J-POPの80s90sブームが終わらない~ヒャダインの歌謡曲のススメ#8
歌手としての活動だけでなく、前山田健一名義では、ももクロ、AKB48といったアイドルから、SMAP、郷ひろみなどのビッグアーティスト、さらに、はやぶさへアニソンを楽曲提供するなど、ジャンルにとらわれない音楽活動を展開するヒャダイン。
そんな彼が心から愛する歌謡曲の魅力を徹底考察する連載。
第8回目のテーマは「J-POPの80s90sブームが終わらない」です。
最近、20代さらには10代のアーティストが、1980年代後半、1990年代前半のアーティストに影響を受けた作品を発表することが増えていると感じます。(以降この時期をバブル期と表現します。)
2010年代前半にファッション界でも80sリバイバルがあって、私も一瞬ケミカルジーンズやセーラーズのスウェットを着ていた時期もありました。ファッションと音楽は密接なので同時期にバブル期ブームは再来した記憶がありますが、それが2020年代の今になっても続いています。
もはやブームではなく、バブル期音楽シーンが持つ強烈な魅力が時代を問わずアーティスト、そしてリスナーを魅了するのではないでしょうか。
今回はJ-POPのバブル期リバイバル作品を具体的に提示しながらその理由に迫っていきます。
20年前から始まっていた80sリバイバル
まず、80sリバイバルは近年に始まったことではありません。
2001年にTommy february6が『EVERYDAY AT THE BUS STOP』という楽曲で話題をさらいました。The Brilliant Greenのボーカルの川瀬智子さんによるプロジェクトですが、このサウンドがカイリー・ミノーグの『I Should Be So Lucky』やリック・アストリー、ジェイソン・ドノヴァンを思わせるような、いわゆるPWL系ユーロビートサウンド。
(※PWL:1980年代にユーロビート系ミュージックのプロデュースで世界的なトップブランドとなったピート・ウォーターマン率いる音楽レーベル。)
スタイリッシュと真逆にある、ややもすればダサいと言われてしまうようなジャンルですがそれをかっこよくかつキュートに仕上げたサウンドとMVは見事でした。
平成生まれアーティストのリバイバルクオリティと偏愛ぶり
最近のアーティストで同じくしてPWL系ユーロビートに影響を受けたアーティストとしてRyuchellをあげましょう。
タレントとして人気のりゅうちぇる君の音楽プロジェクトなのですが、彼の嗜好が完全にバブル期の欧米文化。私も制作に関わらせてもらったのですが、1995年生まれの彼の80s、90sに関する知識は見事なものでその偏愛に舌を巻いたものです。
『SUPER CANDY BOY』という作品はMVも完全に80s。画質や画角、演出やファッション全てが当時のそれ。再現度が完璧です。若い日のボーイ・ジョージを見ているような気持ちになります。サウンドも「80sを取り入れた」ではなく「まんま80s」を目指しました。
声優アーティストの降幡愛さんも語らずにはいられない存在でしょう。
1994年生まれのご本人がバブル期J-POPへの造詣とリスペクトが強くアーティストデビュー一発目から『CITY』というオメガトライブのような楽曲を出したかと思えば、『パープルアイシャドウ』というWINKと中村由真さんを合体させたようなヴィジュアルと楽曲を放り込んできます。
歌い方も当時のアイドル歌唱を意識していてこだわりを感じます。
さらにはリリース当時16歳!トラックまで自分で作る天才アーティストSASUKEによる『J-POPは終わらない』。
こちらは冒頭、岡村靖幸や大江千里、槇原敬之やKANを思わせるようなサウンドから始まり、途中から最新のEDMサウンドに変化するというハイブリッドソング。MVもバブル期のTVアニメの再放送のような映像が懐かしくもおしゃれです。歌詞の内容も昔のJ-POPへのリスペクトが描かれており、近年のバブル期ブームを体現するかのような楽曲です。
閉塞感の強い現代にはない”突き抜けた自由感”
さて、何故若いアーティストがバブル期に惹かれるのでしょうか。
彼らが抽出する要素から判断すると、やはり好景気からもたらされた圧倒的な元気の良さ、そして向こう見ずな突き抜け感ではないでしょうか。
バブル期のクリエーションは迷いがないんですね。それゆえの音楽的な強度の高さ。
これはバズらないんじゃないだろうか」とか、「これは炎上するんではないだろうか」といったストッパーがまるでない。
我々2021年に生きていると意識しないでおこうと思っていてもストッパーがかかってしまう、そんな印象があります。そんな息苦しさがデフォルトになっている時代に生まれついたZ世代のフラストレーションが、あまりに自由だったバブル期への憧憬を強めるのではないでしょうか。
自由な社会から生まれる自由な音楽的発想。
音楽面だけではなく、テレビ番組やゴシップの内容もバブル期はめちゃくちゃですからね!!そういったものをYouTubeで後追い視聴することでますます憧れは強まるのでしょう。
権利的にはアウトですがYouTubeは映像作品化されていない当時の音楽番組やバラエティがアップロードされています。それらが現代のアーティストに与えた影響は計り知れないのではないでしょうか?(是非公式には映像アーカイブを有料配信してほしいものです!)
ネットの進化によって炎上に恐れるようになったエンタメ業界。
さらにはコロナという未曾有の災害に襲われた現代。
頭パッカーンと元気だったバブル期のエネルギーが少しでも戻ってくれば、とリバイバル作品を聴きながら思いを馳せる私です。
PROFILE
ヒャダイン
音楽クリエイター 本名:前山田 健一。
1980年大阪府生まれ。 3歳の時にピアノを始め、音楽キャリアをスタート。作詞・作曲・編曲を独学で身につける。 京都大学を卒業後2007年に本格的な音楽活動を開始。動画投稿サイトへ匿名のヒャダインとしてアップした楽曲が話題になり屈指の再生数とミリオン動画数を記録。
一方、本名での作家活動でも提供曲が2作連続でオリコンチャート1位を獲得。2010年にヒャダイン=前山田健一である事を公表。アイドル、J-POPからアニメソング、ゲーム音楽など多方面への楽曲提供を精力的に行い、自身もアーティスト、タレントとして活動。テレビ朝日系列「musicるTV」、フジテレビ系列「久保みねヒャダこじらせナイト」、BS朝日「サウナを愛でたい」が放送中。YouTube公式チャンネルでの対談コンテンツも好評。