デビュー25周年の山内惠介が『北の断崖(きりぎし)』新装盤、 さらに椎名林檎とのコラボ曲『闇にご用心』をリリース! 「林檎さんとのモノづくりは、火花を散らしながら挑みました」

2025.8.1

デビュー25周年のメモリアルイヤーである山内惠介。全国各地で開催された25周年記念コンサートはもちろん、『紅の蝶』が「MUSIC AWARDS JAPAN2025」で初代の演歌・歌謡曲部門最優秀楽曲賞を受賞、そして自身初の企画展が開催されるなど、まさに記念の年にふさわしい充実のときが続いている。6月にはデビュー25周年記念曲『北の断崖』(作詞:麻こよみ、作曲:水森英夫、編曲:竹内弘一)の新装盤をカップリング曲が異なる3タイプ(愛盤、酒盤、七夕盤)で発売、さらに高校の先輩でもある椎名林檎が楽曲提供(作詞・作編曲)した『闇にご用心』(管編曲:村田陽一)を配信限定でリリース。『闇にご用心』は、「水木しげる没後10年 ゲゲゲの鬼太郎 私の愛した歴代ゲゲゲ」(フジテレビほか)のエンディング曲でもあり、大きな注目を集めている。新装盤に収録された『北の断崖』の各カップリング曲について、異色のコラボが実現し、歌い手としての新たな地平を切り開いた『闇にご用心』について聞いた。


時間を止めたくなるような濃密で楽しい半年間

――デビュー25周年を迎え、ここまで素晴らしいアニバーサリーイヤーを過ごされているように見えますが、ご自身ではこの期間をどのように感じて過ごされているのでしょう。

前半期が終わりまして、とてもいい6カ月間でした。でもそれは、アッという間ではなく、時間がゆっくり流れていく、とても濃密な時間でしたね。新曲『北の断崖』をリリースして、そのなかでツアーが始まり、さらに『闇にご用心』のレコーディングにも取り組むというのは、大変でしたけど、すごく楽しくできたなと思っています。

――楽しい時間が長く感じられるという言葉に、充実ぶりがうかがえますね。

流せない(性分)ですから。「このぐらいでいいだろう」というふうにはできないので、「もっともっと」と欲が出る。そうすると時間を止めたくなるような気持ちになるんですよね。

詞の行間の余白を埋める感情表現

――『北の断崖』をこの半年間歌い込まれてきて、新たに気づいたことなどはありますか?

やはり恩師の水森先生は、僕のことをよくお分かりだと感じています。山内惠介の声のよさを引き出すために、こういうふうにやらせたら、もっと表現に幅や深みが出るということが一曲のなかに込められていて、さすが水森先生だと実感します。だから僕はとにかく健康に気を付けて、いつでもいい歌を歌えるように体調を整えておけば、この曲はもっともっとよくなっていくと思っています。

――前回の2月のインタビューで、シンプルな4行詞だからこその難しさがあるとおっしゃっていましたが、この曲の世界観を歌で構築していくうえで、大切にしていることは何でしょう。

聴いてくださる方の想像力をいかに掻き立てられるかということですね。それができれば、「いい歌だ」と言ってもらえる――そんな作品です。シチュエーションをお届けする作品なので、僕も「見下ろす断崖」を思い浮かべながら、客席に向かって絵を描いていくイメージで歌っています。「潮風(かぜ)の痛さに また泣ける」というところからは自分の心に問いかけるように、そして最後の「命を捨てる 意地もない」で一気に気持ちを解放させる。4行詞なのに、出たり入ったりが大変で、常に緊張感を保ちながら歌っています。

――以前、4行詞だけに行間の余白を歌で埋めていくと発言されていたことが印象的でした。

演奏家の皆さんのサウンドにも、感情が乗っていますから、僕もその音を聴きながら、歌はもちろん、ブレスの入れ方や表情など、歌っていなくても哀しみや嬉しさなど感情を入れていくんです。たとえばテレビで歌うときは表情を強く意識し、ラジオで歌うときはブレスで感情を表現していくとか。毎回歌うたびに気を抜くところが一切ないんですよね。難しいことを自分に課していくのですが、そこには迷いもあれば、行き詰ることもあります。1年間の長いスパンのなかで、その壁を超えていく作業が大事だと考えています。そんなふうに考えるようになったのは、ここ数年のことですね。焦らずにドシッと構えなければダメで、お客様の「心」に「歌が届いているか」という自問自答の繰り返しです。心に届けていくことを常に意識しないと、歌が流されてしまい、何も残らなくなってしまうので。

――自分の身体も心もフルに使って表現していく作業を日々され続けているのですね。

ただ苦しいだけではなく、逆にそれがないと生きていけないんですよね。やっぱりアウトプットだけではなくインプットが大切で、空いている時間にさまざまな材料を仕入れて、改めて自分で稽古してみたりもします。同じ歌でも新しい歌として新鮮味を保つことが大事で、変にこなれた感じで「もう何年も歌っているんでしょ」っていうふうになってしまったら、聴いてくださる方もそこで終わってしまう気がします。お客様にも常にドキドキを感じて、新鮮な出来立てほやほやを召し上がっていただきたいんです。

――同じ曲でも少しずつ進化していき、リリース直後と1年後では、歌にも違いが表れてくるのですね。

自分でも楽しみですね。自然に味が出てくるというか。それが長く歌うことのよさですね。やがてその歌が独り歩きしていきますから。

心で歌うから自分を真っ白に保っておきたい

――新装盤のカップリング曲は、すべて師の水森先生が作曲した作品ですが、それぞれ異なる味わいの楽曲で演歌の幅の広さを感じました。愛盤の『あなたがいなければ』の作詞は、いしわたり淳治さん。いしわたりさんの作品は3作目となりますが、どのような作品と捉えられていますか?

1~3番まで「もしもあなたがいなければ」という共通した歌い出しなのですが、以前から「もしも」という言葉から始まる曲を歌ってみたいと思っていたんです。『もしもピアノが弾けたなら』をはじめ、「もしも」と歌う名曲はたくさんありますが、僕自身も含め人は「もしもこうだったら……」と想像することが好きなのだなと思っていまして。「もしも」の裏に抱く願いや夢、それに「出会うべくして 出会ったあなた」というフレーズに象徴されるよう、お客様との出会いに対する僕の思いもこの歌で届けられればと思っています。

――いしわたりさんとは今回、どのようなお話をされたのでしょう。

いしわたり先生とはこの「もしも」についての話をしましたが、そのとき先生が「いつか自分の作品で山内惠介の紅白曲をつくりたいな」とひと言おっしゃったことが印象的でした。松井五郎先生もそうなのですが、あれだけの先生方が変わらぬハングリー精神をお持ちであることには、尊敬しかありません。

――『闇にご用心』の椎名林檎さんも含め、名だたるロック/ポップス分野の作家が作品提供したいと思わせる何かが山内さんにあると思うのですが、ご自身ではどうお感じですか?

スタッフの方たちがつくってくださった出会いに尽きます。また、素晴らしい作品でも最終的に自分が表現できなければ、次はないわけです。そのためにも何かに染まることなく、常に真っ白でいたいなと思っています。デビューして25年も経つと、どこか汚れてしまったり、斜に構えたりすることもありがちですよね。でも、そうならないように、どのような情報にも流されることなく、何が真実なのか自分で見定めなくてはいけないと思っています。やっぱり心で歌うわけですから、常にクリーンな気持ちでいるように。でも心は目に見えませんので、心身とも健康でいるためにどうしたらいいか――常に元気でいることをよく考えるようになりました。元気といっても空元気ではなくて、“元(もと)の気に戻る”ということ。若い頃は無理やりテンションをあげることもありましたが、それはもういいかなと。一見周囲から暗く見えるような場合でも、「いや、元気ですよ!」とちゃんと自信をもって言える自分であればいいと思うんですよね。すると、元の気に戻るために毎日何をすればいいか見えてくるようになりました。たまに羽目を外すこともありますが、仕事に穴を開けることはできませんし、自分が元気でさえいれば、幕が上がることは、この25年でよく分かりましたから。もちろん周囲の支えがあることにも感謝しかありません。

――『酒盤』のカップリング曲『沁みる酒』は麻こよみ先生作詞。つま弾かれるギターの音色が郷愁を誘います。近年の演歌・歌謡曲はアップテンポの曲や多彩なメロディーをもつ曲も多いですが、その対極のようなしんみりとした作品で、この曲も歌い手の表現力が問われるのではないでしょうか。

この曲はイントロから「悲しい歌です」ということが分かるようにつくられています。切ないからといって、表情なども含め、つくり込み過ぎると、もう聴き手に入ってこなくなると思うんです。だからうまく歌おうとしないことを心がけていますね。

――どういうことでしょう?

完成度を上げ過ぎると、曲の世界に入ってこられないというか。「聴いている方を置いてきぼりで、あなただけ浸っていますね。気持ちいいでしょ」で終わっちゃう。そうならないように、うまく歌おうするのではなく、言葉を置いていく感じです。歌の完成度より生身の人間を感じさせることが大切だと感じています。いくらうまくても、人間らしさが出ていない歌は死んでいるんです。また、2000人を前に歌っていたとしても、「自分だけに歌ってくれているんじゃないか」と思わせるような距離感が求められる歌だと思います。

――七夕盤のカップリング曲『濡れた笹の葉』の作詞は、『風蓮湖』などでもおなじみの鈴木紀代先生。七夕がモチーフなので女歌かと思いきや男歌なのがユニークですね。

鈴木先生には『風蓮湖』『釧路空港』などの僕の代表作をいただきました。先生の作品の登場人物は、これまでずっと「君」と「僕」だったのですが、本作で「おまえ」と「俺」になったんです。僕もやっと大人になれたということですね。僕はこの曲がとっても好きです。ワルツで、詞もきれいです。情緒があって、日本の七夕の風習もきちんと詞に描き込まれています。このような作品が売れる世の中は、きっと平和だと思います。大切な夏の歌になりそうです。

『闇にご用心』は自分自身を歌う感覚

――『闇にご用心』は、椎名林檎さんとレコーディングで綿密にやり取りされたことを明かされています。椎名さんもリリースに際して「こんな難曲」とコメントされていますが、この曲を表現するうえでもっともチャレンジしがいがあったのは、どのようなことでしょう?

僕はあまり歌で唸ること、いわゆるちょっと声を潰すようなことをやらないんですよね。今回それを表現できたことは、まず新しい自分ですよね。林檎さんは個性の塊のような歌い方、声色です。山内惠介の歌にしたいから、あえてすべてを林檎さんのお手本どおりには歌わないことを意識してレコーディングに臨みました。それは林檎さんとのモノづくりするなかでの一種の戦いというか、お互い火花を散らしながら挑みました。嬉しかったのは、冒頭の「夜目遠目笠の内…」と中盤の「野次馬根性火の粉が降るぞ~」のパートで、林檎さんがすぐにOKを出してくれたことです。僕はこの曲に対して「歌えるとその先に自由が待っています。ただし、自由を履き違えると一寸先は闇。」とコメントを発表させていただきましたが、今回林檎さんから人生においても「闇にご用心」という、とてもいい言葉をいただいたと思っています。曲全体を通して、林檎さんが僕にメッセージを送ってくださったのだと受け止めています。プライベートでの自分の行動も見直し、夢を持っていただけるような姿であるのかなど、常に気を付けて生活しなきゃいけないと心に銘じました。

――椎名さんと曲づくりを通して心の格闘があったということが興味深いです。

歌い手同士は、歌い合うことや曲づくりをすることが何より会話になるんです。一緒に曲をつくっていくことでお互いの人格が見えてきて、心のキャッチボールができるようになります。

――譜面では声を伸ばして歌うところを、作者自身である椎名さんからの提案であえて切って余韻を聴かせる手法など、歌い手として新たな体験をたくさんされたようですね。

お聴きになった方が、これをあえてやっているんだと思わせることができれば、それも一つの表現になります。声は消えているけど、余韻で気持ちは伸ばしていることが分かれば、引っかかるポイントになりますよね。

――ジャジーでソリッドなサウンドに山内さんが言葉を歌でのせていくなかで、確かに引っかかるポイントが随所に散りばめられていて、何度も繰り返し聴きたくなります。

それが林檎さんの世界ですよね。聴き手のことを考えていらっしゃる。本能で歌っているように聴こえながらも、ものすごく考えてつくられているんです。

――「ゲゲゲの鬼太郎」のエンディング曲でもありますが、魑魅魍魎が蠢く水木しげる先生の作品世界のイメージも意識されて歌っているのでしょうか。

何者でもない自分になるという感覚です。この歌詞にしても、男なのか女なのかも分からなくて、性別を超越しているわけです。演歌の場合、曲によって男になったり、女になったりしますが、それは自分とは違う何者かです。でも『闇にご用心』に書いてあるような詞は、逆に自分を浮き彫りにしてくれる。「実は山内惠介ってこういう性格なんだけど」というような。

――自分自身を歌っているような感覚に。

そうなりますね。無いものは出せませんから、このような曲に挑むまでに、25年、四半世紀という時間があってよかったと思います。

美空ひばりさんはジャズのノリ

――バンドも椎名さんにゆかりのあるジャズの凄腕ミュージシャンが揃っていますが、サウンドに関してはいかがでしたか?

刻んだことのないリズムでした。演歌は刻み方が定型としてほぼ決まっているんですが、ジャズは後ノリで、こちらのほうが音楽としては楽しいんですよね。だから歌がだいぶ変わってきます。このリズムを意識して、どんな歌でも歌うようになりました。そうすると、速い曲でも歌が走ることなく、じっくり刻めるようになっていけると思います。これまでも無意識には感じていたのでしょうが、『闇にご用心』と出会って、特に意識しだしました。それに美空ひばりさんは、ジャズのノリなんですよね。

――『闇にご用心』に取り組んだことで、ボーカリストとして幅が広がった感覚があるのでしょうか。

広がりましたね。ジャズは歌の中に自由度があるので、歌謡界の先輩方も楽しみながら音楽をつくられていますよね。たとえば由紀さおりさんは、アレンジを変えて曲に新たな息吹を吹き込んでいらっしゃいます。八代亜紀さんもジャズに取り組まれていました。自分もゆくゆくはブルーノートのステージに立ってみたいという新たな目標ができました。

――演歌・歌謡曲を核として大切にしながらも、歌い手として音楽ジャンルを超えていくような活動も期待できそうですね。

林檎さんが椎名林檎というジャンルであるように、いつか山内惠介も山内惠介というジャンルを確立できるようになりたいですね。

――海外の音楽市場を意識した第1回の「MUSIC AWARDS JAPAN2025」で、『紅の蝶』が演歌・歌謡曲部門最優秀楽曲賞に輝きました。

17歳から演歌を歌ってきて、僕の根底には演歌・歌謡曲が流れています。『こころ万華鏡』『紅の蝶』と、クラシックの村松崇継先生がつくられた曲を、演歌・歌謡曲の自分流に表現したことが認められたと考えています。料理でも和食のコースに洋食のビーフシチューがちょっと入っていたりすると嬉しいですよね。口が肥えるのと同様に、皆さんの耳も昔より肥えているはずで、和洋折衷で「もっとおいしい音楽を」と目指したことが、このような賞をいただける結果となってよかったです。

――最後にうたびと読者にメッセージをお願いします。

僕は歌を愛することは幸せへの近道と思っています。ときに苦しみを解き放ち、癒しともなる、本当に魔法なんです。僕も信じるもの=歌があったから、こうして今まで生きてこられ、25周年も迎えることができました。歌を愛してくださっている皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。

山内惠介 『北の断崖』ミュージックビデオ

山内惠介 『北の断崖』(愛盤・酒盤・七夕盤)

発売中

山内惠介「北の断崖」愛盤

愛盤

品番:VICL-37773
価格:¥1,500(税込)

【収録曲】

1.北の断崖(作詞:麻こよみ/作曲:水森英夫/編曲:竹内弘一)
2.あなたがいなければ(作詞:いしわたり淳治/作曲:水森英夫/編曲:竹内弘一)
3.北の断崖(オリジナル・カラオケ)
4.あなたがいなければ(オリジナル・カラオケ)

山内惠介「北の断崖」酒盤

酒盤

品番:VICL-37774
価格:¥1,500(税込)

【収録曲】

1.北の断崖(作詞:麻こよみ/作曲:水森英夫/編曲:竹内弘一)
2.沁みる酒(作詞:麻こよみ/作曲:水森英夫/編曲:伊戸のりお)
3.北の断崖(オリジナル・カラオケ)
4.沁みる酒(オリジナル・カラオケ)

山内惠介「北の断崖」七夕盤

七夕盤

品番:VICL-37775
価格:¥1,500(税込)

【収録曲】

1.北の断崖(作詞:麻こよみ/作曲:水森英夫/編曲:竹内弘一)
2.濡れた笹の葉(作詞:鈴木紀代/作曲:水森英夫/編曲:竹内弘一)
3.北の断崖(オリジナル・カラオケ)
4.濡れた笹の葉(オリジナル・カラオケ)

山内惠介Digital Single『闇にご用心』

山内惠介「闇にご用心」

配信中

【配信曲目】

1.闇にご用心(作詞・作編曲:椎名林檎/管編曲:村田陽一)

drums 石若駿
wood bass 鳥越啓介
guitar, electric sitar 名越由貴夫
piano 伊澤一葉
alto flute 坂本圭
clarinet 中ヒデヒト
bass clarinet 有馬理絵
trumpet 西村浩二
trombone 村田陽一
tenor sax 山本拓夫
recording & mixing engineer 井上うに

<あわせて読みたい>

MUSIC AWARDS JAPAN 2025 演歌・歌謡曲LIVE[最優秀 演歌・歌謡曲 楽曲賞 授賞式]レポート【後編】 授賞式・豪華ステージの模様をお届け!
山内惠介、デビュー25周年記念曲『北の断崖』新装盤3タイプを6月11日に発売決定! カップリングに感謝と絆をテーマにした楽曲を収録
山内惠介が東京・有楽町でデビュー25周年特別企画展、取材会を開催! ファンとスタッフに感謝述べ「演歌で築いたボーカルをいろんな曲で試したい」と意欲
山内惠介がデビュー25周年記念シングル『北の断崖(きりぎし)』をリリース 「短いけれどドラマチック。一曲入魂という言葉がふさわしい作品です」

関連キーワード