愛すべき「トンチキ」の世界~ヒャダインの歌謡曲のススメ#3

2020.10.27

歌手としての活動だけでなく、前山田健一名義では、ももいろクローバー、AKB48といったアイドルから、SMAP、郷ひろみなどのビッグアーティスト、さらに、はやぶさへアニソンを楽曲提供するなど、ジャンルに一切とらわれない幅広い音楽活動を展開するヒャダイン。

そんな彼が心から愛する往年の名曲やいま注目の歌手など、歌謡曲の魅力を徹底考察する連載。
第3回目のテーマは、先日の関ジャムでも話題になった「トンチキソング」?!


先日テレビ朝日系列「関ジャム」のジャニーズ特集にて私、ジャニーズのトンチキソングをいくつかご紹介させていただき反響も少なからずいただきました。
自分が出演したもので反響があると嬉しいですね。

さて。
「トンチキソング」とはなにか、を説明させていただきます。
まずはっきりさせておきたいのが所謂「コミックソング」ではない、ということです。
コミックソングはそもそもの制作意図として、「コミカルなものを作ろう!」という動機がありますが、トンチキソングはそうではなく「わけがわからないんだけど制作陣や歌手が本気、真剣に取り組んでいる楽曲」とでも定義しましょうか。
決して笑かそうとしていないんですね。

文字だけではわかりにくいので具体的な曲名を出していきましょう。
昭和はコミックソング、トンチキソングの宝庫ですからね。

笑わせる気満々で、実際笑っちゃうのが「コミックソング」

まずコミックソング。
草分け的な存在としてザ・フォーク・クルセダーズ『帰ってきたヨッパライ』は外せないでしょう!
飲酒運転で死亡した主人公が、天国でも浮かれて遊んで神様から天国を追い出されるというコメディを、なんとテープを高速回転させた甲高い声と演奏で届けるという徹底ぶり!めちゃくちゃ斬新ですよね。
神様の声だけは通常録音された声だし、主人公はなまっているし、サウンドはちょっとハワイアンっぽいし。
最後お経流れるし。

笑わせる気満々です。実際おもしろいし。
言ってみればコントですよね、この曲は。

その文脈で考えると、ザ・ドリフターズの楽曲群はすべてコミックソングと言えるでしょう。
お笑い目的で作られているものですからね。
中でも私が好きなのは『ドリフの早口言葉』です。
もちろんコミックソングなのですが、たかしまあきひこ氏によるファンキーなバックトラックはとてもかっこよく、カウントをするいかりや長介氏のボーカルにはジェームス・ブラウンの面影すら感じます。

他に挙げるとイモ欽トリオ『ハイスクールララバイ』もコミックソングでしょう。
当時大人気だった「たのきんトリオ」のパロディとして萩本欽一氏の元で登場したイモ欽トリオ。その存在そのものがコメディです。
楽曲も大ヒットしましたが、なんと松本隆・細野晴臣の豪華コンビによるしっかりとしたテクノ歌謡です。
前奏の振り付けや長江健次氏のチャーミングな歌声も印象的でした。

わけがわからないんだけど全員本気!の「トンチキソング」

さて、一方の「トンチキソング」ですが、笑わせようという意図がない、という部分がコミックソングとの最大の相違点であることをぜひ念頭に入れて読んでいただきたいです。

ジャニーズでわかりやすい例を挙げるとしたら、シブがき隊『スシ食いねェ!』はコミックソングですが、少年隊『デカメロン伝説』はトンチキソングです。
この曲、イントロから錦織一清氏ワカチコ!!という謎の言葉から始まり、イントロのメロディを子供と少年隊が音階でなぞるという謎展開。
そして一曲聴いてもなんのことだか全くわからない『デカメロン伝説』の伝説。
おもしろいし笑っちゃうんだけど、制作陣は笑わせることを第一目的として制作していない(と思っています)。
『スシ食いねェ!』の方は、ひたすら寿司ネタをラップしていくというおもしろソング。コミカルな意図が見えてきます。

といった具合にコミックソングとトンチキソングの違いをわかっていただけたところで、トンチキを更に振り返ってみましょう。

楽曲はもちろん存在そのものがトンチキだったのがやはりピンク・レディーでしょう。
サウスポーの女投手だったり、ペッパー警部に追われる若者だったり、カルメンと呼ばれる女性だったり、もうわけがわからない!!
でもピンク・レディーの二人はあたかも「え?なにか変ですか?」と言わんばかりの顔で激しく踊り歌うんです。
この世界についていけないこちらの方が悪いかのような世界線に連れて行ってくれます。
他にもアイドル曲はトンチキが多く小泉今日子さん『渚のはいから人魚』沖田浩之さん『E気持』近藤真彦さん『ギンギラギンにさりげなく』など枚挙に暇がないですね。

以上を読んで「え、ヒャダイン?これらの曲の何が変なの?」て思う方もいらっしゃるかもしれません。
それもトンチキソングの1つの特徴で「何が変なのかわからなくなる」という “慣れ” が発生するんです。
「モーニング娘。」という名前にもいつの間にか慣れたし、TRFが1ボーカル3ダンサー1DJというスタイルなことにも慣れる。

そう。トンチキは慣れてくるんですね。トンチキのパラダイムシフト。価値観が上書きされていくわけです。
人々がトンチキソングに惹かれる理由の1つとしてこの価値観の上書きが楽しい、自分の価値観が簡単に変わるのが小気味いい、といった側面もあるのではないでしょうか。

演歌・歌謡×〇〇で生まれる見たことのない世界線

さて、トンチキは演歌との相性も良く、近年での筆頭トンチキはやはり氷川きよしさんでしょう。
王子様のようなルックス、甘いマスク、確かな歌唱力というハイスペックなシンガーから繰り出されるのが「ズン、ズン、ズン、ズンドコ!(きよしー!)」ですからね。
わけがわからない!!(まあズンドコ節は昔コミックソング扱いされていた曲ではありますが。)

しかし、そこに何の違和感も感じずファンのお嬢様はキャーと叫ぶわけです。
本当に素晴らしいトンチキの継承者だといつも見させてもらっています。
更に最近の氷川きよしさんはもう一つ次元が上昇、麗しい姿で激しいロックを歌うという限界突破っぷりを魅せてくださいます。

そんな氷川きよしさんの後輩にあたる演歌デュオ「はやぶさ」もトンチキの括りに入ると考えます。
はやぶさは2012年にデビューしたヒカルヤマトの二人組です。
私が初めてはやぶさを観たのは、自分がMCを務めるNHKの「ワンセグふぁんみ」にゲスト出演してもらった時です。

 

歌謡曲を不思議な振り付けで踊るはやぶさに「ヒカルちゃーん」「ヤマちゃーん」と聞いたことのないような甲高い声で歓声を送るファンのお嬢様たち。
本当に異様でまさにトンチキ。釘付けになりました。
身長が150センチ台のマスコット体型でこぶしの効いた演歌・浪曲テイストの歌声を聴かせるヒカルと、すらっとしたスタイルで年齢にそぐわぬ低音ダンディヴォイスでムード歌謡歌唱で歌うヤマト。
個性と個性のぶつかり合いで一体感がないのが逆にいい!なんだこの組み合わせ。

その後ご縁があって楽曲を提供させていただくことになったのですが、それがまさかのアニメソング!
少年向けアニメ「デュエル・マスターズ!」シリーズのオープニングを担当させてもらうことになりました。
少年向けアニメと演歌・浪曲・ムード歌謡。
アニメ制作サイドはどんな曲がご所望なのだろうと会議に臨んだら、「勇気あふれるこれぞアニソン!という曲」というまさかの“ど・ストレート”
なので僕もサウンドはストレートなアニソンを作りましたが、そこに乗っかる歌がまあ異質。
こぶしやしゃくりを多様してわざとらしいくらいに演歌・浪曲歌唱
その違和感が楽しくて自信を持って作品を仕上げたのですが、アニメを観る層はどう思うんだろう?とオンエア後の反応を見ると、好意的なものばかり!
やはり日本人のトンチキへの受容性はえげつないと再確認しました。
この歌唱法とサウンドとのギャップがウケたようです。

その後、何度も同シリーズの主題歌を担当させていただくことになり手応えを感じました。
もちろんはやぶさは、アニソンのみならずオーセンティックな歌謡曲も歌いこなしますし、カバーアルバムでは昭和の名曲を鮮やかに歌いこなしています。
ヒカルもヤマトも昭和歌謡への理解が深く、僕よりも詳しくてびっくりすることが多々あります。
そんな若者が昭和の文化である「トンチキ」を継承してくれているのは非常に心強くもあります。

前山田健一(ヒャダイン)氏サウンドプロデュースの最新曲「キンキラKING!」

令和の世になっても形を変えて受け継がれるトンチキソング。
これを機に皆さんも意識的に触れ合ってみてはいかがでしょうか?

 

PROFILE


ヒャダイン

音楽クリエイター 本名:前山田 健一。
1980年大阪府生まれ。 3歳の時にピアノを始め、音楽キャリアをスタート。作詞・作曲・編曲を独学で身につける。 京都大学を卒業後2007年に本格的な音楽活動を開始。動画投稿サイトへ匿名のヒャダインとしてアップした楽曲が話題になり屈指の再生数とミリオン動画数を記録。
一方、本名での作家活動でも提供曲が2作連続でオリコンチャート1位を獲得。2010年にヒャダイン=前山田健一である事を公表。アイドル、J-POPからアニメソング、ゲーム音楽など多方面への楽曲提供を精力的に行い、自身もアーティスト、タレントとして活動。テレビ朝日系列「musicるTV」、フジテレビ系列「久保みねヒャダこじらせナイト」、BS朝日「サウナを愛でたい」が放送中。YouTube公式チャンネルでの対談コンテンツも好評。

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