三刀流歌手・彩青の探求心は、伝統の大衆芸能から令和のポップス、世界の民族音楽まで!「彩青そのものが音楽でできています」

2022.4.20

唄、三味線、尺八を操る三刀流歌手、彩青(りゅうせい)が、4月20日にニューシングル『沓掛道中』(作詞:仁井谷俊也、作曲:四方章人、編曲:伊戸のりお)をリリースした。民謡で培われた伸びやかな歌声が響きわたる本作は、2019年のデビュー作『銀次郎 旅がらす』以来の股旅演歌。曲間ではセリフも織り込まれ、中山道・沓掛宿を舞台に、長谷川伸「沓掛時次郎」の情景がありありと目に浮かぶような歌世界が展開する。『沓掛道中』のレコーディング秘話をはじめ、民謡をもっと親しみやすくしたいという細川一門の思い、YouTubeでトライした令和ポップスのカバーから学んだこと、プライベートで伝統的な大衆芸能を調べ尽くす理由など、19歳の若き歌い手に音楽と向き合う日々について聞いた。


三刀流の二手が活かされた令和バージョンの股旅演歌

――彩青さんにとっては、『「津軽三味線ひとり旅」青春十八番盤』以来、1年ぶりのCDリリース。『沓掛道中』は、四方章人先生ならではの軽快なサウンドに、彩青さんの明るくさわやかな歌声が気持ちいいですね。

なんて明るい歌なのだろう!というのが曲をいただいたときの印象です。前作の『津軽三味線ひとり旅』はどっしりとした本格的な演歌でしたが、『沓掛道中』は本当に明るくて、自分でも彩青にぴったりという令和バージョンの股旅演歌です。曲冒頭の尺八も吹かせていただいていますが、唄と尺八という三刀流の二手が活かされていますので、たくさんの方に聴いて、唄っていただきたいですね。この混沌とした時代に微々たる力かもしれませんが、明るいこの歌でみなさんに元気をお届けしたいという思いがあります。

――まだ10代の彩青さんが、股旅物のイメージをどのように掴んで、歌の世界を膨らませているのでしょう。沓掛は今の中軽井沢ですし、現代の若者には想像しづらい部分もあると思われますが。

祖母の影響で昔から時代劇が大好きでしたので、かつて目にした映像が浮かんできやすいですね。『瞼の母』を唄うときも、今回の『沓掛道中』でも詞の世界観はわりとスッと出てくるんです。それに動画配信サイトで時代劇映画やドラマも見ることができますからね。そして、なにより橋幸夫さんの『沓掛時次郎』や三橋美智也先生の股旅演歌を聴いていますので、股旅物の世界観にとまどうことはありません。近世以前の日本史にも興味がありますので、調べたりもしますが、唄うにあたっては、詞の世界を理解するために古書店で関連の書籍を探すこともあります。インターネットもよいですが、書籍で読むのは、また情緒が違いますから。なんでも調べたくなるんです。清水次郎長や浪曲「石松三十石舟」の森の石松など、当時の中山道や東海道には面白いエピソードがたくさんありますよね。

苦労したセリフの語りと師・細川たかしからの助言

――『沓掛道中』の歌唱について、師匠の細川たかしさんからのご指導はあったのですか?

レコーディングの際は師匠が立ち合ってくださいます。歌唱方法はもちろんですが、今回のレコーディングでは、師匠が思い描く股旅の世界をたくさん教えていただきました。セリフが入るオリジナル曲に挑むのは初めてだったので、その言い回しには大変難儀しました。最初は何度か自己流でセリフを語ってみたのですが、巻き舌になったり、ベタッと冗長になったりしてしまうことを師匠から指摘されました。師匠も時代物がお好きでいらっしゃいますので、昔の仁義や啖呵の切り方、歯切れのよい言い方などを細かく教えていただき、多くのことを学ばせていただきました。セリフって難しいと実感しました。

――彩青さんは幼少期から民謡の歌い手でもありますが、演歌・歌謡曲で連綿と受け継がれてきたセリフ入りの歌は、民謡とは全く異なる世界ですね。

セリフが入るのはどちらかといえば浪曲の世界。民謡は本当に「唄」ですから、セリフは入りません。僕は浪曲も好きなのですが、演歌、歌謡曲、浪曲、いろいろな先輩方の唄い方、セリフの語り方を聴いて、今も勉強しています。

――セリフ以外で、この曲の歌唱や表現方法で特に工夫された点などはありますか。

一~三番からなる詞の構成全体が、時次郎のドラマとなっています。一番は時次郎が中山道を歩きながら故郷を思い出しているのですが、その情景を伝えるために頭の中で詞を映像化して唄うことを大切にしています。二番は母と子の愛情ですが、三番は堅気を夢みながらも一宿一飯の恩義から人を斬らねばならないという現代では考えられない痛切な思いを描いた内容なので、三番をうまく表現することに気を使いました。テレビでは一番から三番へと唄うこともあるので、断片的な感じにならないために、どのように思いを込めて唄えばよいかという点にも難しさがありました。僕の作品の捉え方とは厚みが違いますので、師匠のお考えをうかがい、こういう風に唄った方がよりよくなるということを教えていただきながら、この曲に取り組んでいきました。

歌にはこれでいいという完成形はない

――明るく高らかに歌い上げる歌唱は、師匠をほうふつとさせます。昨年の「うたびと」の取材では、演歌を唄う際に、民謡的な唄い方が前に出てくることに気を付けているとおっしゃっていましたが。

こぶしが回りすぎるということなのですが、演歌を唄う際に完璧に抜けたかと言われれば、まだまだのところもあります。昔の曲のカバーしていくためにも、師匠のようにいろいろなジャンルの歌を唄い分けることが今の課題です。本物の民謡を唄えなきゃいけない、また、演歌、歌謡曲、ポップス、時にはカンツォーネ的な唄い方も必要になります。コロナ禍以降、内弟子として師匠と生活を共にしながら稽古をそれまで以上につけていただき、改めて勉強させていただきました。日々気づきの連続ですが、とにかく稽古するしかありません。師匠もよくおっしゃるのですが、歌の世界はこれでいいという完成形がありません。ある地点に到達したら、次の地点まで行かねばならないという果てしない闘いが続きます。ちょっとずつ成長できているとは思いますが、改めて厳しい世界だとも感じています。三橋先生はかつて「私は今まで『江差追分』を満足して唄ったことがない」とおっしゃっています。あれだけの大御所になっても常に勉強なのだと心に銘じました。

――イチローさんのようなトップアスリートたちの感覚につながるお話ですね。

唄も三味線も稽古を1日怠ると元通りの声や音に戻りません。のどを使わないと、声が起ききらない、いい声にならないんです。壊さないように注意しなければなりませんが、身体の他の筋肉を鍛えるのと一緒です。特別なトレーニングはしませんが、きちんと唄う稽古を重ね、正しい筋肉をつけるように心がけています。気を付けているのはしゃべるとき。唄うときは意識してのどを使いますが、しゃべるときは無意識に変な使い方をしてしまうこともありますから。

――『沓掛道中』では、尺八もご自身で演奏されていますね。

実は前作の『津軽三味線ひとり旅』をレコーディングした際、この『沓掛道中』も1度レコーディングしているんです。とてもいい歌なので、そのときは温めておくことになったのですが、今回新たにレコーディングするにあたり、自分の演奏で尺八の音も入れ直しました。曲の冒頭になりますが、尺八も彩青が吹いているんだなと、ぜひ注目して聴いていただければと思います。

――カラオケで楽しむためのポイントは。

この曲は自分に合わせて、キーが少し高めになっていますので、特に男性の方はキーを下げていただくと、高音がきつくならず、楽に唄えるようになると思います。女性はそこからキーを上げるなど調整してみてください。情景豊かな歌詞なので、その場面を心に思い浮かべながら唄うといいですね。そして、盛り上がるのがセリフの語り。ここがみなさん一番気持ちよくなる瞬間になるでしょうから、ご自身で語り口をアレンジしていただいても楽しいと思います。

次ページでは細川一門の思いや、海外の民族音楽や日本の大衆芸能からの学びについて明かす!

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