“懐メロボーイ”三丘翔太が新曲『釧路発5時35分根室行き』をリリース! 「こぶしを回す戦後のブルースの歌い方を意識しました」

2023.10.30

戦前の歌謡曲黎明期から戦後の全盛期に至るまで、昭和歌謡のエッセンスを凝縮し、令和の時代に再構築して届け続けている“懐メロボーイ”三丘(みつおか)翔太。10月18日に発売された9枚目のシングル『釧路発5時35分根室行き』(作詞:さくらちさと 作曲:水森英夫 編曲:竹内弘一)は、懐メロ色を強く打ち出した前作『発車のベルが長すぎる』を踏襲し、三丘の深みのある歌声と奥行きのあるサウンドで懐かしさと切なさに満ち溢れた一曲に仕上がった。幼少期からカラオケで昭和歌謡に親しみ、中高時代に吹奏楽部で活動した経験から、単なる懐古趣味ではない演歌・歌謡曲の持つ音楽的な奥深さを掘り起こす姿勢や、蝶ネクタイマニアとして登場し反響を呼んだ人気バラエティー番組出演時のエピソードなどを交え、新曲の注目ポイントについて話を聞いた。


レコーディング前日に歌唱法を急遽変更

――新曲『釧路発5時35分根室行き』は、どのような作品ですか。

3連のマイナー調のメロディーで、昭和をイメージさせる懐メロ感がある曲です。根室の街に置いてきた思い人を迎えに行く男性が主人公のドラマティックな設定です。なんともいえない哀感のあるメロディーラインなので、ぜひ聴いていただきたいです。時刻表のダイヤをそのまま冠したタイトルの長さには、僕もびっくりしました。

――前作『発車のベルが長すぎる』は懐メロの香りが色濃い作品でしたが、本作も懐かしさにあふれていますね。

前作は懐メロでもイメージとしては、藤山一郎さん、東海林太郎さん、ディック・ミネさん、灰田勝彦さんらが活躍した戦前にヒットした流行歌のブルースでした。『釧路発5時35分根室行き』も制作にあたり、当初はその時代を想定していたのですが、アレンジができあがり、リズムまで乗ってきたときに、歌唱法として戦前というよりは、ちょっとこぶしを回す戦後のブルースの歌い方を意識しました。前作よりもわりと新しい時代、といっても昭和30~40年代くらいの懐メロ感なのですが(笑)。

――確かに前作は藤山さんや東海林さんを彷彿とさせる朗々とした歌い方をされていましたが、今回は演歌に少し寄ったような印象を受けました。

最初に水森先生から曲をいただいたときは、まさに前作のように朗々とした感じで歌っていたんです。いざ竹内先生のアレンジが入ったとき、その歌唱法がうまくはまりませんでした。前作と同じく汽車をモチーフにした歌なので、おそらく竹内先生は差別化も意識されてアレンジされていると思うんです。一口に懐メロといっても、伴奏のリズムの入り方が異なるんですね。そこで水森先生と急遽歌入れのレコーディングの前日に歌を作り直したんです。こぶしを作って、戦後のブルース演歌の雰囲気に作り変えました。レコーディングは大変でしたが、これからステージやキャンペーンで歌い重ねていくことによって、どんどんできあがっていくと思います。

――朗々バージョンもちょっと聴いてみたいです。

個人的にもやってみたいですね。伴奏によって変わると思います。どんな歌もいろいろな歌い方ができると思うんです。ステージによっては、戦前の流行歌のように歌うかもしれません。それはそれでこのような歌い方もありなのだなとお客様にも感じていただけるのではないかと思います。

――『釧路発5時35分根室行き』は、そのような歌い分けができる歌なのかもしれませんね。

水森先生によるもともとのメロディーラインが懐メロを意識されて作られていますからね。マッチしないことは絶対ないので。カラオケファンのみなさんは、戦前流行歌風でも戦後ブルース演歌調でも、さまざまな歌い方で楽しんでいただければうれしいです。

イメージするのは北海道の雄大な風景

――冬の汽車で北国の最果ての地へ向かうというモチーフはとても演歌チックですが、三丘さんの歌声は寂しくなりすぎず、どこか明るさも感じさせるような温もりを感じました。このカラッとした感じも昭和歌謡らしさと言えるのでしょうか。

この曲に関して言えば、あまり感傷的になりすぎないようにしているところが一つ挙げられます。根室に残した思い人を迎えに行くという希望感のあるテーマなので、悲しくならないように心がけています。また、作詞のさくら先生は、実際この列車に一人旅で乗られたことがあるそうで、実際目にされた風景を詞で表現されています。僕も北海道の雄大な景色のスケール感に意識を置いて歌っていますので、それが明るい印象につながっているのかもしれません。道東は水森先生も年に1回は必ず行くくらいお好きな場所で、山内惠介さんの『風連湖』など北海道の歌も数多く発表されています。さくら先生の歌詞は、その水森先生が「実際に見たことがないと、この詞は書けないよね」と絶賛されていたほど写実的な表現です。大雪原の中を一両の列車がザーッと雪煙をたてながら朝陽に向かって走っていく情景を思い浮かべて歌っています。

――さくら先生の描く詞の世界観をどのように捉えていますか。

今回初めて書いていただいたのですが、やさしくもあり、かっこよくもある男歌で、心の機微を捉えられていて、目に浮かぶような描写が散りばめられています。「白いマフラー」というJポップのようなロマンチックな言葉を、昭和懐メロのメロディーの曲に使っていただいたことにもびっくりしました。この作品は、歌詞を先に書いていただいたのですが、この詞にあてて水森先生が曲をお書きになったのもすごいと思いました。新鮮な気持ちで歌わせてもらっています。

――サビで鉄道の発車時刻をそのまま歌うことに驚きました。歌いづらさはないのでしょうか?

不思議なことに「釧路発5時35分根室行き」と普通に抑揚をつけずに言うよりは、メロディーが乗ると言いやすくなるんです。時刻が歌詞に出てくると言えば、昔の歌では、フランク永井さんの『羽田発7時50分』などもありますよね。歌詞にストレートな時刻をあえて取り入れることで、時代感やリアリティを感じさせる言葉の魔法の一つですよね。『大田ブルース(テジョンブルース)』の「大田発0時50分」もそうですね。『釧路発5時35分根室行き』で言えば、34分でも36分でもない35分、ここになにか言葉のトリックのような面白みがあります。

――今年で30歳、平成生まれの三丘さんは、ザ・昭和の世界観をどのようにイメージして歌に落とし込んでいるのですか?

僕らの世代は、ミレニアム世代とかY世代とか言われます。昭和から比べると便利な時代に生まれたのかもしれませんが、現在と昭和を結ぶちょうど中間地点に生まれているので、昭和は想像できなくはない世界でもある気がしています。自分の生まれた時代のことをふと思い浮かべると、昭和の匂いもどこか感じるんですよね。

――昭和歌謡を理解するうえで、おじい様、おばあ様が経営されていたカラオケ喫茶の影響も大きいのでしょうか。

カラオケは大きいですね。分厚い歌本を見て番号を入力するレーザーディスクカラオケの時代から親しんでいましたから。子どもの頃はカラオケ映像をドラマや映画を見るような気分で楽しんでいました。「なんだ、このネオン街は!」って。そういった部分で同世代の他の子どもよりは、昭和の雰囲気を日々感じていたのかもしれません。

懐メロと令和のJポップの意外な共通点

――“懐メロボーイ”といわれる三丘さんから見て、令和の時代の演歌・歌謡曲とは異なる懐メロの素晴らしさ、面白さをどのようなところに見いだしているのでしょう。

まず曲も歌詞もシングルレコードに収まるサイズありきで作られていたわけですから、言葉も研ぎ澄まされて、4行詞・5行詞という世界でいかにキャッチ―で大衆の心を掴むかで勝負していたところが昭和のポピュラーソングの魅力ですね。考えてみれば、現在Spotifyなどで3分以下の曲が流行っていたりしますが、楽曲が短いことはまさに同じですよね。その点では、昭和の懐メロも令和のJポップと通じる部分があると思います。

――当時は、曲作りにコンピューターも使われていませんでした。

楽器もマイクの数も限られ、ベースもドラムも管楽器も弦楽器も歌もすべてモノラルでミックスするというところにもロマンを感じますよね(笑)。昭和歌謡を聴くと、どこでどういう音を拾い上げたらよいかという制作陣の創作の跡が見えてきます。僕もYouTubeで自分が歌うカバー曲のアレンジをするのですが、昭和の音楽制作者は無駄がないところがすごいなと思いますね。ここではクラリネットだ、アコーディオンだと、歌の感情の起伏に合わせて楽器も効果的に使われていることに無駄のなさを感じます。

――単純に昔の音楽をなぞるのではなく、昭和歌謡からこれまでいろいろ学んできたことをご自身の曲に投影されているのですね。

アレンジの先生ともレコーディングのときにお話しして、このパートはこういう思いだからこの楽器を使っているんですねと、先生の意図をうかがいます。一般的には作詞作曲だけに重きが置かれがちですけど、僕はアレンジが大好きで、普段からオリジナルカラオケをずっと聴いているくらいです。アレンジで曲の方向性が最終的に決定づけられるところもありますので、なぜそのようなアレンジにしたのか、先生の考えをうかがうのが面白いですね。『釧路発5時35分根室行き』のイントロは、最初トランペットだったのですが、列車ではなく船の感じになってしまうとなって、竹内先生がその場で楽譜を書いて、急遽サックスに差し替えたんです。演歌・歌謡ならではの音作り、音遊びがあるので、その魅力がこの曲で伝わったらいいなと思います。デジタルミュージックが主流の中で、徹底的にアコースティックにこだわっているジャンルだと思うので、音の厚みにも注目していただくと、演歌・歌謡曲も面白いなと思ってもらえるのではないでしょうか。僕は吹奏楽をやっていたから、自分もその曲を構成する楽団の一員だと思っているんです。その中でメロディーラインを歌っている者という感じです。歌い手としてメインでやらせてもらってはいますけど、自分も合わせて全部で一つの曲になっているという思いがあります。

歌謡曲の毒を持つムード歌謡に初挑戦

――カップリングの『捨てられないの』(詞:さくらちさと 曲:水森英夫 編:竹内弘一)は、昭和ムード歌謡の趣が濃厚ですね。

ムード歌謡全盛期の1970年~80年代のコーラスグループの曲のようです。水森先生は、もともとムード歌謡を僕に一度やらせてみたかったようで、それをまったく知らずにポンと譜面を渡され、『捨てられないの』って何?って (笑)。

――三丘さんの声も甘くて、ツボにはまる人も多そうだと感じました。

個人的にはムード歌謡が大好きで、僕がそこまでこのジャンルが好きだとは水森先生もご存じなかったんです。レコーディングで、なんでこんなにマッチするんだ!ということで、『捨てられないの』をメインにしてもよいというくらい、先生の思い描いていらっしゃったレベルに近い完成度の高い作品となりました。

――ご自身が思うこの曲の魅力は。

毒がありますよね。まさに昭和ムード歌謡を令和の時代に作ってしまったという感じです。アローナイツ『中の島ブルース』、サザンクロス『足手まとい』、ロス・インディオス『知りすぎたのね』、ハッピー&ブルー『わたし祈ってます』などと一緒に並んでいそうなタイトルです。ムード歌謡をオリジナル曲としていただいたことは初めてなので、今回初めてのトライなのですが、癖になります。

――初めてのムード歌謡で、ファンの方も喜ばれるのでは。

そうですね。僕のファンのみなさんの世代的にはドンピシャですから。デビュー9年でムード歌謡の『捨てられないの』を歌わせていただけるような大人の歌手になりました。成長を感じていただけるかなと思います。

蝶ネクタイマニアとしてバラエティー番組に出演

――先日はトレードマークでもある蝶ネクタイの魅力を伝える指南役として「マツコの知らない世界」にご出演され、話題となりましたね。

僕もびっくりですよ。出演前は、蝶ネクタイでどこまで話を広げられるのだろうという不安もありました。確かに蝶ネクタイが好きで集めていますが、決して整理して取り組んでいるわけではないので、一つひとつの蝶ネクタイについて魅力をプレゼンしようとしても「……」となってしまうんですね。蝶ネクタイのどこが好きなのか、改めて向き合うきっかけになりました。自分の蝶ネクタイ好き度合いもわかったし、350個も持っていることも判明しました(笑)。道理で部屋が圧迫されているんだと納得しました。

――蝶ネクタイについて見つめなおしたことで、五木ひろしさんをはじめとする歌謡界の衣装のお話に広がっていくのも面白いですね。

僕は「紅白歌合戦」が大好きなので、蝶ネクタイの観点から紅白を見ることが新鮮で、そういえば白組の出場歌手のみなさんが蝶ネクタイを着けている時代があったなと。そうすると日本の芸能界におけるファッション史にもつながってくるんですよね。意外と奥深い世界で、なぜこのことについて僕がテレビで喋っているのだろうと不思議でした(笑)。スタジオに350個の蝶ネクタイを飾っていただいた眺めは、我ながら壮観で感激しました。

――8月の終わりには、真田ナオキさんと有観客の配信イベント「三真フェス」を実施されました。イベントを通して、真田さんに対する新たな発見などはありましたか?

きちんとしたイベントとして2人きりで舞台に立つのは初めてでした。YouTubeでの彼の軽い一言から周りの大人たちを動かして(笑)、みなさんにご苦労をかけて、このイベントを実現していただきました。その企画力や人に対する気遣いは間近でひしひしと感じました。気遣いの塊ですね。ステージで長く時間を共有することで、どういう風にしたらお客様に喜んでいただけるのか常に考えているのだと、改めて感じ入りました。僕すらも楽しませてもらい、すごい男だなと思いますね。

広い演歌・歌謡曲の世界を独自の視点で発信

――三丘さんは、YouTubeでの活動も精力的に取り組まれていますが、今後やってみたい新企画はありますか。

YouTubeで懐メロのシリーズをやっているうちに、これまでリリースした自分の曲も、懐メロっぽくアレンジしたらどうなるのだろうと考えています。あえて演歌・歌謡曲以外の令和のJポップを懐メロっぽくやってみたい気持ちもあります。面白いかどうかは別として(笑)。

――今後の活動の予定を教えてください。

まず『釧路発5時35分根室行き』をキャンペーンなど、ステージで歌わせていただくことを本当に楽しみにしています。初めてムード歌謡に挑んだ『捨てられないの』も合わせて、お客様にどんな反応をしていただけるかワクワクしています。演歌・歌謡曲と一口に言っても、さまざまな種類の歌がある多彩な世界であることは、デビューからの自分のオリジナル曲だけを眺めても思います。広い演歌・歌謡曲の世界をより多くの人に発信できればいいなと思います。オンラインであれリアルであれ、僕のオリジナル曲の世界と先輩方が築き上げてきた素晴らしい名曲たちを、僕独自の視点でブレずにお届けし続けたいと思います。

――「うたびと」読者へのメッセージをお願いします。

新曲『釧路発5時35分根室行き』で、9枚目のシングルとなりました。今回は本当に昭和の懐かしい匂いと演歌の魅力が詰まった作品をいただきましたので、またみなさんに可愛がっていただける一曲となるように頑張っていきたいと思います。

三丘翔太『釧路発5時35分根室行き』

三丘翔太『釧路発5時35分根室行き』TECA-23065

発売中

品番:TECA-23065
価格:¥1,500(税込)

【収録曲】

1.釧路発5時35分根室行き
(詞:さくらちさと 曲:水森英夫 編:竹内弘一)
2.捨てられないの
(詞:さくらちさと 曲:水森英夫 編:竹内弘一)
3.釧路発5時35分根室行き(オリジナル・カラオケ)
4.釧路発5時35分根室行き(メロ入りカラオケ)
5.捨てられないの(オリジナル・カラオケ)

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