松前ひろ子が新曲『居酒屋 夢あかり』をリリース 「かず翼先生が私を思いながら書かれた詞の世界です」

松前ひろ子
2023.5.10

デビューから53年、全国のカラオケファンから熱烈な支持を受ける松前ひろ子が、5月10日に新曲『居酒屋 夢あかり』(作詞:かず翼、作曲:弦哲也、編曲:竹内弘一)をリリースする。これまでも夫婦のさまざまな愛の形を歌で紡いできた「夫婦歌」の名手が『居酒屋 夢あかり』で描くのは、亡き夫が遺した居酒屋の暖簾を一人で守り続ける女将の心意気と心の内に秘めた悲しみ。天国の夫に語りかけるようなその歌世界は、歌手活動と並行しながら、夫で作曲家の故・中村典正とともに愛弟子の三山ひろしを育て上げ、遺された会社ミイガンプロダクションを今も切り盛りする松前自身の姿を思い起こさせる。『居酒屋 夢あかり』に込めた思い、デビュー15周年を迎えた三山ひろしについて話を聞いた。


耐える笑いがないと悲しみは伝わらない

松前ひろ子

――『居酒屋 夢あかり』では、夫婦二人で営んできた居酒屋を夫が亡き後も一人で守り抜いている女将の姿を歌われていますが、主人公にご自身に重ね合わされるところも多いのでは?

作詞のかず翼先生からは、松前さんのことを思って書きましたと言われ、あぁ、やっぱりそうかと思いました。歌の舞台は居酒屋ですが、実はミイガンプロダクションでもあるのだそうです。自分もがんばるわ、だから見守っていてねという詞の世界観は、かず先生が私を思いながら書かれたそうです。主人を亡くし、その後を守っていくという女性の姿勢を描いていますので、私自身も歌っていて主人公になりやすかったです。

――世の中には旦那様や奥様を先に亡くされた方が大勢いらっしゃいます。そういう方々からも共感を呼ぶ歌だと感じました。

みなさんの中で、お一人でがんばっている方々に聴いていただきたいですし、またこの曲を歌っていただくことで、「お母さんがいなくても俺は頑張るよ」「お父さんがいなくても私は頑張ります」という、ひたむきな姿を笑顔で表現してほしいと思っています。

――笑顔で表現するといえば、以前のインタビューで、従兄で歌の世界の師でもある北島三郎さんから「悲しい歌は笑って歌え」と教えていただいたとおっしゃっていましたね。

「笑って」というのは、げらげら笑うのではなく、悲しいからこそ耐えて笑うということです。その耐える笑いがないと、悲しみが伝わりません。「悲しいけど、大丈夫。私は頑張るのよ」と見せるその笑顔があるから、かえって悲しみが伝わると私は習ってきました。涙を流しながらでも笑って歌えば、悲しみが倍増するぞと。だから若い頃、北島からは「笑って歌えー!」とよく叱られました。でも、その頃は、なんで悲しい歌を笑って歌わなきゃいけないの!と、ひそかに反抗する気持ちがありました(笑)。今では、北島の教えがよく分かります。

――50年以上にも及ぶ歌手生活の中でも、分かってくることがあるのですね。

本当に今でも勉強です。前作の『相合い傘』は、北島が作曲した作品ですが、レコーディングでは、出だしの「雨が」の歌唱を北島から「違う!」と指摘されました。歌い始めなので、私は声を張りたい。でも、それでは嵐の雨だと言われました。相合い傘に二人で入れるくらいの雨だから、しっとりとした間のやさしい雨なんですね。何度も歌い直しましたが、なるほど、たった「雨が」の一言が、こんなにも違うのかと。ただ声を張り上げればいいのではなく、詞の意味をわきまえて歌わないといけないと改めてかみしめました。

――『居酒屋 夢あかり』は、悲しみを乗り越える主人公の姿が前向きです。松前さんの歌唱にも、温もりと明るさを感じました。

主人公の頑張りを暗く見せるか、明るく見せるかですね。その駆け引きがこの歌の歌唱法の分かれ目になるかと思います。年齢を重ねるにしたがって、より理解できる世界だと感じますので、世の多くのお母さんたちなら、この曲を上手に歌っていただけると思います。

――明るい笑顔の裏での悲しみ。人生の哀歓はまさに演歌ですね。

本当に演歌ならではの世界だと思います。

小さな居酒屋一軒の中だけのありのままの語り

松前ひろ子

――歌い方のポイントになる部分を教えてください。

この歌は一軒の居酒屋の中だけのありのままの語りです。小さな世界で自分のお父さんに対する気持ちを歌っているだけなので、声を張り上げていくようなパートはあまりありませんが、ポイントはサビの最後の行です。ここはみなさんが歌ったぞーっていえる歌唱法で、ゆったりと明るく歌ってほしいです。とんとんとんと流れされていかずに、最後の行の出だし「笑顔でともす」を歌詞どおりに笑顔で力強く歌ってくだされば、歌のしまりがよくなり、鐘もカンカンカンと三つ鳴るんじゃないかと思います(笑)。

――情念系演歌などとは異なる、とてもミニマルな世界ですね。

空へ向かってあーって叫ぶ感じではないですよね。本当に部屋の中だけの一人語りなの。その世界観を出すために、ミュージックビデオもスタジオの居酒屋を借りて撮影しました。でもスタジオだから居酒屋なのにお料理が何もないんです。だから私が全部料理して家から運びました(笑)。たぶんお料理が用意されていないだろうなと思っていたから、大正解。カウンターの大皿に私の手料理を並べて、お客さん役でうちの社員やスタッフを席に座らせて、撮影しました。

――カップリングの『待雪草(まつゆきそう)』(作詞:さくらちさと、作曲:弦哲也、編曲:竹内弘一)は、夫婦歌ながら男性目線の歌です。

近年発表している作品は「ねぇ、あなた」という感じの夫婦演歌が中心なので、男歌でもある『待雪草』は取り組んでみたかったタイプの曲です。悪いなお前と言いながら、飲みに行ってしまうような呑兵衛の男性が主人公ですが、歌詞に出てくる「惚れた惚れたよ」という男心がかっこいいんです。不甲斐ないぜと詫びながら、最後はお前と生きていくと呟く、こういう男性をかっこよく歌いたかったんです。もちろん夫婦演歌は大事にしながら、身を焦がすような恋をしている激しい女性なども歌っていきたいですね。再来年9月の歌手デビュー満55周年までに、夫婦演歌以外の歌もチャレンジしていければと思っています。

三山ひろしが花咲けば自分の花も咲く

松前ひろ子

――今年、お弟子の三山ひろしさんが、歌手デビュー15周年を迎えました。三山さん、中村典正先生と三人四脚で歩まれてきた15年間の歩みを、今どのようにお感じになっていますか。

まずは三山ひろしを作ってくださった、スタッフ、メーカー、そして何より支えてくださったファンのみなさまに心から感謝しています。また、いくら歌がうまくて、トークが楽しくても、三山の人間性が悪かったらここまで来られなかったし、守ってくださる方が力を入れてくださらなかったと思います。三山のステージがある時、私はロビーでお客様を接客していますが、三山のビタミンボイスで元気になったと、車いすになっても応援しに来てくださるお客様がいらっしゃいます。そういう方々がいて、今の三山があるのだと思いますし、三山自身もそれに応えようとして、誰よりも努力したと思います。私たちが努力をしろと言ってできるものではありません。お客様から与えられたことを倍にしてお返しし、拍手をいただいた時が自分の喜びで、それが努力の結果だと思えば頑張れると本人も言っておりました。それは歌手として最高の歩み方だと私は思います。

――三山さんは先日、第44回松尾芸能賞の優秀賞も受賞されました。

芸歴数十年の方々の中に入れていただいたことで、15年の自分は場違いではないか、そこまでの境地には達していないのではないかと本人も悩んだようです。推薦を受けたということは、三山のことをどこかで認めてくださる方がいたと思いますので、だからさらに勉強しましょうということを私も彼に話しました。歌の世界でも15年はまだまだです。ただ15年の中で、ありとあらゆることを努力しています。彼の努力が花を咲かせ、裏で支えてくださるスタッフの方やファンのみなさんが認めてくださることで、三山ひろしを日本一にしようと私がやってきたことにも花が咲き、ご褒美をもらう思いです。だから私はみなさんへお礼するために、どこの劇場に行ってもロビーでお客様をお迎えするのです。

歌好きが集う松前会が楽しい!

松前ひろ子

――経営されているライブレストラン青山では、若手演歌歌手ののイベントやライブに会場を提供されるなど、若手歌手の活動にも力を貸していらっしゃる印象があります。

一人の歌い手ではあるけど、時にはプロデューサー、時にはプロダクションの社長、時には母という立場を自分の中で切り替えています。若い人でも悩みがあって相談に来られたら、こんな私でも役に立つのであればと人様にお会いします。そういう時間を惜しいと思ったことはないですね。実は先日もテレビで知り合った悩みを持つ歌手の方が、お母様と二人でお見えになったので、自分の経験を踏まえて、お話をさせていただきました。

――演歌・歌謡界全体の後押しするようなお気持ちがあるのでは。

北島音楽事務所からのれん分けとなる北山たけし君や大江裕君は、三山と同じく特に身近に感じます。たとえば記者発表など、今後会場がなくて困っている場合は、ライブレストラン青山を何かの役に立ててと二人には言いました。まだまだライバルが多い世代なので、顔では笑っていても、心では誰にも負けないようにしなさいねとアドバイスしました。

――ライブレストラン青山で定期的に開催されている松前会とはどのようなイベントですか?

とても楽しいんですよ。ファンのお客様がお見えになるのですが、自分の歌を聴いてほしい人ばかりです。まず乾杯したら、自分の好きな歌を2コーラスずつ歌ってもらい、私がワンポイントの歌唱指導をしていくんです。全員が歌い終わったら、私がトークをして、最後にミニコンサートで3曲ほど歌います。新曲も松前会で初めてお披露目することが多いですね。

――7月~9月に予定されている『居酒屋 夢あかり』『待雪草』発売記念の「カラオケ大会&体験レコーディング」は、3回開催されるカラオケ大会の各回の優勝者が、スタジオで体験レコーディングできるという、カラオケファンにはたまらないイベントですね。

コロナ禍での中止を経て、前作の『相合い傘』で3年ぶりに大会を実施しました。今回は3人のグランプリがレコーディングします。毎回、参加者のみなさんが素晴らしく上手なんです。私はニコニコして聴いて、間違った瞬間に言ってさしあげます。どんなに他が上手くても間違ったらだめなんです。嘘がないのでみなさん納得してくださいます。

お世話になった町に恩返しがしたい

松前ひろ子

――松前さんは多趣味で知られていましたが、最近夢中になっていることはありますか。

以前は、お箏と三味線、日本舞踊をやっていましたが、現在はもっぱらネコと一緒に過ごすことが幸せです。もともとネコは嫌いだったのですが、ネコ好きの息子から「お母さん、ネコといると心安らぐよ」と言われて飼うようになりました。スコティッシュで、現在はミミちゃん、クラちゃんの夫婦とその子どものギンちゃんの3匹がいます。ネコは自分が誰だか分かるんですね。それぞれ名前を呼ぶと、振り向いてやってきます。

――デビュー55周年でやりたいことはありますか。

まだアイデアを温めている段階ですが、故郷や観光親善大使を務めさせていただくなど、お世話になった町になんらかの形で恩返しができればと思っています。たとえば自分の持っている着物はたくさんあるのですが、後輩に差し上げるほかは、一部を欲しい方にチャリティーでお譲りして、そのチャリティーで集まったお金を基金にして、町に寄付させていただく活動などができればと思っています。

――最後にファンの方へのメッセージをお願いします。

デビューから年数は53年ですけど、歌えなかった8年があります。その8年分を今から大切にしっかりと足を地につけて、いえいえ、三山ひろしを見習ってがんばりたいと思います(笑)。どうぞよろしくお願いいたします。

松前ひろ子

松前ひろ子『居酒屋 夢あかり』

2023年5月10日発売

品番:TKCA-91515
価格:¥1400(税抜¥1273)

【収録曲】

1. 居酒屋 夢あかり
2. 待雪草
3. 居酒屋 夢あかり (オリジナル・カラオケ)
4. 待雪草 (オリジナル・カラオケ)

<あわせて読みたい>

松前ひろ子 新曲は「前向きオーラ」に満ちた応援歌。 愛弟子・三山ひろしと一緒に、日本中に元気と勇気と笑顔を届けたい
松前ひろ子 新曲『春隣り』生配信発表会を開催 カラオケ大会に向けて歌う際のポイントも伝授
新譜!にっぽんのうた~ノーカット編~松前ひろ子「夫婦鶴」
『遅咲きでも、きっと花は咲く』――亡き夫の言葉を胸に、松前ひろ子が50周年記念曲『夫婦鶴』を熱唱

関連キーワード