違和感たっぷりのムード歌謡、そして令和の担い手?!「純烈」~ヒャダインの歌謡曲のススメ#2

2020.9.7

歌手としての活動だけでなく、前山田健一名義では、ももいろクローバー、AKB48といったアイドルから、SMAP、郷ひろみなどのビッグアーティスト、さらに、はやぶさへアニソンを楽曲提供するなど、ジャンルに一切とらわれない幅広い音楽活動を展開するヒャダイン。

そんな彼が心から愛する往年の名曲やいま注目の歌手など、歌謡曲の魅力を徹底考察する連載。
第2回目のテーマは「ムード歌謡」!


ムード歌謡。
昭和をデフォルメする際の記号としてとても使いやすい音楽ではないでしょうか。
スローなテンポにマイナーキー、ギターのスライド奏法の上に乗るのは湿っぽい歌詞とボーカル。メインボーカルがいて、コーラスが一本マイクで「ワワワー」と歌う姿はCMやコントでもよく見たものです。

今回ムード歌謡について考えてみようと思うのですが、正直、変ですよね、このジャンル。
違和感が満載です。
日本ならではの音楽なんだけど和楽器が入っているわけでもなく、それどころかハワイアン音楽の要素が。

さらに夜の街を舞台にした世界観の歌詞を、かなりクセのある「しゃくり」やビブラートのテクニックでボーカルが歌い上げる。
世界的に見てもこんな楽曲が流行ったのは日本だけですよ。
主に流行したのが1960年代。僕は1980年生まれなので完全に後追いなのですが、好きなんですよ、ムード歌謡。

なので今回は僕が好きなムード歌謡の曲を挙げながら分析、さらに令和のムード歌謡の担い手「純烈」についても考察していきます。

強烈な“艶”を放つハスキーボーカル


まず青江三奈さんの「池袋の夜」。
これは強烈だ!

ムード歌謡の特徴として“地名が入る”“夜の街を描く”“恋”とあると思うのですが、全部クリアです。
イントロからリバーブたっぷりのスライドギター、そしてストリングス。Aメロはもはや浪曲なんですよね。拳の回し方やビブラートが浪曲。
それをハスキーな青江三奈さんがちょっと音符から後ろノリ(以下・レイドバックと表現します。)で歌うと、なぜかしら情感たっぷりになるんですよね。
サビの「夜の池袋~♪」の【よ】の発声は本当に見事。
当時28歳の青江三奈さん。何をどう経験すればあの発声になるんでしょうね。

さらに青江三奈さんといえば「伊勢佐木町ブルース」
印象的なストリングスのフレーズを受けるようにさらに印象的な青江さんの喘ぎ声。
サビのスキャットのレイドバックよ!
デュデュブデュビデュビデュビデュワー!!
こんなのボーカルディレクションでどうにかなるもんではないでしょう。
当時のレコーディングは楽器と“せーの”で一発録音だったと聞きます。表現はアレですが楽器隊の演奏とセックスをしているような艶っぽさは、今のミュージシャンでは残念ですが表現できないなあと思ってしまいます。

しかもこのタイトルも最高ですよね!「ブルース」。
アメリカ発祥の黒人哀歌で12小節単位のループで作られる音楽なんですが、そう!
ムード歌謡における「ブルース」は全くブルースではないんですよね!
ループもしていなければアメリカっぽさもない。クレイジージャパニーズ。

で。今回ムード歌謡を語る上でのキーワードが”違和感”だと思っています。
ハワイアンなのに浪曲だったり、ブルース進行を全く使わないのにブルースだったり、違和感がたっぷりなわけです。

ねっとりボーカルと5声コーラスの独特な歌唱法

次に内山田洋とクール・ファイブ「長崎は今日も雨だった」
こちらも“地名”、“夜”、“恋”、全てクリアしていますよね。
勘違いされやすいことですがメインボーカルは前川清さんです。内山田洋さんはリーダーですね。
前川さんのビブラート強め、しゃくり、レイドバックな歌声の伴奏は、6/8拍子のミディアムテンポのストリングスとギター中心のトラックです。結構軽やかなトラックなんですが上に乗るボーカルがねっとり重めなんですよね。まずそこに違和感。

そして歌唱法もいいですよね。前川清さんが一人マイクを持って棒立ちでメインボーカルを歌っている遠くで、5人が一本マイクでコーラスをするという。
余談なんですが、昨年私がプロデュースした山崎育三郎さんのアルバム収録「君といつまでも」加山雄三さんの楽曲をムード歌謡にアレンジしたものなのですが、そのレコーディングの際プロのコーラスの方3人に来ていただきました。
すると、普通は1人1本マイクで録るところを「俺たちこれがいいから」と、1本マイクを囲んでコーラスを歌うんです。三声コーラスなのでかなり難しいのですが、「ここはちょっと俺が離れたほうがいいね」とか、「ここは近づくわ」とか、所謂“マイキング”と呼ばれるテクニックを使ってキレイなハモリをご披露いただきました。
このテクニックはクールファイブマヒナスターズから連綿と続くものなのでしょうね。

話を戻します。
内山田洋とクール・ファイブは、先程の青江三奈さんと同じく「ブルース」を量産しています。「中の島ブルース」「西海ブルース」などなど。これも先程と同じく本場のブルースのかけらも入っていないあたりが最高です。

違和感こそが“ムード歌謡”

まだまだありますがこれくらいにしておきましょう。

ここまででムード歌謡には”違和感”が重要だという僕の説はわかっていただけたでしょうか。
“素晴らしいミュージシャンたちが最大のテクニックをもって、ふざけず茶化さず真面目に違和感のあることをやる”という、このスピリットこそがムード歌謡の真髄ではないでしょうか。
そこの違和感だけがフィーチャーされると「奇抜なもの」となり、冒頭に書いたような昭和をデフォルメする記号として時に揶揄される存在になってしまったのでしょう。

あえての違和感で“新化”する純烈

ここで令和にムード歌謡を復活させて「新化」させたと言われる純烈を取り上げてみましょう。
純烈は4人組、メインボーカル1人、コーラス3人という構成です。

楽曲は“地名”、“夜”、“恋”を扱った当時のムード歌謡の完コピのような作品もありますが、支持されている「プロポーズ」「愛をください〜Don’t’ you cry」は、ムード歌謡というか80年代歌謡曲といったほうが親しいかもしれません。
「純烈のハッピーバースデー」にいたってはサウンド的にはラテン音楽のルンバです。従来のムード歌謡のハワイアン要素はあまり見当たりません(南国音楽という部分では共通点があるかもしれませんが)。

しかし、僕はそれこそが純烈の「新化」させたムード歌謡なのだと考えています。 1960年代のムード歌謡をまんまトレースして新曲として発表することは可能ですし、そっちのほうがまあ楽でしょう。
しかしそれは所詮トレース。「ムード歌謡のパロディ」の域から超えるのは難しい。
ただでさえデフォルメされた昭和の記号なわけですから、お笑い要素がかなり強くなります。
(純烈の皆さんは意図的にそれをやっている時もありますが!)

ここで皆さんに思い出していただきたい。ムード歌謡の真髄はなにか、を。
そう。違和感なんです!
違和感。

「僕たち、ムード歌謡グループです!」と言って、そのまんまのムード歌謡を歌う人たちに何の違和感がありますか?
「そのまんまじゃないか、ふーん」となったらそれは既にムード歌謡ではないんですね。
音楽的な制約にとらわれず、情感たっぷりの歌詞を湿っぽいボーカルで歌うのが平均身長185センチのイケメン4人組で苦労人という違和感こそが、純烈の「新化」させたムード歌謡なのでしょう。

“違和感”という点で純烈を改めて考えると、本当に変なグループですよね。
元力士、元戦隊ヒーローたちが令和の世で歌謡曲を歌い、しかしクールファイブやマヒナスターズと違いバッチリ振り付けを踊り、しかしスーパー銭湯や温浴施設の宴会場で“ゼロ距離”で会えるという。

前例がなさすぎる。

しかもデカイし。

今冗談っぽく言いましたが、ご年配の女性を虜にする要素として「デカイ」は結構重要な気がしています。
ムード歌謡といえば石原裕次郎さん、流し目の色男・杉良太郎さん、ご年配を少女にさせたスター氷川きよしさん、さらにはご年配を熱狂させたペ・ヨンジュンさん、皆さん約180cmなんですね。
身長が色っぽさに直結するとは思いませんが、やはり高身長から醸し出されるスター感は特にご年配の皆さんにはわかりやすい指標のようなものであるのかもしれませんね。

苦労に苦労を重ねてついにお茶の間のスターになった純烈の皆さんですが、このまま「一般的」なものに集約されていくのではなく、違和感満載の「新化」させたムード歌謡を魅せていってもらいたいです!

 


※「長崎は今日も雨だった」だったは前川清のソロバージョン。

PROFILE


ヒャダイン

音楽クリエイター 本名:前山田 健一。
1980年大阪府生まれ。 3歳の時にピアノを始め、音楽キャリアをスタート。作詞・作曲・編曲を独学で身につける。 京都大学を卒業後2007年に本格的な音楽活動を開始。動画投稿サイトへ匿名のヒャダインとしてアップした楽曲が話題になり屈指の再生数とミリオン動画数を記録。
一方、本名での作家活動でも提供曲が2作連続でオリコンチャート1位を獲得。2010年にヒャダイン=前山田健一である事を公表。アイドル、J-POPからアニメソング、ゲーム音楽など多方面への楽曲提供を精力的に行い、自身もアーティスト、タレントとして活動。テレビ朝日系列「musicるTV」、フジテレビ系列「久保みねヒャダこじらせナイト」、BS朝日「サウナを愛でたい」が放送中。YouTube公式チャンネルでの対談コンテンツも好評。

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