パク・ジュニョン 次なる10年の幕開けは男の魅力 「切ない男の心情を歌うのは、金閣寺でも清水寺でもない、『わび・さび』の美しさを感じられる銀閣寺だと納得しました」

2022.3.9

2012年の『愛・ケセラセラ』での日本デビューから満10年を迎えたパク・ジュニョンが、12枚目のシングル『銀閣寺』を、カップリング曲の異なるAタイプ(c/w『哀愁夜霧』)とBタイプ(c/w『月夜高く昇れ』)で、3月9日にリリースする。3月12日の誕生日に合わせたバースデー・シングルでもある本作は、リズムが際立つサウンドに、切ない男の心情がつづられ、歌い手として次の10年のフェーズに向けた、パク・ジュニョンの新境地を切り拓く楽曲に仕上がっている。

『銀閣寺』でテクニカルな歌唱に挑むのは楽しい!

――『銀閣寺』は、エッジの効いたバンド・サウンドがかっこよいですが、最初に曲を受け取った時の印象は?

まず『銀閣寺』というタイトルに惹かれました。スポットの名称をそのままタイトルにした曲は、5thシングル『河口湖』(2015年)以来となりますが、タイトルからその時と同様のインパクトを受けました。(作曲の)徳久広司先生から最初にデモ音源をいただいた際は、どちらかというと演歌寄りの歌謡曲だったのですが、アレンジにより現在のサウンドに決定してからは、改めて徳久先生に歌い方をレッスンしていただきました。

――制作過程で歌唱法も変わったのですね。仕上がりへの手ごたえはいかがでしょう。

すごく満足しています。12枚目のシングルになりますが、リズムを刻むアップテンポの曲調は、2ndシングルの『チャラ』(2013年)以来久しぶりですし、僕も歌いたかったという気持ちがありました。ファンのみなさんからもSNSやインターネットサイン会、発売記念のトーク&ミニライブなどを通じて『こういう曲を待っていました』という反応をたくさんいただいて、とてもうれしいですね。

――伊藤美和先生の詞は、愛する女性と別離した男性の哀しみや喪失感を描いています。歌ううえでは、詞の世界観とリズムの効いたパンチのある楽曲を融合させる難しさもあったかと想像しますが、表現方法で工夫された点はありますか。

徳久先生から教えていただいたのは、言葉と言葉の間(あいだ)に、間(ま)があるかないかくらいの本当に短い間(ま)を入れなさいということでした。歌が切れてはいないけど、そこには微かな間がある。そして伸ばすパートはきちんと伸ばして、スタッカートも入れて、という風にメリハリをつけることで、リズムに負けないような歌い方をしています。

――この10年間で培われた表現力が駆使されているんですね。

僕は歌うことが大好きで、歌を仕事としているプロの歌手として曲にこういうテクニカルなところがあると楽しいんです。カラオケをする方も練習しながらすごく楽しめる曲だと思いますよ。淡々と歌うのではなく、間やスタッカートを入れたり、曲調が転換する<二人で旅した>のところなど、切ない感情を込められるフレーズもしっかり織り込まれているので、歌っていて楽しいと実感していただけると思います。

ノリのよい楽曲と切ない歌詞に韓国のトロットとの共通性

――徳久先生の作品は初挑戦となりますね。

曲を提供いただいたのは、今回が初めてなのですが、以前から先生が韓国のアーティストとお仕事された作品を聴いていて、先生のメロディーは韓国のトロットとすごく似ているなと感じていました。トロットは韓国の演歌というようなジャンルの音楽ですが、僕にとってはどこか懐かしさを感じさせるメロディーです。トロットには、イ・ソンエ(李 成愛)さんの『カスマプゲ』(1977年)のような、しっとりした歌謡曲もあるのですが、すごく悲しい歌詞なのにメロディーやアレンジがノリノリの曲も多いんです。だから韓国では、ノリのよいトロットが流れると、年配の方はその場で立ち上がって踊ったりするんですね。一見陽気なサウンドなのに、よく聴くと悲しい歌詞なんだと気づくこともあります。日本でも、詞と曲のギャップがある作品に挑んでみたいなと思っていました。そういう点でも『銀閣寺』は、僕にとってやりがいがある作品となりました。

――パクさんは歌う際に脳内で、その曲が持つ世界を思い描き、ドラマを作ると発言されていますが、『銀閣寺』では、どのようなドラマが頭の中に描かれたのでしょう。

今回は銀閣寺という場所がはっきりしている歌なので、実際に見にいってきました。不思議なことに、『銀閣寺』という新曲タイトルの発表後、最初の仕事が京都でのランチ&ディナーショーだったんです。京都にご縁を感じましたね。歌の中の言葉<いにしえの古都(まち)>、<石畳>、<市バス>が走る街並みなどを実際に見たことで、自分の中でこの歌の世界のイメージを膨らませていきました。最初にタイトルをうかがった際は、なんで銀閣寺なのだろうと思ったのですが、実際に銀閣寺を拝観し、京都の風景を目にして、切ない男の心情を歌うのは、金閣寺でも清水寺でもない、「わび・さび」の美しさを感じられる銀閣寺だと納得しました。かつて二人で旅した古都が一人で歩いていると白黒の墨絵のようになっているという歌詞のイメージが、銀閣寺に行ったことですごく湧いてきました。僕が行った時はちょうど雨の銀閣寺だったんです。コロナ禍の影響で他に拝観者の方もおらず、静かで澄んだ空気に包まれ、苔の一つひとつまで手入れされている空間で、瞑想するような感覚を味わいました。

――この曲を聴かれる方には、どのように受け止めてほしいですか。

デビューから満10年経った僕が、これまでとは違い、男としての魅力、男っぽさを出す一曲だと思っていますし、みなさんにもそこを注目してご覧いただきたいですね。歌の主人公たちが「僕」「私」ではなく、「俺」「お前」という世界を歌うのも初めての経験です。

――カップリングの『哀愁夜霧』『月よ高く昇れ』も、愛する女性を思う男性の切なさやさみしさが下敷きとなっている曲で、『銀閣寺』と合わせて三部作のような印象を受けました。

今回は、ディレクターから男っぽさを出したいというお話をいただき、3作品とも男性が主人公の歌となっています。でも、『銀閣寺』は男の未練や情けなさ、『哀愁夜霧』は別れた人の幸せを祈る男、『月よ高く昇れ』は離れている人に会いたいという気持ちを伝える男、それぞれ異なる魅力を表現しています。

――『哀愁夜霧』『月よ高く昇れ』の聴きどころを教えてください。

『哀愁夜霧』は、定番の3連の歌謡曲。この曲を歌う際に参考にしているのは、デビューの頃からカバーで歌わせていただいているニック・ニューサさんの『サチコ』(1981年)なんです。一番のポイントは、冒頭の<卑怯>という言葉。徳久先生からは、歌いだしの<ひ>の音をちゃんとつかんで一発で出しなさいとお話しいただきました。
『月よ高く昇れ』は作詞の渡辺なつみ先生がイメージを作ってくださいました。主人公が月に向かって高く昇れと願うのは、愛し合う二人の間に彼らを隔てる海のようなものがあって、その上に月が高く昇れば昇るほど、水面には月光が作った橋ができる。その橋を渡って今すぐに会いにいきたいという男の気持ちを表しています。歌詞には出てきませんが、水面に映る光の橋の情景を思い浮かべながら聴いていただくとグッとくる曲です。

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