女性アイドルとセルフプロデュースは両立するのか~ヒャダインの歌謡曲のススメ#6~

2021.1.13

歌手としての活動だけでなく、前山田健一名義では、ももいろクローバー、AKB48といったアイドルから、SMAP、郷ひろみなどのビッグアーティスト、さらに、はやぶさへアニソンを楽曲提供するなど、ジャンルに一切とらわれない幅広い音楽活動を展開するヒャダイン。

そんな彼が心から愛する歌謡曲の魅力を徹底考察する連載。
第5回目のテーマは「女性アイドルとセルフプロデュースの両立です。


「アイドル」。日本語に訳すと偶像。

崇め奉られるものである一方、お人形さんとして「大人」という名前のスタッフや運営、さらにはファンに好き勝手されるといった側面もあります。
その感覚も男性アイドルと女性アイドルでは差があって、私も職業柄色んな現役アイドルに会うのですが、女性アイドルに「握手会のとき、お説教おじさんはいる?」と聞いたらかなりの確率で「います」と答えます。
一方、男性アイドルには直接的な「お説教おばさん」はあまりおらず、握手会などの実際に会える場になると緊張して話ができなかったり泣き出したり、「尊い」と言って逃げるように帰ったりなど、神格化する部分の方が大きいように思います。

さて。今回なのですがそんな「お人形さん」である女性アイドルが楽曲面、さらにはトータルプロデュースをすることに関しての見識を述べさせていただきます。

家父長制のなごりが押し付けるもの

前述の通り、女性アイドルは「お人形さん」である側面があります。これは古くから続く日本の家父長制にも起因する部分は大きいでしょう。
家長である父親が絶対的な権利を持ち、女性は三歩下がってついていく、といった古臭い考え方がまだ世の中にはこびりついていて、こんなに社会に女性が参画して「男女平等」、さらには「LGBTQ」の権利平等も訴えられる世の中で、未だ「男がエライ」と思い込んでいる人たちは少なからずいます。そして、彼らが自分よりも明らかに頑張っていて何なら社会的地位も上のアイドルにお説教するのは、そういう男尊女卑の部分は否定できないでしょう。
極端なまでの処女性を求め、「自分の配下」にあったアイドルが男性スキャンダルを起こそうものなら、「裏切られた」と発狂するのも「男がエライ」の大前提があるからかもしれません。

処女性を手放してクリエイティブを開花させた松田聖子

さて。話をセルフプロデュースの話に戻しましょう。
アイドルは基本的には作詞家・作曲家に楽曲を提供されて、さらにはプロデューサーによって全て楽曲面を作られて、本人は歌って踊る役割です。それはアイドルが出てきた当初から続くもので、提供された楽曲をいかに個性を出して歌うかによって、のし上がれ芸能界!といった前提でしょうか。

ここで松田聖子さんの例をあげましょう。
言わずとしれた大スター聖子ちゃん。山田邦子さんによって「ぶりっ子」という言葉で表現されるほど女性性が高く、素晴らしい歌唱力と珠玉の楽曲群で大人気となりました。
松本隆さんや呉田軽穂さん(松任谷由実さん)、財津和夫さんなどの一流アーティストによって名曲を連発。ご本人も大変にクリエイティブな方で作詞にトライしたりもされるのですが、ほとんどは提供楽曲でした。

しかし85年、郷ひろみさんとの破局、そして神田正輝さんとの結婚、出産によりライフステージが大幅に変化した後にクリエイティブが開花。岡田有希子さんにかの名曲『くちびるNetwork』を作曲家として提供、ブティック開業、さらに事務所独立、海外進出、そしてなんと1996年に『あなたに逢いたくて〜Missing You〜』で自身最大のヒット曲を作詞作曲するに至るのです。

結婚や出産、さらにはスキャンダルという処女性とは真逆の地点にいってようやくセルフプロデュースが成功したのは、松田聖子さんのファンの皆さんが彼女に処女性を求めなくなったことも一因でしょう。
実際彼女の書く歌詞は女性へのエンパワーメントだったり母性に溢れていたり、もはや三歩下がって男についていく女性ではないわけです。

男性に媚びることなく女性性を表現した森高千里

森高千里さんも大変おもしろいアイドルだと考えます。
彼女は超ミニスカートで脚線美をあらわにしてまさしくお人形さんのようなビジュアル。しかし彼女が他のアイドルと大きく違ったのは、ご自身で作詞をしていたことです。
しかもその歌詞の内容が男性に媚びたものや、「男がエライ」を助長されるようなものではなく、『ハエ男』では上司にすりより甘い汁を吸う嫌な男を揶揄したり、『私がオバさんになっても』では「所詮男は若い子が好きなんでしょ」という男性の身勝手さをさらっと表現したり、かなり女性寄りなんですね。


これは僕個人の意見なのですが、彼女のあのお人形さんのようなビジュアルを「セクシーだなあ」と感じたことはなく、逆に「かっこいいなあ」と感じていました。「女性」というものを楽しみながらでも媚びない女王のように見えたのです。
その後ご自身でドラムを叩いて演奏されたりとアイドルの枠を飛び越えたアーティストへと成長されました。

令和のアイドルは自ら輝く「偶像」であって欲しい

一方、2010年代のアイドルブームを思い返すとセルフプロデュースしたアイドルはほぼいなかったように感じます。
カップリングやアルバム曲でメンバー作詞、レアケースで作曲なんてものもありますが、シングル表題曲になることはめったにありません。これは推測で若干極論ですが、アイドルが自分自身の言葉やメロディーで発信することで「強いオンナ」のイメージとなり、ファンの「強いオトコ」が崩壊して「生意気だ」「お人形さんがしゃしゃり出るな」とでも思うのでしょうか。
アイドル自身が言葉を紡ぐことで処女性が崩れるのでしょうか。

最近でいえばBiSHBiSはメンバーが作詞していますが、彼女たちは「アイドル」と自称していません。やはり女性アイドルとセルフプロデュースは両立しないのでしょうか。

 

一方解散になったCy8erなどで活動する苺りなはむさんは、女性アイドルとセルフプロデュースを両立する新しい存在です。セルフプロデュースだけにとどまらず社長として色んなジャンルの創作物を生み出しています。きちんとご自身のアイドル性を維持しながら。

時は2021年。家父長制も年々衰えていっているのを肌で感じます。
性差による区別が「ダサい」となっている風潮の中、さらに女性アイドルによるセルフプロデュースが増えるのではないでしょうか。
あてがわれたものではない、自分発信で輝く「偶像」が増える世の中に私は期待をしています。

もちろん楽曲提供によって輝くアイドルがたくさん増えることも願ってますよ!!
そうじゃないと私の商売があがったりですからね!!!!

PROFILE


ヒャダイン

音楽クリエイター 本名:前山田 健一。
1980年大阪府生まれ。 3歳の時にピアノを始め、音楽キャリアをスタート。作詞・作曲・編曲を独学で身につける。 京都大学を卒業後2007年に本格的な音楽活動を開始。動画投稿サイトへ匿名のヒャダインとしてアップした楽曲が話題になり屈指の再生数とミリオン動画数を記録。
一方、本名での作家活動でも提供曲が2作連続でオリコンチャート1位を獲得。2010年にヒャダイン=前山田健一である事を公表。アイドル、J-POPからアニメソング、ゲーム音楽など多方面への楽曲提供を精力的に行い、自身もアーティスト、タレントとして活動。テレビ朝日系列「musicるTV」、フジテレビ系列「久保みねヒャダこじらせナイト」、BS朝日「サウナを愛でたい」、NHK「ヒャダ×体育のワンルーム☆ミュージック」が放送中。
YouTube公式チャンネルでの対談コンテンツも好評。

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