【生誕100年企画『決定版 三波春夫映像集』発売】不世出の「国民的歌手」三波春夫の歌と笑顔の歌謡人生
1939年(昭和14年)に浪曲家として初舞台を踏み、太平洋戦争への従軍と戦後のシベリア抑留生活を経て、歌手としてデビューを飾った三波春夫。デビュー曲『チャンチキおけさ』の大ヒットを皮切りに三波はスター街道を驀進し、東京五輪と大阪万博のテーマソングを歌って「国民的歌手」として不動の地位を築く。歌と笑顔で日本中を明るくした三波の歌謡人生を、愛娘で晩年の11年間をマネージャーとして支えた三波美夕紀さんのコメントを交えて振り返る。
浪曲家として活躍後、陸軍に入隊しシベリアで抑留生活
1923年(大正12年)7月19日、新潟県三島郡(現・長岡市)で誕生した北詰文司(後の三波春夫)は、13歳で上京して米屋、製麺所などで住込み奉公を始める。
幼い頃に父から民謡を教わり、歌うことが大好きだった文司少年は、築地魚河岸で働く16歳の時に日本浪曲学校に入学。その翌月には、寄席で浪曲家・南篠文若として初舞台を踏む。
少年浪曲家として活躍した文若だが、20歳で陸軍に入隊し、満州へ赴く。終戦後は4年間、シベリアのハバロフスク、ナホトカの捕虜収容所で抑留生活を送る。収容所でも文司の浪曲は評判となり、過酷な環境で労働を強いられる仲間たちを慰めた。
「戦争と抑留の経験は、三波の礎だったのだと思います。戦争で亡くなった仲間の分までがんばらなくてはいけないという気持ちが、常にあった。終戦の周年の記念曲を歌った時には、涙を流されている客席の方々と共に、悲しさ、辛さを分かち合い、励まし合う思いで歌っていました。“戦争”と“シベリア”は、三波春夫の背骨なんだと私は思います」
晩年の11年間をマネージャーとして過ごした愛娘の三波美夕紀さん(以下、美夕紀さん)は、そう話す。
帰国後に結婚、“三波春夫”として歌手デビュー
1949年(昭和24年)にシベリアから帰国して浪曲界に復帰した文若は、同年12月に舞踊や色物の一座の花形だった野村ゆきと結婚する。
「家庭内のことは母が一切引き受けていたので、父は歌うことと歌を作ることだけに専念できました。娘の私の目から見ても、母は頑張っていたなと思います。父は講演の際、『悪い女房を持つと“一生の不作”と言いますが、うちは“大豊作”でございました』と言っていました」(美夕紀さん)
そんな妻のサポートを受けた文若は、1957年(昭和32年)に“三波春夫”として『チャンチキおけさ』で歌謡界にデビューする。
「三波がデビューした当時は、男性歌手はスーツで歌うというのが不文律だったそうです。三波もスーツで出たのですが、『頭角を現すには、浪曲時代に鍛えた和服の所作が必要だ』と思った。そこで母がレコード会社幹部が反対するのを押し切って三波に和服を着せたところ、お客様が拍手喝采で喜んでくださった。“オリジナルを作る”というのは、三波春夫の信条でしたね」(美夕紀さん)
デビュー曲が大ヒットし、スター街道を驀進
デビュー曲『チャンチキおけさ』は大ヒットし、翌年1958年(昭和33年)には三波主演で映画化もされた。この年、三波はカップリング曲の『船方さんよ』も含めて合計7本の映画に主演する大活躍で、初のハワイ公演も成功させ、12月には第9回紅白歌合戦に初出場を果たす。
この後も三波の大活躍は止まらない。1959年(昭和34年)にはテイチク(所属レコード会社)の歌謡曲レコード年間売上トップ3を三波の楽曲が占め、1960年(昭和35年)には歌謡界で初めて、歌手が座長の芝居と歌謡ショーの1ヶ月公演を大阪・新歌舞伎座で開催。1961年(昭和36年)には東京・歌舞伎座で1カ月公演を開催し、以後20年間定例月公演として続くこととなる。東京・歌舞伎座で歌手が1カ月公演を連続した記録は、三波春夫だけが成し遂げたものである。
『東京五輪音頭』が大ヒットし、長編歌謡浪曲を生み出す
1963年(昭和38年)には、翌年に開催を控えた東京オリンピックのテーマソング『東京五輪音頭』が発売された。この曲はレコード会社6社の競作で発表されたもので、キングレコードからは三橋美智也、ビクターからは橋幸夫、コロムビアからは北島三郎&畠山みどり、東芝からは坂本九が歌唱を担当したものが発売された。三波はテイチク盤を担当したが、250万枚という突出した大ヒットを記録した。
1964年(昭和39年)には、北村桃児のペンネームで自ら作詞・構成した長編歌謡浪曲『元禄名槍譜 俵星玄蕃』を発表。浪曲時代の経験を活かして歌と浪曲を融合させ、自らネーミングした「長編歌謡浪曲」は多くのファンの支持を集め、三波を象徴する作品となった。
「『長編歌謡浪曲を歌いたいです』という若手の歌手の方は多いですね。でも、CDを聴いただけではフシもセリフも、所作もわからないとおっしゃるので、私がお教えすることが始まりました。私は日本舞踊の師範名執でもありますので、所作もくわしくご説明して熱い稽古をしております」(美夕紀さん)
万博のテーマソングが大ヒットし、一躍「国民的歌手」に
1967年(昭和42年)には、1970年(昭和45年)から大坂で開催される日本万国博覧会のテーマソング『世界の国からこんにちは』が8社競作で発売された。総売り上げ300万枚超のこの曲でも、三波が担当したテイチク盤は130万枚の大ヒットを記録する。
日本万国博覧会開催後にリベリア共和国で発売された日本万博記念切手では、三波の笑顔の和服姿が2種起用された。日本の歌手が海外の切手に登場するのは、これが初めてのことだった。
東京五輪と大阪万博という、戦後日本の復興を象徴するイベントのテーマソングで大ヒットを記録した三波は、名実ともに「国民的歌手」と称された。
精力的な音楽活動とがん告知
1986年(昭和61年)に紫綬褒章を受章し、この年の第37回紅白歌合戦で白組歌手として当時最多記録となる29年連続出場を果たした三波は、その後も過去のヒット曲をラップやレゲエなどを導入してアレンジするなど、新しい歌を作り出し、ジャンルに囚われない柔軟で精力的な音楽活動を展開していく。
だが1994年(平成6年)に体調を崩してしまう。医師の診断は「前立腺がん」だった。
当時マネージャーを務めていた美夕紀さんから病名を告げられた三波は、「病気と共にということにはなると思うけど、仕事も一生懸命やっていきましょう」と語ったという。
発見された時点ですでに早期ではなかったが、「ファンの方々には普段通りの三波春夫を見ていただきたい」という気持ちから、病気は公表しなかった。
「本当に変わらなかったですね。治療しながらではありましたが、本人は仕事を淡々といつも通りしていました。精神的な強さを感じました。シベリアでの抑留生活を経験していたこともあるかもしれません。どん底を知っているからこそ、あの笑顔ができたのだと思います」(美夕紀さん)
常に新しい音楽を求め、挑戦を続ける
がん告知を受けた年の7月、三波は『平家物語』をリリースする。後世に日本の歴史を伝えたいという想いからスタートした本作は構想10年、執筆に6年の月日をかけており、2時間25分におよぶ大作となっている。三波が本作を書き上げた当初は、4時間半を超えていたが、スタッフの意見も参考に磨き上げ、その精髄を凝縮して仕上げた自信作だ。
三波の長編歌謡浪曲の集大成ともいわれるこの『平家物語』は、8月に行われた「芸能生活55周年記念リサイタル」でもダイジェストがプログラムに盛り込まれて大好評を博した。三波は本作で、この年の第36回レコード大賞企画賞を受賞している。
また三波はこの年、勲四等旭日小綬章を授与されている。
大作『平家物語』をリリースし、芸能生活55周年を無事に乗り切った三波は闘病生活に自信を深め、アニメ『クレヨンしんちゃん』のテーマソングや、さだまさしが長崎で開催した平和記念無料コンサートに参加するなど、ジャンルの垣根を超えて精力的に活動していく。
“日本”をテーマに歌い続けた「国民的歌手」
2001年(平成13年)4月14日、昭和を輝かせ、平成を彩った「国民的歌手」は帰らぬ人となった。享年77歳。死の直前、妻に向けて発した「ありがとう。幸せだった」が最期の言葉だった。
「三波春夫は、愚痴を言ったり人の悪口を言ったりすることが一切ない人でした。何か問題が起きた時には『自分の努力が足りないんだ』と考えて、さらに努力を重ねる人だったのです。その点は最後まで一貫して変わりませんでした。
常に“日本”をテーマにしていたのも変わらない点です。とにかく三波は“日本”と“日本人”を愛して、『日本人の良さを忘れないでほしい』と思って歌ってきました。そうした熱い想いを、三波の歌から感じていただければうれしいですね」(美夕紀さん)
三波は死後、出身地の新潟県から「新潟県民栄誉賞」を贈られ、2002年(平成14年)には長岡市塚野山に顕彰碑が建立された。歌碑や句碑とともに建てられた銅像は、今も変わらぬ笑顔を日本全国に向けている。
日本を魅了した「国民的歌手」は、今も愛され続ける名歌の数々を生み出し、世代を超えて多くの歌手に影響を与え続けている。三波春夫の歌と笑顔は、時が流れても変わらぬ輝きで世を照らし続けているのである。
決定版 三波春夫映像集
2023年7月19日(水)発売
TEBS-22123 ¥22,000(税抜価格¥20,000) DVD BOX(4枚組)
<DISC1>決定版 三波春夫映像集① –NHK紅白歌合戦–
【『NHK紅白歌合戦』】
1.佐渡の恋唄 1963年(昭和38年)/第14回
2.水戸黄門旅日記 1965年(昭和40年)/第16回
3,紀伊国屋文左衛門 1966年(昭和41年)/第17回
4.元禄花の兄弟 赤垣源蔵 1967年(昭和42年)/第18回
5.大利根無情 1969年(昭和44年)/第20回
6.織田信長 1970年(昭和45年)/第21回
7.あゝ松の廊下 1972年(昭和47年)/第23回
8.大利根無情 1973年(昭和48年)/第24回
9.勝海舟 1974年(昭和49年)/第25回
10.人生おけさ 1976年(昭和51年)/第27回
11.三波のハンヤ節 西郷隆盛 1977年(昭和52年)/第28回
12.さくら日本花の旅 1978年(昭和53年)/第29回
13.雪の渡り鳥 1979年(昭和54年)/第30回
14.チャンチキおけさ 1980年(昭和55年)/第31回
15.雪の渡り鳥 1981年(昭和56年)/第32回
16.チャンチキおけさ 1982年(昭和57年)/第33回
17.放浪茣蓙枕 1983年(昭和58年)/第34回
18.大利根無情 1984年(昭和59年)/第35回
19.夫婦屋台 1985年(昭和60年)/第36回
20.あゝ北前船 1986年(昭和61年)/第37回
21.東京五輪音頭 1989年(平成元年)/第40回
22.元禄名槍譜 俵星玄蕃 1999年(平成11年)/第50回
《特典音声》
1.雪の渡り鳥 1958年(昭和33年)/第9回
2.沓掛時次郎 1959年(昭和34年)/第10回
3.忠治流転笠 1960年(昭和35年)/第11回
4.文左たから船 1961年(昭和36年)/第12回
5.巨匠 1962年(昭和37年)/第13回
6.世界平和音頭 1968年(昭和43年)/第19回
<DISC2>決定版 三波春夫映像集② – NHK厳選映像 –
【NHK厳選映像】
1.大利根無情 ビッグショー 三波春夫 遥かなりわが歌の道 1976/10/24
2.これが呑まずに居られるかい ビッグショー 三波春夫 遥かなりわが歌の道 1976/10/24
3.チャンチキおけさ ビッグショー 三波春夫 遥かなりわが歌の道 1976/10/24
4.出世佐渡情話 ビッグショー 三波春夫 遥かなりわが歌の道 1976/10/24
5.元禄名槍譜 俵星玄蕃 ビッグショー 三波春夫 遥かなりわが歌の道 1976/10/24
6.母を想えば ビッグショー 三波春夫 終り無きわが歌の道 1977/10/23
7.三波のハンヤ節 西郷隆盛 ビッグショー 三波春夫 終り無きわが歌の道 1977/10/23
8.塩原多助 ビッグショー 三波春夫 終り無きわが歌の道 1977/10/23
9.文左衛門の海 ビッグショー 三波春夫 終り無きわが歌の道 1977/10/23
10.黒田節 ビッグショー 三波春夫 わが歌よ永遠に翔べ 1979/01/09
11.元禄花の兄弟 赤垣源蔵 ビッグショー 三波春夫 わが歌よ永遠に翔べ 1979/01/09
12.さくら日本花の旅 ビッグショー 三波春夫 わが歌よ永遠に翔べ 1979/01/09
13.終り無きわが歌の道 ビッグショー 三波春夫 わが歌よ永遠に翔べ 1979/01/09
14.わたり鳥 NHK歌謡ホール 浴衣で勢ぞろい・海辺の演歌まつり 1981/08/04
15.おまんた囃子 NHK歌謡ホール 浴衣で勢ぞろい・海辺の演歌まつり 1981/08/04
16.元禄名槍譜 俵星玄蕃 この人「三波春夫・村田英雄ショー」芸道四十年 初めて二人 男の競演 1982/06/10
17.船方さんよ 第14回思い出のメロディー 1982/08/07
18.豪商一代 紀伊国屋文左衛門 大入り名人亭 1982/09/15
19.大利根無情 NHK歌謡ホール 御存知!花のステージショー 日本調演歌ヒット曲 1984/06/12
20.雪の渡り鳥 第16回思い出のメロディー 1984/08/18
21.一本刀土俵入り NHK歌謡ホール 1984/09/25
22.元禄名槍譜 俵星玄蕃 加山雄三ショー 1987/1/17
23.独眼竜政宗 NHK歌謡ステージ みちのく・演歌まつり 1987/09/01
24.鳴呼、中国の媽々 NHK歌謡ステージ みちのく・演歌まつり 1987/09/01
25.浪曲 瞼の母 愉快にオンステージ 三波春夫…浪曲からハウス音楽まで! 1992/10/10
26.祇園精舎 ニッポン音楽の水脈 その創生と伝統 1994/06/25
27.東京五輪音頭 ’94 思い出のメロディー 1994/08/23
28.清盛天下を射る ふたりのビッグショー 細川たかし&三波春夫 爆笑!これがサービス道だ 1994/11/07
29.この山は、この川は ふたりのビッグショー 三波春夫&天童よしみ 1998/03/16
30.あゝ忠臣蔵 ふたりのビッグショー 三波春夫&二葉百合子これぞ極め付き! 語り物・大歌謡曲 1999/07/12
31.富士山 NHK歌謡コンサート ふるさとを想う演歌名曲選 2000/08/01
《特典映像》
1.でんぐりブギ’77 ひるのプレゼント 三波春夫の五日間 股旅浪曲をうたう 1978/7/13
2.赤い椿と三度笠 ひるのプレゼント 三波春夫の五日間 股旅浪曲をうたう 1978/7/13
3.うな丼物語~鰻丼むかし話~丼音頭
ひるのプレゼント 日本五大丼考 第3章 三波春夫うな丼ショー 1982/1/27
4.元禄名槍譜 俵星玄蕃 邦楽百選 當・忠臣蔵大集合 本懐は雪の朝(ルビ:あした) 1984/12/28
<DISC3>決定版 三波春夫映像集③–「歌謡生活20周年記念リサイタル」–
【「歌謡生活20周年記念リサイタル」S51年(1976年)10月 於・荒川区民会館(文化庁 昭和51年度芸術祭優秀賞 受賞公演)】
1.チャンチキおけさ
2.船方さんよ
3.おじいさんおばあちゃん
4.子別れ峠
5.信濃川舟唄
6.桃中軒雲右衛門とその妻
7.出世佐渡情話
8.元禄名槍譜 俵星玄蕃
9.雪の渡り鳥
10.一本刀土俵入り
11.大利根無情
12.これが呑まずに居られるかい
13.世界の国からこんにちは
14.奥州の風雲児 伊達政宗
15.でんぐりブギ’77
16.母を想えば
17.終り無きわが歌の道
<DISC4>決定版 三波春夫映像集④–「芸能生活55周年記念リサイタル」–
【「芸能生活55周年記念リサイタル」H6年(1994年)8月 於・東京 歌舞伎座】
1.三波春夫のごあいさつ
2.口上浪曲
第一部~大ヒット曲の数々~
3.チャンチキおけさ
4.船方さんよ
5.雪の渡り鳥
6.東京五輪音頭
7.世界の国からこんにちは
8.大利根無情
9.あゝ北前船
10.佐渡おけさ(アカペラ)
11.男の峠道
12.櫓かこんで
13.おまんた囃子
14.三波春夫「平家物語」を語る
第二部~歌絵巻 平家物語~
15.祇園精舎
16.清盛天下を射る
17.牛若丸元服
18.説教ぶし
19.頼朝旗揚げ
20.義経出陣
21.屋島の扇
22.説教ぶし
23.壇の浦決戦
第三部~歌藝の世界~
24.元禄名槍譜 俵星玄蕃
25.終り無きわが歌の道