シンガー・ソングライター成底ゆう子がミニアルバム『島心~しまぐくる』を携え、1年半ぶりに東京で開催したライブを独自レポ―ト! 「歌い続けることで皆さんに恩返ししたい」と思い込める

2024.9.24

4年半ぶりの新作ミニアルバム『島心~しまぐくる~』をリリースした沖縄・石垣島出身のシンガー・ソングライター、成底(なりそこ)ゆう子が、9月21日に東京・南青山MANDARAでライブ「音(おん)がえし」を開催した。

2日後に沖縄本島で自身初のワンマンライブを控えるなか、東京公演も実に1年半ぶりとあって、開場前から多くの観客が列をなし、場内はあっという間に満員に。中高年を中心に80代と思しき老夫婦から小学生までまさに老若男女の観客が見つめるなか、暗転したステージに成底が登場し、ピアノに向かうと、かつて森繁久彌が“次世代へ託した奇跡の歌姫”と評した、透き通るような歌声への期待感を込めるような静かな拍手が沸きあがった。

ステージの幕開けは、『島心~しまぐくる~』のリード曲『生きている歓び』。成底自身が「私だけにしかできない武器だと思います」とインタビューで語った声楽と島唄という真逆の歌唱法を駆使し、高音から低音まで自由自在に操る音域の広さと伸びやかで迫力のある声量で、命あることの尊さと歓びを歌いあげる。曲の最後に「生きている歓び」と繰り返すサビの突き抜けるようなヴォーカルに場内の誰もが歌の世界にぐいぐいと引き込まれていく。

2曲目は同じく新作アルバムの収録曲『光と風の島』。力に満ちた生命賛歌『生きている歓び』に対し、八重山の情景を映し出したこの曲では、柔らかな歌い出しから目には見えない島の「やさしい風」が吹いてくるよう。今回のライブは、シンガー・ソングライターの髙島ユータがキーボードで参加。鍵盤2台(+三線)のシンプルなアコースティックセットでヴォーカルの美しさが際立つだけに、観客には目をつむりながら歌声に聴き入る人、スクリーンに投影された歌詞を追いながら目を潤ませる人もいる。

NHK「みんなうた」で知られる『おばあのお守り』では、手拍子とともに大勢の観客も一緒に口ずさみ、一気に会場が明るい雰囲気で一体になり、サウンドに異国情緒が薫るドラマティックな『あやぱに』へと続いた。「あやぱに」とは八重山方言でカンムリワシの美しい羽根のこと。自分の道を進む意志の強さを表現した曲で、旧作からの多彩な楽曲群が次々と披露されていく。

ここでピアノをいったん離れ、三線を手に「インディーズのころ、この曲を作っていなければ、皆さんと出会えていなかった」という『真っ赤なデイゴの咲く小径』を歌い、南青山が一気に沖縄の空気に包まれる。そして南国の空気から一転、すすきが揺れる風景が目に浮かぶ『秋色は満月の恋』は、曲中に取り入れた童謡の『十五夜お月さん』のフレーズも楽しい。

『生きている歓び』のミュージックビデオを見て、母が感動していたんですけど、撮影場所は沖縄ではなく、実は千葉なんです」と観客を笑わせ、母親への思いをつづった『』、何気ない日々のなかでのパートナーへの愛情をさわやかに歌う『心の場所』と、かけがえなのない人たちへの思いが曲からあふれ出す。そして幼少期の幸福な時間をつづった新作アルバムからの『赤瓦の家』では、深みのある歌唱が郷愁を誘う。しっとりした歌い出しから最後にパワフルな歌唱へと変わっていく壮大な『ひとつしかない地球』、未発表曲『音楽の旅人』と続き、『いちまでぃん』では、途中、ある観客がドリンクのグラスを下に落として割るハプニングも。演奏を止め、「さすがにそのままいけないよね」と言ってフォローし、場内が和やかムードになる一幕も。

両親とのエピソードを交え、成底のデビューまでの軌跡を追った映像がスクリーンに投影されると、デビュー曲『ふるさとからの声』、そして「ぶつかってばかりの父と私を書いた物語。最初で最後の父へのラブレターです」という新作アルバムからの『』をじっくり聴かせた。

焼けつくようなてぃだ(沖縄方言で太陽)の強さ、島の地を覆う赤土の強さと八重山の子の生きる力をパワフルに歌いあげる『道標の詩』からライブも最終盤。デビュー以来、十年以上歌い続け、新作アルバムで自ら「挑戦」と語ったアコーステックバージョンでの『ダイナミック琉球』は、原曲自体がもつすばらしさがマイク一本の歌声で浮き彫りとなり、分厚いバンドサウンドがないことも忘れるほどの迫力に満ちた歌唱に魅入られる。

歌い続けることで皆さんに恩返ししたいと思います」と言って、最後に歌われたのは『音がえし』。今回のツアータイトルにもなったこの曲には、立って横揺れする観客の姿も。心を込めた歌唱であることが生歌でダイレクトに伝わってくる。

観客の拍手も鳴りやまぬなか、アンコール1曲目は『生まり島』。そして、この日最後の曲となったアンコール2曲目に。「この曲で、心の底から生きているって本当にすごいこと、奇跡であること、一人ひとり違っていても幸せに向かって生きていることを伝えたいです」と語り、再び『生きている歓び』を歌いあげ、ライブの幕が閉じた。

成底ゆう子の歌の世界を心ゆくまで堪能したいというように、目をつむりながら聴いている観客も多かった今回の「音がえし」ライブ。誰しも心当たりがあるような、葛藤や苦悩の果てにたどり着く故郷への思い、家族をはじめとする大切な人々との絆を、美しいメロディーと力強く、やわらかく、そして清らかな唯一無二のヴォーカルで表現する成底ゆう子。ミュージシャンとして「ケルティック島人(シマンチュ)」という新たなステップを目指す八重山が生んだ彼女の新作『島心~しまぐくる~』と、その活動に今後も注目だ。

セットリスト

M1 生きている歓び
M2 光と風の島
M3 おばあのお守り
M4 あやぱに
M5 真っ赤なデイゴの咲く小径
M6 秋色は満月の恋
M7 母
M8 心の場所
M9 赤瓦の家
M10 ひとつしかない地球
M11 音楽の旅人
M12 いちまでぃん
M13 ふるさとからの声
M14 父
M15 道標の詩
M16 ダイナミック琉球
M17 音がえし

EC1 生まり島
EC2 生きている歓び

成底ゆう子『生きている歓び』ミュージックビデオ

成底ゆう子『島心~しまぐくる~』

発売中

品番:KICX-1185
価格:¥2,200(税抜価格 ¥2,000)

【収録曲】

1.生きている歓び (作詩:鮎川めぐみ/作曲:成底ゆう子/編曲:山本健太)
2.光と風の島 (作詩:保岡直樹/作曲:成底ゆう子/編曲:山本健太)
3.音(おん)がえし (作詩・作曲:成底ゆう子/編曲:山本健太)
4.ダイナミック琉球(Acoustic version) (作詩:平田大一/作曲:生熊朗)
5.赤瓦の家 (作詩・作曲:成底ゆう子)
6.父 (作詩・作曲:成底ゆう子)
7.生きている歓び Instrumental
8.光と風の島 Instrumental
9.音(おん)がえし Instrumental

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