氷川きよしが難曲『悲しい酒』を披露した「虹の架け橋 まごころ募金コンサート」19組の歌手が美空ひばりさんの名曲を熱唱

2019.10.28

秋の恒例行事となった音楽事業者協会主催『虹の架け橋 まごころ募金コンサート』が10月17日、渋谷のNHKホールで行われた。このコンサートは2000年の夏に起こった三宅島大噴火の被災者支援をきっかけに開催されるようになり、今年で19回を数える。募金とともに「音楽を通して被災地のみなさまを元気づけ励ます」ことを目的としている。この趣旨に賛同し出演した歌手は、山田太郎、坂本冬美、伍代夏子、石原詢子、氷川きよし、山内惠介、新妻聖子、北島兄弟、森山愛子、秋元順子、松川未樹、入山アキ子、城南海、みちのく娘!、辰巳ゆうと、一条貫太、門松みゆき、二見颯一、彩青の19組・総勢22人。第10回から司会を担当する徳光和夫、藤原紀香の息の合った進行によって出演者たちの実力は引き出され、披露された全37曲はいずれも聴きごたえのあるものとなった。

 

なお、コンサート当日は関東から信越、東北地方に甚大な被害を及ぼした台風19号襲来の5日後。チャリティーへの意識が高い出演者たちは刻々と伝わる被災報道に心を痛めていたようで、開演前の囲み取材では台風で被災した方々のことを気遣うコメントが相次いだ。

口火を切ったのは最年長(71歳)にして初出場の山田太郎。

私は昭和40年に発表した『新聞少年』で歌手として認められました。あの曲がヒットしたのは、つらい日々を明るく歌って乗り切ろうとする歌詞が共感を呼んだからです。歌にはそんな“人を元気にする力”がある。私は歌手として一生懸命歌うことで、それに貢献できるのではないか、という思いで参加させていただきました。ここにいるみんなも同じ気持ちだと思います

坂本冬美、伍代夏子らからもそれに賛同するコメントが続き、氷川きよしが最後を締めた。

台風の被害に遭われた方々には心からお見舞い申し上げます。亡くなられた方のことなどの報道に接するたびに、ご家族のお気持ちを考えてしまい胸が痛くなります。でも、今の自分にできるのは歌をお届けすること。それでみなさんが少しでも元気になってくださったらいいな、お役に立てればいいなと思っております

コンサートはそんな歌手たちの温かい思いを乗せて始まった。オープニングは出演者全員で歌う美空ひばりさんの名曲『あの丘越えて』。元号が令和になって最初の開催ということもあって掲げられたテーマは「新しい時代へ! 歌い継ぐ日本の名曲」。歌い継ぐ名曲の象徴として特集されたのが没後30年を迎える美空ひばりさんの歌だからだ。

プログラムは、各歌手の新曲披露のコーナー(4~5曲)と「没後30年! 美空ひばりは永遠に」と題されテーマ別に分類されたひばりさんの名曲を各歌手が独唱あるいは数名で合唱するコーナー(4~6曲)が分けられており、これを交互に繰り返す形で進行されていく。観客はお目当ての歌手の新曲を聴きたい思いがある。と同時に歌唱力が問われるひばりさんの曲を出演者たちがどう歌いこなすかという興味もある。新曲で会場の空気を温めておいて、ひばりさんの曲をしみじみ味わう、こうした変化を織り交ぜて常に新鮮な気持ちで歌を楽しめるように、との構成だ。

幕開けの新曲披露コーナーのトップバッターを務めたのは山内惠介。選んだ曲は3月に発売された『唇スカーレット』で、その前奏が始まった途端、客席では無数のペンライトが振られ、「惠ちゃんコール」が飛び交った。この熱気を引き継いだのは坂本冬美『俺でいいのか』、北島兄弟『兄弟連歌』、石原詢子『通り雨』。圧倒的な歌唱力を持つ歌手の連続登場に会場は大いに盛り上がったが、演出は手を緩めない。続くひばりさんコーナーに登場したのは氷川きよし。名曲『みだれ髪』を氷川は切々と歌い、観客の心を鷲づかみにした。

氷川に続いて用意された曲は、伍代・石原による『車屋さん』、北山たけし・山内の『柔』、坂本による『リンゴ追分』で、観客は改めてひばりさんの曲のすばらしさと、それを見事に歌い上げる実力派歌手のすごさを思い知ることになる。

 

これに続いたのは若手歌手の新曲披露コーナー。辰巳ゆうとを筆頭にそれぞれ、大舞台をものともせずに丁寧に歌いあげ、会場を沸かせた。

 

その後は50代以上なら誰もが知る山田太郎『新聞少年』、それとは対照的な今風の元気が出る曲、みちのく娘!の『春ッコわらし』の激しいダンス込みの歌が続き、バラエティーに富んだ構成に観客は沸いたが、会場を感動に包んだのはやはりひばりさんの曲だった。

そのひとつが、新妻聖子と城南海のふたりが歌った『一本の鉛筆』。一般にはあまり知られていないが、原爆の悲惨さを語り平和を希求する歌で、それは災害被災者を思いやる気持ちに通じるものがあった。

 

そして、今コンサートで特に印象に残る時がやってくる。氷川きよしが『悲しい酒』を歌った約5分間だ。『悲しい酒』はひばりさんの歌のなかで最も歌うのが難しい曲といわれている。しかも伴奏は斉藤功氏のギターだけ。ごまかしは効かず、真の歌唱力が問われる。歌唱の前、氷川は司会の徳光との会話で「(この曲を歌わせてもらうことに)嬉しさもありますが、恐怖でもあります」と語っている。『悲しい酒』を歌謡曲ファンの前で歌うのは、とてつもなく重いことで大きなチャレンジでもあったのだ。

しかし、氷川はそれに果敢に挑み、『悲しい酒』の世界観を見事に表現した。NHKホールを埋めた観客は皆、氷川の歌に心を震わせ、涙する人もいたほどだ。この歌唱は「まごころ募金コンサート」の金字塔として長く語り継がれるに違いない。

コンサートの模様はNHKで放送!

■チャンネル
NHK-BSプレミアム
■放送日時
<90分版>
2019/11/3(日) 19:30〜20:59
2019/11/9(土) 12:00〜13:29 ※再放送
2019/11/15(金)16:30〜17:59 ※再放送
<120分版>
放送日未定

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