海外から見た「演歌」の特異性とは。~ヒャダインの歌謡曲のススメ#10

2021.5.26

歌手としての活動だけでなく、前山田健一名義では、ももクロ、AKB48といったアイドルから、SMAP、郷ひろみなどのビッグアーティスト、さらに、はやぶさへアニソンを楽曲提供するなど、ジャンルにとらわれない音楽活動を展開するヒャダイン。
そんな彼が心から愛する歌謡曲の魅力を徹底考察する連載。
最終回となる今回のテーマは「海外から見た「演歌」の特異性とは。」です。


演歌という音楽ジャンルの特異性は以前でもこちらの連載で触れ、意外と歴史が浅いことも言及しましたが、グローバルな視点から見た演歌は一体どういうもので、そこに演歌の未来があるのではないだろうか――。
外国人の友人が多いわけでもないので論拠は乏しいですが、色々なデータや具体的な楽曲を例に出しながら検証していきたいと思います。

アメリカ音楽に例えると”カントリー”?!

以前英会話に通っていた際、日本に住んで20年になるアメリカ人教師に演歌についての所感を聞いたことがあります。
「演歌ってアメリカ人にとってどんな感じに聴こえるの?」と。
そうすると「うーん、、”コレ”という表現は難しいけど、あえて言うならカントリーかな、しかもオーセンティックなカントリー。」
なるほど。わかりやすいなと感じました。
カントリーソングは日本人が感じているよりもずっと人気で、ランキングに入ることも多々ありますし、なにより高齢者や保守層からの支持が強いと聞きます。その点では演歌との共通点を感じられますね。
しかし、アメリカにおけるカントリーは若者音楽とも融合していて、カントリー出身のテイラー・スウィフトは今やジャンルに囚われない音楽性でスーパースターに。

そして近年では当時19歳のLil Nas X(リル・ナズ・X)によるヒップホップとカントリーを融合させた『Old Town Road』という楽曲が大ヒット。その後リミックスバージョンもヒットするなどカントリー界も革命が起きているようです。

 

演歌をサンプリングしたヒップホップ楽曲

ヒップホップとの融合といえば、なんと本場アメリカのヒップホップアーティストが演歌のフレーズをサンプリングした作品もあります。
ちなみに「サンプリング」というのは、元の音源の一部を切り取って拝借し、それを組み込んで別の曲を作るという手法です。
世界的アーティスト、カニエ・ウエストの『Dark Fantasy』は、梶芽衣子さんの『銀蝶渡り鳥』を使っています(タランティーノの影響でしょうか)。

 

もっと強烈なのはFonzworth Bentley(フォンズワース・ベントレー)の『Since I was 9』
あの『男と女のラブゲーム』のイントロを大胆に使用!あの口三味線できちゃうアレですよ。元ネタのコミカルさは全く消えてめちゃくちゃかっこよくなっています。
どうやってヒップホップアーティストが日本のクラシック歌謡曲や演歌に出会うのかは全くの謎ですが、それこそYouTubeで偶然出会ったり、中古レコード屋で買った「アジアの謎曲」として使用しているのでしょうか。不思議な広がり方ですね。
(※公式音源が見当たらなかったのでご紹介できませんでしたが、気になる方は是非曲名で検索してみてください!by編集部)

 

海外出身の演歌歌手たち

一方、演歌を愛して外国人が演歌歌手になる、というパターンも少ないですがありますよね。
古くは、チャダというインド人歌手による『面影の女』なんて曲もありました。これは衝撃。インドの伝統衣装にターバンを巻いて、流暢な日本語と北島三郎直伝の歌唱力でヒット曲となりました。
楽曲自体にインドテイストは全くなく”ド演歌”。シタールくらい入れればいいのにと思ってしまいますが、「ネタ曲」にしなかった当時のスタッフの手腕に拍手です。
調べたところチャダさん、16歳の時に訪日した際に聴いた演歌に感銘を受けて演歌歌手を目指した、とのこと。

日本再デビューアルバム(「面影の女」新録音を収録)

同様のケースがジェロさんの『海雪』ですね。ビジュアルはヒップホップ丸出しの黒人青年がド演歌を歌う、というギャップが受けてこれまたヒット曲に。
サウンドは完全に演歌ですが、随所にヒップホップダンスが出てくるあたりが”ちぐはぐ”で大変微笑ましいです。作詞で参加している秋元康さんのプロデュースの才が光る作品でもあります。
その後カラオケ系歌番組で外国人が日本の楽曲を競うなんてコーナーがあったりと、独特な世界観と大仰で切ないメロディである演歌に惹かれる外国人は一定数いるようですね。

韓国版・演歌『トロット』

さてお隣の国、韓国でも演歌的なものがありまして「トロット」と言われるジャンルで曲調もかなり日本の演歌と似ています。
人気の浮き沈みもやはり日本と似ていて、POPSが主流になってくるにしたがい高齢者が聴くものとして人気が落ちていったようです。
しかし若いアーティストがトロットを「ネタ」的にリリースすることもありBIG BANGのメンバー・テソン氏による『ナルバスキン』はコミカルなダンスもありヒット曲となりました(ちなみに日本語歌詞は私が担当しました)

 

さらにあまり知られていないのですが、近年キム・ヨンジャさんが母国韓国で再ブレイクしているのです!『アモール・ファティ』というメロディアスな楽曲を2010年代前半にリリースされたのですが、2017年あたりに若者の中でブレイク。
2018年には、BTSやTWICE、EXOら錚々たるK-POPスターが集まるフェスの中で、トリとして出演者全員を巻き込み素晴らしいパフォーマンスを見せました
この楽曲のメロディーや歌唱法はトロットですが、サウンドは今っぽいEDMアレンジが施されており、その違和感が妙なグルーヴを生んでいて中毒性があります。

歌詞付きの最新全曲集。

以上、色んな角度からインターナショナルな視点での演歌を見てきましたが、やはり異質なものとしての認識はあるようです。その異質なものをサンプリングで取り込んだり、シンガーとして自ら歌う側に回ったり、EDMとかけあわせて新たな楽曲ジャンルを作り上げるなど、その「調理法」は様々です。
演歌を聴く人口が年々減少しているという話はよく聞く話です。しかしその特異性が詰まった素材、調理法によっては新たな活路があるのではないでしょうか。
日本だけのもの、として見ていたらわからない特異性が外国のからの視点で見えてくる、そんな気もします。

 

さて、突然ではありますがこの連載も今回で最終回となります。
私としましても文章にしてまとめることで思考の整理ができ、ますます演歌・歌謡曲に関して造詣が深くなったと感じています。
今までありがとうございました!またどこかで!

 

PROFILE


ヒャダイン

音楽クリエイター 本名:前山田 健一。
1980年大阪府生まれ。 3歳の時にピアノを始め、音楽キャリアをスタート。作詞・作曲・編曲を独学で身につける。 京都大学を卒業後2007年に本格的な音楽活動を開始。動画投稿サイトへ匿名のヒャダインとしてアップした楽曲が話題になり屈指の再生数とミリオン動画数を記録。
一方、本名での作家活動でも提供曲が2作連続でオリコンチャート1位を獲得。2010年にヒャダイン=前山田健一である事を公表。アイドル、J-POPからアニメソング、ゲーム音楽など多方面への楽曲提供を精力的に行い、自身もアーティスト、タレントとして活動。テレビ朝日系列「musicるTV」、フジテレビ系列「久保みねヒャダこじらせナイト」、BS朝日「サウナを愛でたい」が放送中。YouTube公式チャンネルでの対談コンテンツも好評。

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