坂本冬美 独占インタビュー 『どんなことをやっても、最後は和服で演歌のスタイルは変えません』

2019.6.20

明治座で、3年ぶりの座長公演を開催した坂本冬美さん。’87年のデビュー以来、30年を超えるキャリアを積んで、舞台から見える“景色”も変わってきたという。オリジナル曲はもちろん、昭和の名曲を歌い継ぐことにも力を尽くすなど、歌手としてますます円熟味を増してきた坂本さんに歌、そして演歌への想いを聞いた。

五木ひろしさんの言葉を支えに頑張っています

━━1987年のデビュー以来、数々のヒット曲を世に送り出す一方で、昭和歌謡のカバーアルバムを多数リリース、昭和の名曲の継承にも力を尽くし、国民的歌手として揺るぎない人気を誇っている坂本冬美さん。6月には明治座で3年ぶりとなる座長公演を開催。第1部では切なくもこころ温まる珠玉の人情芝居を熱演、第2部では「艶歌(えんか)の桜(はな)道(みち)」と題してオリジナル曲からカバー曲までを熱唱し、満席の観客を魅了した。

座長公演はデビュー5年目からやらせていただいていますが、若いときはただがむしゃらだったのが、今は、お客様がちゃんと来てくださるだろうかとか、千秋楽まで喉が持つだろうかなど、客観的に周囲を見渡すことも多くなって、その分、重圧も感じています。でも、様々な人々との出会いや曲との巡り合いがあって、今もこうして舞台に立てている自分に、本当に幸せを感じていますし、ありがたいことだと思っています

━━「先輩方のお話を聞けることも歌手にとって素晴らしい財産」と目を輝かす坂本さん。とくに昨年、五木ひろしさんの座長公演に特別出演した際、五木さんから言われた言葉は、今の活躍を支える大きな支えになっていると言う。

五木さんは、とにかく毎日全力投球なので、私は『千秋楽までペース配分とかお考えにならないんですか?』とうかがったんです。そうしたら、『1回1回全力投球。毎日出し切って、また新たな気持ちで臨めば、自然とエネルギーが沸いてくるんだよ』と。その言葉を聞いてから、私もとにかく出し切ることを意識するようになりました。もちろん、長い公演の中には体調がいまひとつということもありますが、それでも全力投球でやるという思いを持って舞台に立てば、必ずお客様に思いは伝わると実感しています

 

━━それはまた、歌うことの楽しさをさらに深く知るきっかけにもなったようだ。

若い頃は失敗しちゃいけないとか、レコードやCDと同じキレイな声で歌わなきゃいけないという気持ちが強かったのですが、今は、例え声がかすれようと、体調がどうであろうと、今の自分にできる精一杯の歌を聞いていただければいいんだって考えるようになって。それからは、以前ほど自分を苦しめるような緊張感はなくなり、とても楽しく歌えるようになりました。キャリアを重ねることによって、肩の力が抜けた感じがありますね

偉大な先輩たちの名曲を歌い継いでいきたい

━━80万枚超のヒットを記録したデビュー曲の『あばれ太鼓』に代表される、いわゆる男歌から、『夜桜お七』『火の国の女』などの女歌まで、オリジナルを歌う際は、「男になったり女になったり、曲の中の主人公の気持ちになって演じながら歌っている」と言う坂本さん。ただ、恩師・二葉百合子さんからの提案で歌い継ぐことを決めた『岸壁の母』だけは「演じることができない歌」とひたむきな眼差しで語る。

二葉先生からご指導いただいた教えとか、歌詞のモデルとなった端野いせさんや、同じように戦争でお子様を亡くされたお母様たちの思いを考えると、この曲は決して計算では歌えません。二葉先生に言われた『うまく歌うとか演じるとかではなく、しっかり心を届けること』という思いで毎回、歌わせていただいています

━━演歌・歌謡曲のカバーでは、ジャズやロック風などのアレンジで名曲群を彩ったアルバムもリリースしているが、そこには坂本さんならではのこんなこだわりがある。

私は、昭和62年にデビューさせていただいて、ギリギリ美空ひばりさんやちあきなおみさんなど昭和の偉大な先輩たちと接することができ、生の歌を聞かせていただけました。その後の私にとって大きな財産となる経験をさせていただけたので、できる限り、昭和の名曲を歌い継いでいきたいと思っているんです。ただ、カバーをさせていただくたびに、諸先輩方の偉大さを感じ、かなわないなって感じることも。だからこそ、あえて挑むのではなく、例えば、演歌が和服だとするなら、洋服に着替えたようなアレンジに変えて、普段、演歌を聞かない方にもスッと聞いていただけるようにと思っています。これは『また君に恋してる』という演歌とは違うジャンルの楽曲に出合い、歌わせていただいたことで、違う角度から演歌や歌謡曲を見てみようと思えるようになったことがきっかけです

 

━━忌野清志郎さん、細野晴臣さんとのユニットHISや、宮沢和史さん、さくらももこさんとのユニット坂本冬美with M2など、これまで他ジャンルとのコラボレーションも展開し、ロックやJ-POPなど幅広い楽曲を歌っているが……。

いろいろなジャンルに挑戦することは、刺激になるし、歌い手として勉強にもなります。ただ、私の中で一番大きいのは、“私は演歌歌手”なんだって、改めて自覚できること。他ジャンルの曲に接することで、今まで当たり前だと思っていた自分のスタイルが、やっぱり一番しっくりくるし、居心地がいいと感じさせてくれるんです

 

━━そのスタイルこそが、“うたびと”坂本冬美が最も大切にしている流儀だ。

どんなことに挑戦したとしても、最後は和服を着て、演歌を歌うというスタイルは変えないし、変えられません。その想いがあるからこそ、いろいろなことにチャレンジしても面白いし、ファンの皆さまにも楽しんでいただけると思うので、このスタイルだけはぶれずに守って、身体と喉が続く限り、歌い続けていきたいと思っています

 

8月には新曲をリリース予定。『男の火祭り』以来、6年ぶりの男歌だというが、今度はどんな冬美流演歌世界を見せてくれるのか、楽しみにしたい。

明治座「坂本冬美特別公演 泉ピン子友情出演」(2019年)に出演している森山愛子さん(左)と

 

公演情報

「坂本冬美特別公演 泉ピン子友情出演」

場所:明治座(東京・中央区)

公演期間;2019年6月1日(土)~6月27日(木)

■電話でのチケット購入
明治座チケットセンター:03-3666-6666 (10:00~17:00)
■インターネットでのチケット購入
インターネット予約「席とりくん」:https://web.meijiza.com/sekitori/public/TicSelectTokyuAction.do?kogyoCode=000628

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