多岐川舞子 杉本眞人との初タッグで挑む33年目の新境地 「この曲を、今歌いたい!!」

2021.9.21

涼やかな歌声に乗せて恋に揺れる女心を歌って人気の多岐川舞子が、自身44枚目のソロシングルとなる『恋いちもんめ』をリリース。
これまでの演歌路線から一転、フォークタッチの心に沁みる楽曲で、新たな魅力を見せてくれている。デビュー33年目に入った多岐川に新境地を開いた新曲へかける思いを聞いた。

――『男灘』でデビューされたのは1989年、平成元年でした。

「そうですね、今は令和の時代ですから、もうひと時代またいでしまいましたね。振り返ると“嫌だなあ”とか“あー、楽しい”とか、それはたくさん山がありましたし、本音を言うと、もうやめてもいいかなと思ったことも何度もありました。でもその都度、誰かが助けてくれて、こうしてまだやれてるってことは、皆さんからまだ歌っていていいよって言っていただいているんだと思っています」

 

――33年間の歌手生活で、意外にも杉本眞人先生の歌を歌うのは、この『恋いちもんめ』が初めてなんですね。

「そうなんです。私、大石まどかちゃんと石原詢子ちゃんとは仲良しで、グループLINEでつながっていてよく遊ぶんですけど、そこに時々、杉本先生も加わることがあって、4人でカラオケに行ったりゴルフしたりとか、そういう関係はもうずいぶんになります。まどかちゃんも詢ちゃんも先生の曲を歌っているんですけど私は1曲もなくて、先生も「お前とは巡り合わせが悪くて縁がなかったなあ」なんておっしゃっていたんですけど、今回ようやく歌わせていただくことができました」

 

――『恋いちもんめ』は、杉本節ともいえるフォークソング調の曲で、これまでの多岐川さんの歌とは少しイメージが違っています。

「実は今回のCDを制作するにあたって、もう1曲別の歌詞があって、その歌詞で先生に曲を依頼していたんです。その曲も演歌調で面白くていいなと思ったんですけれど、今回、先生の曲は1曲だけ入ることになっていたので、無理だろうなって思いながら『もう1曲だけ書いてください!』ってお願いしたら、1週間後に出来たよって電話をくださったんです。先生がギターを弾きながら電話越しに歌ってくださったんですが、聴きながらジーンときてしまって。『勝ってうれしい、恋いちもんめ』っていうフレーズで涙腺が決壊してしまいました。『どうしよう!この曲、絶対歌いたい』と思って、最初の曲のほうで決まっていたんですが、ディレクターさんに『この曲を、今歌いたい!!』ってお願いして実現しました。
とは言え、杉本先生の歌の世界は私の歩んできた王道の演歌の世界とはまた違っているので、私には少し冒険かなとも思いました。でも『恋いちもんめ』は演歌の世界とぜんぜんかけ離れているかというと、大きくは演歌の枠の中に入っている。演歌という大きな枠の中で今まで歌ったことのない世界を先生が作ってくださったんです。コロナ禍もあって大変な時代だからこそ、ノスタルジックで癒される、こういう曲も歌わせていただく意味があるのではないかと思っています」

――多岐川さんにとっていろんな思いの詰まった曲なんですね。

「ここしばらくコロナでキャンペーンにも行けてなくて、前の曲(『ひとりぼっちの海峡』)もちゃんと歌え切れていないですし、私の王道の演歌を皆さんに聴いていただきたい気持ちもあるのですが、今はそれも叶いませんし、それなら私がやりたかったことをやろうという気持ちもありました。そのひとつが杉本先生に曲を書いていただくことでしたし、こういうノスタルジックな曲も、いつか自分の歌として出すことができたら歌の世界を広げることができると思っていましたから、いろいろなことがちょうどいいタイミングで重なって生まれた曲だと思います」

 

――曲のイメージもあるのでしょうが、歌唱法もこれまでの多岐川さんとは違っているように思います。

「杉本先生はキーにもすごくこだわっていて、私の中では本当にこれでいいの?って思うくらい低いキーで歌っているんです。レコーディングのときに私がもう少し上げてほしいって頼んだら、『違うんだよ』って。先生の中ではちあきなおみさんの『赤い花』のような位置づけで、しっとりとした女の……低音というか、落ち着いた声がほしかったんだと思います。歌い方に関しては、特に最初の4行の部分を注意されました。演歌って歌い上げる曲が多いですよね。私もちゃんと歌おうとしちゃうんですが、先生は『歌わないで』っておっしゃるんです。例えば先生の『吾亦紅』もそうですが、歌詞の中のひとつずつの言葉を切って歌いますよね。私はどうしても気持ちよく伸ばして歌いたくなるんですが、そこをあえて切るように、そして歌うというより語るようにと先生から特に注意されました」

――カップリングは2011年にリリースした『雨のたずね人』のカップリング曲、『柳川しぐれ』が入っていますが、なぜこの曲を選んだのですか。

「1曲は演歌らしい曲を入れたかったんです。ファンの皆さんは演歌がお好きな方が多いし、カラオケでも楽しんでいただきたいということもありました。『恋いちもんめ』がノスタルジックな曲調でしたので、こちらはこぶしも回せる歌をということで、もともと大好きだったこの曲を入れてほしいとお願いしました」

 

――ボーナストラックにはご自身が作詞・作曲をなさった曲も入っていて、贅沢なCDになりましたね。

「そんなに大げさなものじゃなくて、私がやっているYouTubeチャンネルの企画で『開運!舞子の御朱印巡り!』という企画があって、テーマ曲を作ろうということになったんです。それでピアノでメロディーを作って、詞は思いついた言葉を並べただけ。そうして出来上がった歌を誕生日に生配信したのが『幸せめぐり』なんです。それが今回、CDに入れてもらえることになって、こんなに格調高く音を付けいただいて、本当にありがとうございます、ですね(笑)。私の歌はこれまで、海に飛び込んじゃうような女の歌が多かったのですが、今回のCDは3曲とも優しい癒しの曲。これまでとは違う多岐川舞子にしてみましたが、皆さんがどう反応してくださるか、すごく楽しみです」

 

――自粛生活を余儀なくされた2年間だったと思いますが、その間、どんなことを考えて過ごしましたか。

「私は京都の出身で、東京は音楽をやるために出てきた場所です。それが音楽活動ができなくなって、いったい東京にいる意味はどこにあるのかってすごく考えました。これから何年後かにどこに収まっているのが幸せなのか、東京じゃなくても出来ることがあるかもしれないとも思ったし。実はこの間、怪我をしてしまったこともあって、しばらく実家に帰ったんですが、お菓子作りが大好きな妹がいて、ふたりで何かできないかなと思って、なんと食品衛生責任者の資格を取ったんです。ですから今、私は居酒屋なら開けるんですよ(笑)。
もちろん歌もいい形でやりたいと思っていますが、歌謡界もどうなっているか分からないし、50代にもなったし、10年後にはどうなっているだろうとか、やっぱり考えますよね。そんなこんな、いろいろ考えましたが、でもYouTubeなんかやっているのは、コロナが収束して歌手活動が再開したとき、モチベーションが下がってしまわないように、その準備のためでもあるんです。やっぱり楽器を弾いて歌っているのが一番楽しいし、YouTubeにアップする歌を録るのにスタジオに行って、歌詞とコードを書き込んだカードを作って、100円ショップで買った吸盤でそのカードを貼り付けて、カメラをセットして……。間違えたら最初から何回でもやり直しますし、集中するので1曲録り終わるとげっそりするほど。でも今はファンの皆さんと会えないので、せめてYouTubeで繋がっていたい。会えるようになったときに皆さんのテンションが下がっていないように、これからも楽しいことを考えやっていきたいと思っています」

 

――大変なことも多かったと思いますが、それでも33年間歌手活動を続けてこられたのは、歌手という仕事のどこに魅力を感じたからだと思いますか。

「やっぱり歌で心が伝わったときですよね。もしどなたかが私の歌を好きだと言ってくださったら、その方の心に何かが響いたということだと思うんです。歌を通じて聴いてくださる方に気持ちを渡すことができたんだと思うと歌ってきた甲斐があると思うし、ファンの方から次の歌も楽しみって言っていただけると、聴いてくれている人がいるんだと思って、力が湧いてきます。ファンの方からはよくお手紙をいただくんですが、その中で、お父さんを亡くされた方が私の失恋の歌を聴いて、“私を残していった”という歌詞に、自分の心情を代弁してくれたようでしたって書いてきてくれたことがありました。そういう受け取り方をする方もいるんだと思って、それにはちょっとグッときました。いろんな人生に触れることができるのも歌手という仕事をしているからこそかもしれません」

 

――最後に33年間を振り返りながら、これからの10年、歌手としてどんなふうに歩んでいきたいと思っているのかお聞かせください。

「19でデビューして、けっこう不器用でそんなに上手に立ち回ってこられなかったと思うんです。それでも周囲の方々にサポートしていただいてここまで歌ってこられました。私はやっぱり人と一緒に何かを作り上げていくのがすごく好きなんだと思います。この年になったから出来ることもあるし、少しずつ私の思っていることを周囲の人たちが分かってきてくれていると感じているので、これからどんな歌を歌っていけるか、今はワクワクしています。そういう気持ちはこれからの10年もずっと持っていたいし、持ち続けている限りやれると信じています。大きな方向性は分からないけれど、舞子ちゃんの出す曲はいいよねって言われたい。今もそうだし、変わらず10年後もそうありたいと思っています」

多岐川舞子『恋いちもんめ』

2021/9/22発売
COCA-17919 ¥1,350 (税抜価格 ¥1,227)
1.恋いちもんめ 作詩/蘭佳代子 作曲/杉本眞人 編曲/坂本昌之
2.柳川しぐれ  作詩/麻こよみ 作曲/徳久広司 編曲/南郷達也
3.幸せめぐり  作詩・作曲/多岐川舞子 編曲/矢田部正 【ボーナス・トラック】
4.恋いちもんめ (オリジナル・カラオケ)
5.柳川しぐれ  (オリジナル・カラオケ)
6.恋いちもんめ (半音下げカラオケ)
7.柳川しぐれ  (半音下げカラオケ)
8.恋いちもんめ (2コーラスカラオケ)

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