シティ・ポップもいいけどトレンディ・ポップもね。~ヒャダインの歌謡曲のススメ#9

2021.4.16

歌手としての活動だけでなく、前山田健一名義では、ももクロ、AKB48といったアイドルから、SMAP、郷ひろみなどのビッグアーティスト、さらに、はやぶさへアニソンを楽曲提供するなど、ジャンルにとらわれない音楽活動を展開するヒャダイン。
そんな彼が心から愛する歌謡曲の魅力を徹底考察する連載。
第9回目のテーマは「シティ・ポップもいいけどトレンディ・ポップもね。」です。


“シティ・ポップ”ってなんなんだろ

いやはや、近年シティ・ポップブームですね。
cero、nulbarich、never young beachなど、新世代のミュージシャンが往年のシティ・ポップに影響を受けて新しい音楽を作り出していて、楽しい時代だなあと感じています。
そこで、そもそもシティ・ポップってなんなんだろうと思ったわけです。
明確な定義があるのかなぁと調べてみたら、やはり「定義は曖昧」「ジャンルよりもムードを指す」らしく、演歌やロックとかじゃなく、渋谷系とかと同じ感覚なのかもしれません。

ウィキペディアによると
「シティ・ポップは1970年代後半から1980年代にかけて日本でリリースされ流行したニューミュージックの中でも特に都会的に洗練され、洋楽志向のメロディや歌詞を持ったポピュラー音楽」
とのことです。

海外アーティストがきっかけとなったリバイバルブーム

代表的アーティストは山下達郎、竹内まりや、南佳孝など。
確かに昨今のシティ・ポップのリバイバルのきっかけとなったのは竹内まりやさんの『プラスティック・ラブ』ですよね。
海外のAORサウンドを直輸入したようなスキル満載の演奏とアレンジの上でおしゃれなボーカルが踊るこの曲を、ヨーロッパのDJがネット上で見つけて伝播していったというまさに今っぽい流行り方!

 

さらに松原みきさんの『真夜中のドア』も同系統としてブレイク。歌詞もおしゃれなんですよね、『真夜中のドア』。
(インドネシアのアーティスト・レイニッチがYouTubeに公開したカバー動画が300万を超える再生回数を記録し、これをきっかけに松原みきオリジナル楽曲もSpotifyで連日1位を記録する世界的なヒットとなった。)


私としてはウィキペディアにEPOさんの名前がないのがちょっと解せないです。
竹内まりやさんのバックボーカルで歌っていたEPOさんの作品は「オレたちひょうきん族」でも知られていますがとても都会的。シュガー・ベイブの『DOWNTOWN』のカバーを1980年に放つあたりでまごうことなくシティ・ポップ。
私事ですが、最近EPOさんの名盤『VITAMIN E・P・O』を愛聴しています。

まあかっこいい。凄腕ミュージシャンによる超絶演奏と高度なボイシングのアレンジ、そして跳ねるように瑞々しいEPOさんのボーカルが最高なんです。
この表題曲を最近カバーした土岐麻子さんバージョンも良い!!

やはりシティ・ポップは受け継がれていくものなのです。

トレンディドラマを彩ったシティ・ポップ=”トレンディ・ポップ”

しかし。
同じ80年代の作品でシティ・ポップの条件を満たしながらもシティ・ポップとしてカウントされない、そして新世代に既出の楽曲ほど受け継がれていない楽曲群があります。
今回はその楽曲群を具体的に述べ、その素晴らしさを提示、若い世代そしてリアルタイム世代にも思い出してもらおうと思った次第です。

それを名付けるなら「トレンディ・ポップ」。
トレンディドラマの主題歌になったような楽曲たちです。
当時誇張されたアーバン感を提示してムーブメントを巻き起こしたトレンディドラマ。それを彩る楽曲も当然アーバンであり洗練されているわけです。

唯一無二のJ-POP「オメガトライブサウンド」

まずご紹介したいのは、オメガトライブ
杉山清貴&オメガトライブ、1986オメガトライブ、カルロス・トシキ&オメガトライブと形を変えて時代を席巻していた音楽プロジェクト。

作曲家林哲司さん主導のもと作られた楽曲は、AORや産業ロックやフュージョンなどを基本として歌謡曲の切なさをミックスさせた唯一無二のJ-POP!
シンセリードやシンセベルにバカテクバンド、そして特徴的なコーラスの上で杉山さんとカルロス・トシキさんが軽やかに歌う楽曲はトレンディドラマやCMを彩り、1980年代後半の好景気のアーバン感を演出しました。
私は本当にオメガトライブサウンドが大好きなのですが、なぜかこれが現代においては「おしゃれ音楽」としてカウントされない。
これほど都会を彩ったというのにシティ・ポップに入れてもらえない。

ここのところ長年80sがおしゃれアイコンとしてグラフィックや映像で取り入れられていますが、何故にオメガトライブはオマージュされない?
『ガラスのPalm Tree』とか徹頭徹尾かっこいいのに。
『君は1000%』なんてタイトル超かっこいいのに。
イントロがベタすぎるからなのか。ギターソロがドラマチックすぎるのか、サビ前のキメが大仰すぎるのか。
全て長所だと思うのですが。今の20代がカバーしないのが全くもって謎です。

 

ブリ―ジーなサウンドに痺れる角松敏生

同じくトレンディ・ポップを語るのに欠かせないのは角松敏生さんでしょう。
自身もシンガーソングライターとして活躍する角松敏生さんは、洋楽、特にAORやR&Bの要素をうまく取り入れつつ爽やか、いや、ブリージーな曲を沢山作られています。

プロデューサーとしても超一流で杏里さん、中山美穂さん、V6の『WAになっておどろう』など数多のヒット曲を手がけられています。
特に杏里さんワークスは本当にブリージーで、『Timely!!』という名盤は邦楽AORのいいとこ詰め合わせ。
かの名曲『CAT’S EYE』もリアレンジされてかなりかっこいいです。
私が好きな曲は『SHYNESS BOY』。後期のドゥービー・ブラザーズのような活き活きしたブラスと小粋なカッティングギター、そして出ましたサックスソロ。完璧です。
杏里さんのファッションも素晴らしく、今の時代だったらインスタクイーンです。
今のZ世代の女の子たちは杏里さんのカバーをしたら「バズる」と思うのですけどね。

 

まだまだ語り足りないですがトレンディ・ポップの魅力、お伝えできたでしょうか。
「おしゃれ」は輪廻します。
今までは少し「いなたい」と思われていたトレンディ・ポップがリバイバルする日は間近だと感じています。
ぜひこの機会に皆さんも聴き直してみてください。窓を全開でドライブしながら。

PROFILE


ヒャダイン

音楽クリエイター 本名:前山田 健一。
1980年大阪府生まれ。 3歳の時にピアノを始め、音楽キャリアをスタート。作詞・作曲・編曲を独学で身につける。 京都大学を卒業後2007年に本格的な音楽活動を開始。動画投稿サイトへ匿名のヒャダインとしてアップした楽曲が話題になり屈指の再生数とミリオン動画数を記録。
一方、本名での作家活動でも提供曲が2作連続でオリコンチャート1位を獲得。2010年にヒャダイン=前山田健一である事を公表。アイドル、J-POPからアニメソング、ゲーム音楽など多方面への楽曲提供を精力的に行い、自身もアーティスト、タレントとして活動。テレビ朝日系列「musicるTV」、フジテレビ系列「久保みねヒャダこじらせナイト」、BS朝日「サウナを愛でたい」が放送中。YouTube公式チャンネルでの対談コンテンツも好評。

関連キーワード

この特集の別の記事を読む