみだ恋』の大ヒットによってだった。今回のベスト盤『八代亜紀ベストヒット』には『なみだ恋』から’91年の『愛を信じたい』までの往年のヒット曲12曲と昨年、一昨年にリリースした3曲が収められている。
12曲は私のヒット曲から選んだのですが、選曲にあたっては悩みました。ヒット曲はお客様が待っていらっしゃる曲ばかりですから。最終的には自分で決めましたが、周囲のスタッフから、あれもこれも入れてとリクエストされて、うれしい悲鳴でした(笑)
ベスト盤の制作にあたっては、往年の大ヒット曲を八代の今の声で聴きたいというファンからの声に応えて、新たにレコーディングを行った。
この十数年、ライブを見にきてくださったお客様から、今歌ったその声の『舟唄』(のCD)はないんですかなどと聞かれることが本当に多くなったんです。そんなに言ってくださるのなら新しくレコーディングしたいなと思っていた矢先に“50周年”だということになって。年齢的にも八代亜紀がニューバージョンを録音するのはこれが最後になるだろうからと思い、制作することにしました。楽器やノリは今の時代に合う形にしていますが、基本のアレンジは変えていません。
歌いなおしてみて、もう、本当にいいなと思いました! 詞がですね、今の(私の)年齢の声で歌う詞なんです。例えば『恋歌』という素敵な歌があるのですが、「激しいばかりが 恋じゃない 二人でいたわる 恋もある」と歌う、その気持ちは20代、30代では分かりませんよね。私も若いころは、ゴムまりが弾むような声で表現していましたけれど、それはそれでありだったと思うんです。なぜならお蔭様で大ヒットしたのですから。ただ、今コンサートで歌うと皆さん泣かれるんです。今この年齢のこの声で歌うと詞がしみるんです。切ないんですよ。聴いて下さる方が、今の声だからこそ分かってくださることがあるのではないかと思います。
あるインタビューで八代は、“自分は表現者ではなく、代弁者”だと語っている。長い人生の中で誰しもが心の中に密かに抱える喜びや哀しみを歌で代弁する――それが彼女の考える“歌手・八代亜紀像”だ。
私はずっと“表現者というより代弁者”だと思って歌ってきました。幸せな人間なのかもしれませんが、これまでの人生で私は辛い辛い恋を経験したことはありません。だから例えば『花水仙』のように鉢植えの水仙に水をあげながら恋しい人を待っているということもありませんでした。でも、世の中にはそういう経験をされてきた方がいて、皆さん、歌の中の世界を自分に置き換えて聴いてくださっているんです。私のことだわって。そういう皆さんの気持ちを歌で代弁するのが私の役割だと思っています。
無理を承知で『ベストヒット』から1曲を選んで、曲にまつわる思い出やエピソードを聞きたいとリクエストをすると、
どの子が一番、かわいいですかって聞かれているようで1曲だけ選ぶのは難しいけれど、やはり思い出に残っているのは『舟唄』です。この曲は10周年に向けて新しい八代亜紀の足掛かりを作るために、阿久悠先生の世界を八代に歌わせようという意図で実現したものなんです。私にとって初めての男歌でしたが、最初、阿久先生は従来のような女歌を、たぶん十数曲作ってくださったと思います。ただ、それはそれまで歌ってきた世界だからと、当時のスタッフがすべてボツにしたんです。それで考えた阿久先生が“これでどうだ”と出してくださったのが『舟唄』。もう最初の1行を読んだだけで、いいメロディがつくだろうなと確信しました。ダンチョネ節も阿久先生がどうしても入れたいとおっしゃったそうです。レコーディングのとき、目を閉じて腕を組んで、笑顔でじっと聴いていらした姿を覚えています。『八代亜紀ベストヒット50』にも最後にピアノ・バラードバージョンの『舟唄』を入れました。必聴です!
その『八代亜紀ベストヒット50』は、4枚のディスクに、テーマ別にまとめられた50曲が収録された、まさにアーティスト・八代亜紀の50年間を凝縮した企画。ディスク1は『ベストヒット』の新録12曲、ディスク2はファンに人気の名曲を収録した「八代マニア」、ディスク3はCM曲から映画ソングまでノンジャンルのカバーソングを収録した「八代バラエティ」、ディスク4は演歌の女王が歌うJazz、「八代ジャズ」という豪華なラインナップだ。
私は、音楽はジャンルに関係なく全部一緒だと思っています。演歌もアニメソングもロックもシャンソンもすべてひとつの音楽。その考えを体現したベスト盤になっています。選曲の際、スタッフが「俺はこの曲が好き」「俺はこれ」って盛り上がって、私は何かそれがうれしくて、ニコニコしながら「ああ、そうなんだ」て思いながら1曲ずつ選びました。意外だったのは、『思い出ゆきの夜汽車』(ディスク2)が入ったこと。22か23歳ころの歌でアルバムにしか入れていない曲なんです。当時はレコードで、たぶんデジタル化もされていなくて聴く手だてがない曲だったのですが、スタッフが音源を探してきてくれました。貴重な音源ですからぜひ聴いてみてください。
この『ベストヒット50』は私が歩んできた50年間の歴史を刻んでいますが、聴いていただいたらその50年が自分の歩んできた道と重なって思い出されることと思います。「ああ、あのときそうだったな」って、心がキュンとなるような思いを感じられるはず。ご自分の人生を振り返りながら聴いていただければうれしいです。
今回のベスト盤3企画はともにジャケットのアートワークに日本のポップアートの先駆者として知られる田名網敬一を起用した。「2~3年前、田名網先生とお会いした際、実は田名網先生が八代のファンで、コンサートや展覧会にもいらしてくださっていたことを知りました。そういうご縁もあり、今回の企画のキービジュアルをどうするかというときに、先生にお願いしようということになりました」とスタッフが八代に代わって馴れ初めを話してくれた。
ぜひ、お願いしたいと頼みましたら、断わる理由はないとおっしゃって、二つ返事でOKをいただきました。うれしかったですね。一般的には先生の絵はポップではじけていると思うじゃないですか。でも私は、そこにノスタルジーを、もっと言えば“昭和”を感じたんです。あの昭和の時代、皆が頑張ったこと、辛かったこと、楽しかったことすべてが先生の絵に詰まっていると。だから先生の絵と八代の演歌は似ていると思うと話しましたら、先生は「僕の絵には、子供の頃に経験した戦争の記憶なんかも入っている。僕の気持ちを分かってもらえましたか。うれしいです」とおっしゃってくださいました。
浮き沈みの激しい歌謡界で、50年間トップ歌手として歌い続けることは、並大抵のことではない。改めてこの半世紀に渡る歌手人生を振り返って今の心境を聞くと、言葉の重さとは裏腹、明るい表情でサラリと答えてくれた。
正直に言いますね。50年って言われてもピンとこないのが本音です。がむしゃらに必死で頑張ってきたらいつの間にか50年経っていたという感じですね。私、コロナ禍になるまで3連休って一度も経験したことがいないんです。毎年、年間のコンサートスケジュールが百何十ステージって決まりますから。だから頑張るのが当たり前で、それで50年です。マンネリだとか、飽きたとか感じる暇もありませんでした。体調が悪くて歌えるかなと思っても、お化粧してドレスに着替えて、ステージでお客様から拍手をいただくと、元気が出て出来てしまうんです。歌い終わって袖にいくとヘナヘナってなって、またステージに出るとシャキッとする。面白いものですね。
ただ、コンサートの後、絵を描くことで切り替えができているのは大きいかもしれません。コンサートが終わるといつもアトリエに行って、3日間、画家になるんです。その間は好きな絵を描きながら、喉も休ませることができますし、すごくいい時間を過ごしています。
50年という大きな区切りを超えて、これからの計画を聞くと、楽しそうにある“企み”を打ち明けてくれた。
コロナ禍にならなかったら、50周年でやりたかったことがあったんです。それは1年、2年かけてトラックのステージで全国を回ること。今まで生の八代を見たことのない方がいらっしゃる街に行って生で歌うんです。全国にはコンサートに行きたくても行けないという方がたくさんいらっしゃると思いますので、それなら私からこれまで行ったことのない場所に出かけていこうと思ったんです。コロナが収束したら、ぜひ実現してみたいですね。それから今、周りで支えてくれている若いスタッフが、八代に何か楽しそうなことをやらせて動かすのを楽しみにしているようですから、YouTubeでもTik Tokでも面白そうなことには乗っかっていこうと思っています(笑)。
コロナ禍でなかなか会えないファンへのメッセージをお願いすると、
こういう時代でたくさん我慢を強いられてしまっていますが、明けない夜はありません。それを信じて頑張りましょう。コロナが終わったら必ず生の歌を届けにいきますから、それまではCDで、今の八代の声を聴いていてください。“人生って素敵だな”ときっと思ってくださると信じています。
そして最後は、歌姫・八代亜紀のこんな“夢”で締めくくってくれた。
私の夢は80歳、90歳になっても歌い続けることです。そのときの私のコンサート会場は、ロビーが老若男女でごった返していて、皆、「八代亜紀の歌を聴きに来たって」話している。そして、本番が始まって幕が開くと、ステージの真ん中にピアノが置いてあって、そこで朗々と『舟唄』を歌うんです。それが今の夢。だから八代亜紀は80になっても90になっても、レジェンドになって死ぬまで歌い続けたいと思っています!
「八代亜紀ベストヒット 〜ニューレコーディングス&ニューシングルズ〜」
2021年9月25日発売
TYCT-60177
3,300円(税込)/ 3,000円(税抜)
デビュー50周年を記念して「なみだ恋」「舟唄」「雨の慕情」など往年の大ヒット曲12曲をニューレコーディング。
さらに最近のヒットシングル3作品を加えたプレミアムなベストアルバム!
【収録内容】
01. なみだ恋
02. おんなの夢
03. 花水仙
04. 恋歌
05. おんな港町
06. もう一度逢いたい
07. 愛の終着駅
08. 哀歌(エレジー)
09. 舟唄
10. 雨の慕情
11. 日本海
12. 愛を信じたい
13. だいじょうぶ(八代亜紀ソロバージョン)
14. 明日に生きる愛の歌
15. 居酒屋「昭和」