工藤あやの 泉鏡花の悲恋小説をモチーフにした初の本格演歌に挑戦「好きな人に人生を賭ける主人公の気持ち、すごくよく分かります」

2022.1.24

2022年にデビュー9年目を迎える工藤あやのの7枚目のシングルは、明治の文豪・泉鏡花が運命に翻弄される男女の悲恋を描いた傑作小説をモチーフにした本格演歌『白糸恋情話』。これまでテンポのいいリズム演歌や歌謡曲調の曲が多かった工藤の新しい一面を堪能できる楽曲に仕上がった。
カップリングは爽やかな歌謡曲タイプの『手紙』。ボーナストラックとして山形弁の台詞が入った『山形育ち』も収録された。
新たな表現に挑戦する工藤に新曲にかける意気込みと新しい年への抱負を聞いた。

――新曲の『白糸恋情話』は、これまでとは変わって、しっとりとした本格演歌。難しいとは思いませんでしたか。

みちのく娘!での活動でたくさんの演歌を歌わせていただくようになって、最近も(石川)さゆりさんの曲を歌わせていただいたり、坂本冬美さんの『火の国の女』を市川由紀乃さんとご一緒させていただいたりしました。最近はお二人の曲のように内面から燃え上がる情念を表現する曲も歌う機会をいただけるようになりましたので、『白糸恋情話』も違和感なく歌えました。むしろ今だからこそ歌わせていただけた、すごく巡り合わせのいい曲だと思っています。

 

――今だからこそというのは、最近、何か心境の変化があったということですか。

昨年(2021年)の初頭に新型コロナに罹って、もしかしたら歌手生命が終わるかもしれないと思うような経験をしました。その後しばらくして症状が治まって「さあ、もう一度頑張ろう!」と再スタートを切った瞬間があったんです。ちょうどその頃に『白糸恋情話』と出会って、素直に“あ、この曲分かる、好きだ”って思えたんです。今の自分の気持ち、感情なら歌える曲だと感じました。これまではスローテンポな曲は苦手だったのですが、それを隠しても仕方ないし、できるように頑張るしかないと思いました。

 

――モチーフになっているのは泉鏡花の『義血侠血』。明治時代の小説です。時代も違いますし、この曲を手にした時、戸惑いはありませんでしたか。

今回は詞先だったのですが、原文彦先生が手書きで歌詞を書いて送って下さったんです。先生とは、地方にお住まいということもあって直接お会いしていないのですが、その文字を見た瞬間に先生の感性を理解できたというか、感じることができました。この曲には題材になった小説があるから読んでおいた方がいいと言っていただいて、実際、レコーディングの前に読んでみたら、“ここからここまでが1番の内容なんだ”とか、すごく理解できて、それまでモノクロだった世界が一気に色鮮やかになった。小説と歌詞それぞれの世界がリンクして私の中にスッと入ってきました。

 

――白糸は愛しい人の学費を都合するために誤って人を殺めてしまいます。一女性としては白糸の気持ちは理解できますか。

白糸と私、似ているなあと思いました。この人だったら賭けることができると思ったら、それがお金なのか人生なのかわかりませんが、私、本当に賭けることができます。その人を支えることが、自分が生きていく糧になることもよく分かるから、本当に素敵なお話だと思いながら読みました。最初は(白糸が愛した)村越欣弥さんはそのあたりにだらしなく寝そべっているような人というイメージだったのですが、読んでいくうちに心がちゃんとある素敵な人だと分かりました。私自身も村越さんのような方に憧れるところがあるので、“分かるなあ”と思いながら読み進めていったんです。それだけに、結末は心が苦しすぎて、読み終わった後は、一日中泣いていました。

 

――物語に没入してしまったわけですね。

みちのく娘!で指導していただいている花柳糸之先生から、「あやのは作品の世界に入り込んだ方が表現できるタイプだから」って言われことがあったのですが、考えてみると私自身もけっこう憑依型だなと思います。小説を読んだ時もそうでしたが、『白糸恋情話』を歌う時も、イントロから頭の中に切ない映像が流れてきて、まさに白糸の世界に没入できたと思います。

 

――物語の世界観もですが、この曲はテクニックとしても難しい曲だと思います。

声を出すという点から言うと、最後の1行に同じ言葉を3回繰り返すところがありますが、その直前の「白糸は〜」のロングトーンが一番しんどかったですね。たぶん、カラオケで歌われる方もここが一番難しいと思います。個人的に大事に歌っているのは、冒頭。最初は勢いよく歌っていましたが、弦(哲也)先生からも花柳先生からも、そうじゃなくてフーっと息を吐くように優しく歌うようにと注意されました。「情けは情けで」と歌う1回目の情けは自分のこと、2回目の情けは相手のことなので、歌い方も変えてちゃんと映像が浮かんでくるようにと指導していただいて何度も練習しました。

――カップリングの『手紙』は、『白糸恋情話』とは打って変わって爽やかな歌謡曲タイプの曲。工藤さんの温もりのある声で聴くと癒されます。

作ってくださった向井浩二先生は私のデビュー当時からボイストレーニングを担当してくださっている方なので、(曲を作るときに)どういうイメージの曲がいいかと聞いてくださったんです。それで、例えば髙橋真梨子さんの『for you…』や『ごめんね…』のように、心からあなたを愛している、心からごめんねと言える女性の気持ちをバラードで歌いたいとリクエストしました。これまでは恋愛の歌でも手のひらで男性を転がすようなタイプの女性を歌うことが多かったので(笑)、今回は可愛い女性のイメージで。私は具体的な誰かを頭に思い浮かべないと上手く表現できないので、この曲は東京に出てきてから恋をした時のことを思い出しながら歌いました。そういう意味では私も上京してからいろいろなことがありましたが、無駄じゃなかったということですね(笑)。

 

――今回はボーナストラックとしてもう1曲収録されています。『山形育ち』ですが、これは工藤さん自身をイメージした曲ということでしょうか。

もともとこの曲は山形出身のシンガーソングライターの山口岩男さんがご自分のアルバムに入れていた曲で、いつか山形出身の女性歌手に歌ってほしいと思っていらしたものなんです。山形のラジオ番組で一度歌ったら反響があって、その後YouTubeに上げたらさらにすごい反響で、CD化してほしいという声もいただいたので今回ボーナストラックとして収録させていただきました。

 

――台詞も可愛らしいですね。

台詞は初めてだったので緊張しましたが、何回か歌っているうちに台詞の方が楽しくなってきました(笑)。方言女子にキュンときてくださる男性も多くて、大阪で3年間ラジオ番組をやらせていただいていた頃から応援してくださっている方からは、“あやのちゃんの山形弁が好きだから今回CDに収録してくれたのが嬉しい”とおっしゃっていただきました。特に大阪で響いているみたいです。


次ページでは2022年の抱負を語る!

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