NHK連続テレビ小説『エール』放送再開記念「もっと知りたい!作曲家・古関裕而」~第1回 福島三羽ガラス~

2020.9.14

新型コロナウイルスの影響で、6月末から撮影を休止していたNHK連続テレビ小説『エール』が、9月14日(月)より再スタート! 戦前から戦後にわたって活躍し、生涯に5000曲もの作品を残した古関裕而の足跡を知って、もっとドラマを楽しんでみませんか?今回は福島三羽ガラスのモデルになった人物たちのエピソード、そして彼らのその後について。


久志と鉄男は本当にいた! ――同郷の友と切磋琢磨

NHK連続テレビ小説『エール』では、主人公の古山裕一(窪田正孝)の幼なじみとして、元ガキ大将の村野鉄男(中村蒼)と“プリンス”佐藤久志(山崎育三郎)が登場する。果たして鉄男や久志のような人物は本当にいたのだろうか?――答えは、イエス。古関裕而には、お互いに切磋琢磨しながら音楽業界で頑張った同郷の友人がいた。

 

鉄男のモデルとなったのは、作詞家の野村俊夫。古関の生家の向かい側にあった魚屋が俊夫の家で、ドラマ同様ガキ大将だったらしい。野村は昭和を代表する作曲家・古賀政男(ドラマでは野田洋次郎演じる木枯正人)と組んだ『湯の町エレジー』や、島倉千代子が歌って大ヒットした『東京だヨおっ母さん』の作詞家としても知られ、後年は日本音楽著作権協会(JASRAC)の理事として音楽業界の発展に務めた。

 

久志のモデルとなったのは、同郷の歌手、伊藤久男。帝国音楽学校に入学した妻の金子(ドラマでは二階堂ふみ演じる音)と同じ声楽科に入学し、偶然にも東京・世田谷の代田にあった古関家のすぐ近くに下宿していたという。伊藤は戦後も歌手として活躍し、古関裕而生誕110周年を記念してリリースされた『あなたが選んだ古関メロディーベスト30』(日本コロムビア)で7位に輝いた『イヨマンテの夜』など、多数のヒット曲を持つ。「NHK紅白歌合戦」では、昭和33年の第9回と、昭和39年の第15回の2度にわたってこの曲を歌い、大喝采を浴びている。

初めて3人で手がけた『暁に祈る』が大人気に

古関の長女が誕生した昭和7年頃、妻の金子(左)と。この前年に野村俊夫と組んで『福島行進曲』を発売した。(福島市古関裕而記念館蔵)

古関と野村がタッグを組んで、昭和6年に発売した『福島行進曲』は、残念ながら当時はさほど話題にならなかった。しかし、昭和15年に古関と野村が手がけ、伊藤が歌った戦時歌謡『暁に祈る』は全国的な大ヒットとなった。この曲は『あなたが選んだ古関メロディーベスト30』(日本コロムビア)でも第16位と、今もなお人々の記憶に残る曲となっている。

 

『暁に祈る』には面白いエピソードがある。

 

日中戦争が始まった昭和12年、『露営の歌』が売れに売れた古関の元へ、「愛馬思想を普及するための松竹映画『暁に祈る』の主題歌を作曲してほしい」という依頼が日本コロムビアから舞い込んだ。この曲で野村が詞を書き、古関が曲を作り、伊藤が歌うという、かねてからの3人の念願を達成する。しかし、野村の歌詞に軍が難色を示し、7回も書き直しを命じられた末にやっと許可が下り、一同ホッとしたという。

 

1番の歌詞の冒頭は「♪あゝ あの顔で あの声で 手柄たのむと 妻や子が~」。「あ」は、書き直しの多さに嫌気がさした野村が、思わず「あーあ」とため息をついたことから生まれたフレーズだと、古関の著書『鐘よ鳴り響け 古関裕而自伝』(集英社文庫)に記されている。古関はその数年前に中国のへ従軍に出かけているが、そこで出会った前線の兵隊たちの顔を思い浮かべ、一気呵成に書き上げた。しかし、冒頭の「あ」のメロディーに悩み、当時、詩吟に凝っていた妻の金子の歌い方がヒントとなって、良い節が浮かんだという。この曲は、伊藤の情熱的な歌声も相まって大衆の胸を打ち、大流行した。

福島三羽ガラスのその後

福島三羽ガラスが手がけた『イヨマンテの夜』の歌合せ中、伊藤久男(右)と。(写真提供:日本コロムビア)

昭和16年、太平洋戦争勃発の日に始まった、JOAK(現・NHKラジオ第一放送)の「ニュース歌謡」は、戦果をニュースと音楽で知らせるというそれまでにない番組だった。最新の軍事ニュースをその日のうちに作曲、放送しなければならないとあって、大変に緊張感のある現場だったという。その大役を担ったのが福島三羽ガラスと、これも偶然に福島県出身の歌手・霧島昇。霧島は当時大人気だったミス・コロムビアの夫であった。特に、12月10日に演奏した『英国東洋艦隊潰滅』は、終戦までさまざまな音楽番組で放送され続けたこともあり、多くの人々の記憶に残る曲となった。

 

福島三羽ガラスはその後、戦後の人々に希望を与えた歌謡曲の世界で、それぞれヒット作を生み出した。野村俊夫は美空ひばりや村田英雄に歌詞を提供、伊藤久男は全国高等学校野球選手権大会の歌『栄冠は君に輝く』(『あなたが選んだ古関メロディーベスト30』第2位)や、インドネシア民謡を下敷きにした『メコンの舟唄』など、人々に愛された豪快な歌声を残している。

 

福島三羽ガラスが手がけた曲は全部で32曲。中には、今も地元の盆踊り大会で聞くことができる『福島音頭』や、幕末の少年兵部隊である二本松少年隊を歌った、その名も『二本松少年隊』など、郷土愛の結晶のような曲もある。惜しむらくは、野村が昭和41年に61歳という若さで亡くなったことだ。伊藤久男は72歳、古関裕而は80歳で亡くなっているが、野村があと10年元気でいたら、福島三羽ガラスの名曲がもっと聴けたのかもしれない。

参考

福島市古関裕而記念館
「あなたが選んだ古関メロディー ベスト30」(日本コロムビア)
「古関裕而――流行作曲家と激動の昭和」(刑部芳則著/中公新書)
「鐘よ鳴り響け 古関裕而自伝」(古関裕而著/集英社文庫)

 

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日本コロムビア 古関裕而特設ページ

URL:https://columbia.jp/koseki/

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古関裕而プロフィール

福島市古関裕而記念館蔵

明治42年、福島県大町に生まれる。昭和5年9月に日本コロムビア入社、以降作曲家として活躍。『オリンピック・マーチ』、『栄冠は君に輝く』、『六甲おろし』など、日本人に愛される数々の名曲を手掛け、全国の校歌や応援歌を含め、生涯に5000曲もの作品を残した。

作品情報

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あなたが選んだ古関メロディーベスト30

古関裕而が作曲した数多くの作品の中から人気投票を実施。人気トップ3『高原列車は行』『栄冠は君に輝く』『長崎の鐘』のほか『オリンピック・マーチ』『六甲おろし』『モスラの歌』『とんがり帽子』などの上位30曲に加え、『フランチェスカの鐘』など4曲をボーナス・トラックとして収録。 2020年4月29日発売/2枚組/COCP-41121-2/¥3,000+税

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