森山愛子 15枚目の新曲『ひとり風の盆』は集大成的作品 「歌い手として培ってきたものを全部注ぎ込みます」

2021.11.12

『尾曳の渡し』が令和元年に発売された楽曲の中で、最もカラオケで歌われた曲の第10位にランキングされるなど、カラオケファンから絶大な支持を受けている森山愛子が、新曲『ひとり風の盆』をリリースした。
富山市八尾地区の祭り「おわら風の盆」を舞台に、哀切に満ちた旋律に乗せて、あきらめ切れない恋心を歌った一曲は、切ない女心を歌って人気を集めてきた森山の真骨頂。
そんな新曲にかける意気込みを聞いた。


――前3曲『会津追分』『尾曳の渡し』『伊吹おろし』はご当地ソング3部作として好評でした。『ひとり風の盆』も、それに続くご当地ソングと考えていいのでしょうか。

『ひとり風の盆』もご当地ソングと言えるものではありますが、今回はあえてその括りには入れていません。ご当地ソングとしては昨年発売した『伊吹おろし』が3部作の最終章です。
ただ、この曲はご当地3部作を歌ってきた今の私だから与えていただけた曲だと思っているんです。今なら、歌い手として培ってきたもの、積み重ねてきたものを全部『ひとり風の盆』に注ぎ込むことができる。
シンプルな世界観で、それだけ表現するのが難しい曲ではありますが、でもだからこそ今この曲を歌う意味があるのだと思っています。そういう意味では、3部作の集大成的作品といってもいいかもしれません。

 

――歌の舞台になっている祭り、「おわら風の盆」には実際に行かれましたか。

お祭りの様子は映像では見ましたが、コロナ禍ということもあり、残念ながらまだ行けていません。
お祭りっていうと、わーっと賑やかなイメージを想像しますけど、「おわら風の盆」はゆったりしていて、独特な雰囲気がありますよね。
その空気感を現地に行って感じることができれば、ふたりでいくはずだった風の盆にひとりで行ったこの曲の主人公は、そこでどんなことを思ったのか、感じるものがあると思いますので、ぜひ行ってみたいと思います。

 

――これまでも切ない女心を歌ってきた森山さんですが、今回はより大人のイメージが強くなった気がします。

これまでは歌の世界に自分をグッと入れて歌うことが多かったと思いますが、今回は入り込まないでなるべく俯瞰して見るようにしました。自分が映画監督になったつもりで、前半は抑えて、後半になるにつれて徐々に気持ちを入れていきながらストーリーを紡いでいく、そんな歌い方が初めてできたと思います。
師匠の水森(英夫)先生からも演歌というのは自分で想像して演出し、演じて歌うもの。だから演歌というんだよって、ずっと教えていただいてきていましたから。
今回、裏声を使って歌っているフレーズがあるのですけれど、その部分で女性のはかなさ、切なさ、脆さとか、そういうものを表現できたらいいなと思って、私から水森先生に提案してやらせていただいたのもその現れです。

 

――ところでカラオケファンに大人気の森山さんから、『ひとり風の盆』をカラオケで歌う際の歌唱指導をお願いできますか。

そうですね、曲調が重い歌なので、気持ち的にはあまり重くなりすぎないほうがいいと思います。先ほども言いましたが、前半は抑えて、後半に行くにしたがって少しずつ気持ちを込めていくのが全体としては上手く歌うこつです。
あとは、裏声にはぜひ挑戦してみてください。難しいかもしれませんが、カラオケ好きな皆さんなら、ちょっと難しいフレーズとか、ここはなかなかできないという箇所があったほうが、より歌ってみたいという気持ちが強くなると思うんです。裏声で歌うのもやってみたくなるはず(笑)、頑張って歌ってみてください。

――このところ日本の各地を舞台にした曲を歌うことの多い森山さんですが、歌ってみてこれまでと違う手ごたえは感じられましたか。

2017年に『会津追分』を歌ったときに、福島にお邪魔する機会が増えて感じたのは、地元の方たちのその曲に対する思いの強さ。応援してくださる“圧”が他の楽曲のときより全然強いんです。私自身も、歌ってみて歌の世界観を想像しやすいと感じました。
例えば『尾曳の渡し』のときも、その場所に行ってジャケットやプロモーションビデオ(PV)の撮影をしましたが、PV撮影のとき、実際に尾曳の渡しの前で曲を口ずさみながら撮っていると、ああ、こういう気持ちなのかとか想像しやすいんです。
それに、どの曲のときもそうでしたが、皆さん「地元の歌を歌ってくれて、ありがとう」って言ってくださるのがうれしい。『会津追分』の時は、地元のテレビ局でレポーターをさせていただいて、県内の道の駅を回ったのですが、たくさんの方に「会津の歌を歌ってくれてありがとう」って言っていただきました。
『尾曳の渡し』のときもそうでした。尾曳の渡という渡し舟のことは、地元の方以外知らなかったという声も多くて、私が歌うことで注目されるようになって、地元の皆さんに喜んでいただけたのはよかったと思いました。
私、栃木県の出身なんですが、地元が舞台の歌ってそんなになくて、『尾曳の渡し』のカップリングに『喜連川』という栃木を舞台にした歌を入れることができたのも、うれしかったですね。

 

――4月にはお客さんを入れてコンサートも開催されました。31曲の熱唱ということで話題になりましたね。

緊急事態宣言が出る2日前、ギリギリのところでやらせていただきました。それまでほとんどお客様を入れて歌う機会がありませんでしたから、もちろんお客様にも楽しんでいただきたかったですが、自分もこの一瞬を楽しもうという気持ちが大きかったです。
コロナ禍で家にこもっているときは、思い切り声を出すことができないですし、自分の声、どうなっちゃってるかと心配になって、そんなときはクローゼットの中でクッションに顔を付けて「アーーーーーー!!」とかやってたんです。だから31曲、よく歌ったなあ!と思いましたし、めっちゃ楽しかったです。

 

――やはりコロナ禍は、森山さんにとっても大変な時期だったのですね。

不安に思うこともありましけれど、ただ、そんな時間の中で自分の昔の動画を見直して、「ああ、こんな声も出せたんだ」とか「こんな風にこぶしを回していたんだ」とか「こんな表情をして歌っていたんだ」とか、改めて自分を振り返る時間を作ることができたので、決して無駄な時間ではなかったと思っています。歌手として成長できた部分も間違いなくあったはずです。そうでなければ「この間、いったい何をやってたんだ」って、ファンの方に叱られてしまいますから。

――デビューして18年目、15枚目のシングルも発売しました。これから歌手・森山愛子として、新たに挑戦したいことはありますか。

演歌ではないジャンルにも挑戦してみたいです。究極を言えば、ロックバンドとコラボしたり、誰かとユニットを組んでピンク・レディさんみたいに歌いながら踊りますとか、そういうのも楽しそう(笑)。
言い出したらきりがありませんが、J-POPのカバーとかも。島津亜矢さんなんかかっこいいですよね。私、音楽はいろんなジャンルを聴くのですが、最近はあいみょんさんの歌をよく聴いています。どことなくフォークっぽい雰囲気が漂っていて、すごく好きなアーティストなんです。
オリジナル曲でフォークソングを歌うのもいいですよね。もちろん自分も好きですが、フォークといえば両親の世代の歌なので、聴いたらいろんなことを思い出すだろうし、親のためにも歌えたらいいなと思います。ただ、母は家ではもっぱら演歌を聴いていましたけどね(笑)。父はポケットに手を突っ込んで(石原)裕次郎さんを歌っていました。ちょっとすかしたタイプですね(笑)。

 

――もう20周年も目の前です。デビュー20周年記念として何か計画していますか。

まず自分に20周年がくるということにびっくりで、まだ何も考えていません。うーん、そのとき自分に何ができるでしょうか?……えーと、あっ、じゃあ水着でもやっちゃいますか(爆笑)。え、50周年の時がいい?需要があればですね(笑)。

 

――それはともかく(笑)、長く第一線で歌ってきた森山さんが、改めて歌手生活を振り返って、歌手という仕事の魅力や音楽の持つ力について思うことがあれば教えてください。

演歌ファンは年配の方が多いんですが、私のコンサートに行きたいからということで、ずっと家にこもっていた方が外に出るきっかけになったとか、私つながりでファンの方同士が仲良くなって友達が増えたとか、そういうことを聞くと、それは歌い手というより、森山愛子個人として幸せな気持ちになります。
音楽の力という意味では、今でも思い出すのがデビュー2年目のことです。『風樹の母』という曲を出したとき、ある女性ファンの方が、「最近、母を亡くしたんです。愛ちゃんの歌を聴いていろんなことを思い出してしまって」といって、涙を流されたんです。なんか、こちらももらい泣きしてしまって。自分が歌うことで、人の心の寂しさに寄り添うこともできるんだ、歌っていてよかったと思った瞬間でした。
私自身も音楽には励まされることが多いですし、これからもずっと歌や音楽の力で人を元気づけられる存在であり続けたいと思っています。

 

“元気な愛ちゃん”からショートカットがよく似合う、大人の歌手へと成長した森山愛子。デビュー20周年に向けて、どんなチャレンジを見せてくれるか期待したい。

森山愛子『ひとり風の盆』 c/w 『みれん花』

発売日:2021/11/10
価格(CD MAXI):¥1,350(税込)
品番(CD MAXI):UPCY-5102
レーベル:Universal Music
発売元:ユニバーサルミュージック合同会社
01. ひとり風の盆作詞/かず 翼 作曲/水森 英夫 編曲/伊戸 のりお
02. みれん花作詞/かず 翼 作曲/水森 英夫 編曲/伊戸 のりお

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