愛しのレコードジャケット<ムード歌謡編#2>

2019.10.4

前回は、歌謡史に残るようなヒット曲を中心に、ムード歌謡の魅力を紹介した。
今回は、あの「世界のキタノ」の相棒が歌った曲や、タイトルや歌手名にいわくがあったりなどなど、ちょっと変わったムード歌謡を取り上げてみよう。

雨の権之助坂/ビートきよし
作詞:伊豆田俊久 作曲:浦山秀彦


ビートきよしといえば、漫才コンビのツービート、ビートたけしの相棒として有名だが、元々「歌手になる」という夢を抱いて山形から上京し、歌謡学校に通うなど努力していたという。
「雨の権之助坂」は、クールファイブを彷彿とさせるコーラスやきよしのこぶしの効いたボーカルなど、聴いていて心地よい。
ムード歌謡の隠れた名曲である。

イライラ東京/三浦正弘とハニー・ブラザース
作詞・作曲:信楽順


怪しいスチールギターのイントロに「イライラ」だらけの歌詞。
一瞬コミックソングかと思いきや、ちゃんとしたムード歌謡である。
元々は「三浦正弘とアロハ・ブラザーズ」の名前で「ラリラリ東京」という曲を出したのだが、「ラリラリ」の歌詞があまり良くないという理由で「イライラ」に変えて再発したとのこと。(あまり変わらないと思う・・・)
三浦正弘とハニー・ブラザースは、後年「三浦弘とハニーシックス」として「よせばいいのに」をヒットさせている。

メロメロ東京/殿様キングス
作詞・作曲:信楽順三


三浦正弘とハニー・ブラザースの「イライラ東京」を、殿様キングスがカバーした異色作。
オリジナルがスローテンポのサイケ調なのに対して、殿キンバージョンは歌詞を「メロメロ」に変え、アレンジもテンポをアップして正調のムード歌謡に仕上げており、宮路オサムのねばっこいボーカルが良い味になっている。

愛の迷いみち/イカとタコ
作詞:伊藤悟 作曲:あべさとし


男女デュエットの極めて正調なムード歌謡だが、何といっても名前が「イカとタコ」である。
単にグループ名なのかと思ったのだが、歌詞カードには男女のパートごとに<イカ>と<タコ>とあるので、それぞれイカさんとタコさんなのだろう。
ちなみに、男性(狩野雅義)がイカ、女性(須藤祐子)がタコだそうです。

ラブユー貧乏/ロス・プリモス
作詞:高橋秀樹・上原尚 作曲:中川博之


フジテレビのバラエティー番組「俺たちひょうきん族」のコーナー「ラブユー貧乏」をレコード化したもの。
ロス・プリモスの名曲「ラブユー東京」のメロディとコーラスに乗せて、売れない芸人の貧乏生活の悲惨さを語るコーナーは当時大人気となった。
A面は番組と同じセリフ編、B面はロス・プリモスが歌う替え歌編となっている。
どんな内容の替え歌でも甘い歌声とコーラスで聞くと、ムード歌謡の名曲に聞こえてしまうから不思議だ。

傷恋/マリア四郎
作詞:高橋秀樹・上原尚 作曲:中川博之


マリア四郎は喉から絞り出すような歌い方が特徴的で、一部のムード歌謡ファンにはかなり知られた歌手である。
「傷恋」は、静かな前半から後半にかけて血を吐くような絶唱が聴けるなど、マリア四郎の魅力を存分に堪能できる1曲だ。
B面の「もだえ」は、文字通り”もだえる”ような歌い方がすごいと、小堺一磯と関根勤のラジオ番組で取り上げられたこともある上級マニア向けのムード歌謡だ。

なぜか埼玉/さいた・まんぞう
作詞・作曲:秋川鮎舟

元々は、自主製作のご当地ソングとして1000枚程度を制作された曲なのだが、「タモリのオールナイトニッポン」のリスナーがこのレコードを番組に送ったところタモリが面白がって曲をかけ、全国的人気になったムード歌謡である。
さいた・まんぞうの歌は抑揚が無く棒読みのように淡々と歌っているのだが、「埼玉」だらけの歌詞と共に、それがシュールで良いと一部のマニアから絶賛された。

 

いかがであろうか。
秋の夜長、ちょっと変わったムード歌謡を聞いて「ムフフ♩」と笑いながら、ウイスキーの水割りをちびちび飲むのもよいかも知れない。

この特集の別の記事を読む