歌手生活60周年を迎えた三田明がメモリアルアルバムをリリース 「これからもファンの皆さんと、お互いに〝幸せのおすそ分け〟の行ったり来たりができたらと思っています」

2023.9.20

東京オリンピックを翌年に控え、日本の社会が大きく変わろうとしていた1963年、『美しい十代』で颯爽と歌謡界にデビューした三田明。次々とヒットを飛ばし、瞬く間にスターの座へ昇り詰めた。以来60年、ファンに歌を届け続けてきた三田が、今年9月20日にメモリアルアルバム『三田明 六十周年記念アルバム』をリリースする。「いろんなことがあった60年だったけれど、変わらず応援してくださったファンの皆さんに感謝の気持ちが伝われば」と語る三田に、新録した楽曲への思いや60年間の歌手生活の思い出などを伺った。


――デビュー60周年、おめでとうございます。メモリアルアルバムですが、ご自身が作曲した新曲も3曲収録されているそうですね。

60年というと人間で言えば還暦ですが、まだまだ折り返し地点に立っていると考えれば、ここでデビューの頃を懐かしむより、今の時点の新しい三田明を皆さんにお見せしたいという思いで作りました。僕は、デビューには恵まれていましたが、その後の歌手生活は紆余曲折、いろいろありました。その歌手人生を通じて、ずっと一緒に応援してくださった皆さんに感謝の気持ちが伝わればいいなと思って新曲を3曲、収録しました。

――それぞれどんな思いが込められた曲なのでしょうか。まず1曲目の『同じ時代』から。

僕を応援してくださっているファンには同世代の方が多いんです。僕たち団塊の世代は、まだまだ日本が貧しいときに生まれて、苦労された方も多い。当時、就職列車といって、中学を卒業すると列車に乗って地方から都会へ就職のために出てきた人もたくさんいらっしゃった。そこからいろんなことがあったけれど、同じ時代を歩いてきた皆さんがいたから頑張ってこられたんだよね、ということを、この曲でファンの方々と共有したかったんです。歌詞はもりちよこ先生にお願いしましたが、最初の一行、「君と一緒に 歩いてきたよね」だけは僕が考えました。このフレーズがこの曲のコンセプトで、後はもり先生に託して、僕らの世代のことを書いていただきました。

――『三丁目の路地を抜けて』は、アップテンポで軽快な曲です。

僕はありがたいことに1曲目からヒットしたこともあって、デビューしてすぐにファンに囲まれるような生活になったものですから、当時は外を歩くこともできませんでした。もちろん夜遊びなんてもってのほか。だから自由に飲みに行ったり、カラオケに出かけたり、なんてことが出来るようになったのはずっと後のことでした。この曲にはそういう、一人で好きな時に好きなところに行って、例えば懐かしいお店に顔を出して「よう、久しぶり」なんていう、あの頃やりたかった僕の夢が描かれているんです。年月を経てそんな夢が現実になって、それが今また、すごく嬉しく感じるんですよ。

それからこの曲でもう一つ伝えたかったのは、人生って自分の考え方一つで変わるということ。いろいろ苦労もあるけれど、気持ちの持ち方次第で楽しく生きていけるということを皆さんに伝えたくてね。だからちょっとポップで楽しそうな曲にしました。

――3曲目の新曲は、しっとりとした曲調の『幸せのおすそ分け』。これはどんな曲ですか。

僕のファンの皆さんは、少女のころにファンになって、結婚して子供ができて、その間は少しお休みして、でも子供が大きくなって自分の時間ができたてからまた、三田明を応援しようと集まってくださっている方が多いんです。僕を応援してくださりながら、ファン同士、友達になったり、夫婦になったりした方もいらっしゃる。何かあれば連絡を取り合うし、集まることもある。だから、孤独な人はいません。高齢者になってもお互いを理解している仲間とワイワイできるのは幸せなことだし、これからもお互いに何かをあげたりもらったり、お互いおすそ分けしながら行こうよという気持ちを歌にしたかった。もり先生も僕のショーを見に来てくださって、僕とファンの方々との繋がりを感じて詞を書いてくださいました。

――三田さんの歌を長く楽しんでくださっているファンの方々がたくさんいるのは、歌手冥利に尽きますね。

そうですね。もう長い間ずっとね、何があっても応援してくださっている方がいる。それはありがたいことです。もうファンというより、僕にとっては友達、同志という感じですね。やっぱり元気を与えてくれるのはファンの皆さんだし、それをまたお返しするのが僕の仕事。それが〝おすそ分け〟の、行ったり来たりの意味だと思います。

――2020年にリリースされた『母さんの手』も今回収録されています。

この曲はコロナ禍の真っ最中にリリースしたものですから、キャンペーンもライブでの披露もほとんど出来ませんでした。未発表みたいなものでしたから、それで今回入れてもらいました。

――お母様との思い出を辿りながら、「ありがとう」の気持ちを綴った作品ですね。

僕は8人兄弟の末っ子でしたし、親父は建築屋で棟梁でしたから、雨の日なんか若い衆が家にたくさんいて、その食事の世話なんかもおふくろがしなくちゃならないので、両親とも忙しかった。そういう環境で育ちましたので、僕には子供のころの親との思い出ってあまりないんです。16でデビューしてからも、後で知りましたが、里心を出さないようにと親とは会えない契約になっていたようで、ほとんど顔を合わせませんでしたし。母親が亡くなるときは手を握って、呼んだら目を開けて、それでお別れすることができましたが、僕はずっとおふくろに対して淋しさのような感情を抱いていたような気がするんです。そんなことを考えているときに、そういえばこれまでおふくろのことは歌にしたことはなかったなと思って、母をテーマに曲を作ろうと思い至りました。

――シングルCDのジャケット写真に写っていらっしゃるのがお母様ですね。

コロナのときに家にある写真を整理したんです。だいたいが自分の仕事の時の写真と、後は兄弟で撮った集合写真ばかりだったのですが、たった1枚、おふくろと二人で撮った写真が出て来ました。上野動物園の休憩所のところで親父が撮ってくれたやつ。その写真をディレクターに見せたら、やろうということになった。それでもり先生に来ていただいてお願いました。

――もり先生とは、曲を作るにあたってどんなお話をされたのですか。

僕の子供のころの話をいろいろしました。兄弟が多くて、おかずを取られちゃって泣いていると、後で戸棚に隠してあったお皿をそっと出してくれた話とか、親父に叱られて殴られたりするといつもおふくろがかばってくれたこととか。そんなことを話していて、もり先生から「お母さんって、言葉で何か言った?」って聞かれたんです。考えてみると言葉では何も言われたことはなくて、その代わりおふくろのいろんな仕草を覚えているんですね。そう話したら先生が、「じゃあお母さんの手の仕草で何か書こう」と言ってくださって。それで生まれたのが『母さんの手』です。

――恩師でもある吉田正先生の曲も2曲収録されていますが、数あるヒット曲の中からこの2曲を選んだのはどうしてですか。

『美しい十代』はもう僕の原点ですから、これは必ず入れようと。それより『赤毛のおんな』、この曲は、僕にとっては思い入れの強い一曲なんです。最初、この曲が出来てきたときは、ロッカバラード調の曲でした。ちょうど10周年を迎えた年で、それまで学園ソングばかり歌ってきてこの辺りで大人の歌を歌いたいと思っていましたので、吉田先生にちょっとわがまま言って、ジャズにしていただけませんかとお願いしてアレンジし直していただきました。当時、先生にそんな生意気なこと言う人はいなかったみたいで、橋(幸夫)先輩にも、「よく言えたな。お前は可愛がられているから良かったけど、俺なんか絶対言えないぞ」って叱られました(笑)。

――『赤毛のおんな』は30周年、50周年の記念アルバムでも歌われていますね。

オリジナルから数えて4回目の収録です。吉田先生は生前、昔の曲を歌い直すことを許してくれませんでした。『美しい十代』ですら、あれはあの時の初々しい歌がいいんだからって言っていましたから。でも『赤毛のおんな』だけはOKしてくださった。先生もくやしかったんじゃないですか、僕が歌い切れていなかったから。やっぱりこの曲を歌うには経験も必要、年を重ねた方が良くなるんですよ。今回は70代の僕が歌いましたが、80代になったらまた歌いたいと思っています。

――さて、三田さんは10月10日でデビュー60周年を迎えるわけですが、浮き沈みの激しい歌謡界で半世紀以上歌い続けてこられて、今何を思いますか。

ありがたいことに、僕にとって歌手という仕事は天職だったのかなとは思いますね。ただ、振り返るといいことばかりじゃなくて、いろいろ大変なこともありました。所属事務所が潰れたり、ハイジャックに遭遇したり、他の方よりいろんな経験をしたと思います。そんなことを考えながら思い出すのは、吉田先生が話してくださった言葉です。先生は、「人生はマラソンだぞ、山あり谷あり、途中で分かれ道もある。そんな時は自分の信じた道を行きなさい。もし間違ったら戻ってやり直せばいい。焦らないで、自分のペースで行きなさい。そしてゴールは自分で決めなさい」って。僕が16歳の時です。

――デビュー直後の三田さんに言葉をかけてくださったんですね。

右も左もわからない素人で芸能界に入ってきて、こいつ、これからの芸能生活で苦しむんじゃないかと心配して、教訓を残してくださったのだと思います。この言葉は生涯忘れることはありません。自分のペースで最後まで走り切ることの大切さを教えてくださった、すごく深い言葉だと思っています。

――今、歌手が天職だとおっしゃいましたが、三田さんにとって歌とはどんな存在ですか。

聴いてくださる方一人ひとりにとって、一つの歌が大切な思い出になったり、その人の人生と共に歩む道連れになったりする――歌って大事なものなんだ、そんないい加減なものじゃないんだとつくづく思います。一曲一曲、人によっていろんな意味があると考えれば、いい加減な気持ちでは歌えない。いつもその気持ちは忘れないようにしています。

――最後に60年の区切りを迎えて、これからの歌手生活の更なる夢、目標を教えてください。

今回のアルバムの中の曲もそうですが、せっかく作曲もさせていただいているのですから、もう少し勉強して、これからも自分が歌いたい曲、人に歌ってもらえる曲を作っていきたいと思っています。それがどんな歌なのか考えることで、自分の歌う歌もさらに変わっていけるんじゃないと思いますから。歌は生き物です。同じ曲を歌っても、聴いていただくお客様も毎回違いますし、歌い方も変わる。歌を生かすも殺すも自分次第だということを肝に銘じてこれからも歌い続けていきたいと思います。

三田明『六十周年記念アルバム』

2023年9月20日発売

品番:VICL-65877
定価:¥2,750(税抜価格 ¥2,500)

【収録曲】

1. 同じ時代(作詞:明煌・もりちよこ 作曲:明煌 編曲:工藤恭彦)
2. 三丁目の路地を抜けて(作詞:もりちよこ 作曲:明煌 編曲:工藤恭彦)
3. 幸せのおすそ分け(作詞:もりちよこ 作曲:明煌 編曲:工藤恭彦)
4. 母さんの手(作詞:もりちよこ 作曲:明煌 編曲:新田高史)
5. 赤毛のおんな ~60th Version~(作詞:千家和也 作曲・編曲:吉田 正)
6. 美しい十代 ~Elder Version~(作詞:宮川哲夫 作曲・編曲:吉田 正)
7. 同じ時代(オリジナル・カラオケ)
8. 三丁目の路地を抜けて(オリジナル・カラオケ)
9. 幸せのおすそ分け(オリジナル・カラオケ)
10. 母さんの手(オリジナル・カラオケ)
11. 赤毛のおんな ~60th Version~(オリジナル・カラオケ)
12. 美しい十代 ~Elder Version~(オリジナル・カラオケ)

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